とげねこ

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その影の頭部は透明な何かを被せた円筒で、中は逆光で定かではないが、中央付近には赤い光が輝いていた。
頭部のすぐ下あたりから、外套がすとんと身体を覆い、足元まで起伏なくおりているせいか、出現の唐突さも相まって、幽鬼にように思えた。
「◼︎◼︎◼︎ーー◼︎◼︎ー」
非常に甲高い、不快な音が幽鬼から放たれ、アキラはうっとなるが、両手が塞がっておりどうすることもできない。
どうやら、こちらに向けて音を発しているようだ。意味がわからないでいると、先ほど頸を落とした蜘蛛の死骸を離れて、此方へ近寄ってきた。
「あ…う」
何も出来ず立ち竦んでいるアキラが、すっぽりとその幽鬼が落とす陰に覆われるほど、それの背は高く、近くで見る頭部は、まるで真空管だった。
「---◼︎◼︎」
少し慌てたように、微かにかしゃかしゃという音が外套の中から聞こえてきた。外套が盛り上がり、短い嘴が付いた鳥の頭のようなものを取り出すと、真空管とそれを徐に挿げ替えた。真空管は外套の中へ入っていった。
「-ー---@¥jんす」
嘴がぱくぱくと開閉し、うねるように音が続く。
なんとなく、無線機の周波数を合わせているようにも、楽器の調律をしているようにも聞こえた。
「aaaa—-ooooo——-」
そのうち音程が一定になっていき、「あーあー、わたくしのことばをわかりますか」とまだ少し甲高い声で問いかけられた。
「発話用頭部、久しぶりに使いました」
−日本語?通じるのか?
鳥頭がこちらを覗き込みながら頸を傾げる。
「あ、ああ、分かる、分かるよ」
「それはようございましたね?」
ぎこちない日本語ではあるが、意思疎通が出来そうだ。
「わたくしは、伊−ハ三六です。わたくしには、あなた方を護る使命があります。」
「ところで」つ、と外套の切れ目から枯れ木のように細い鉄の腕のようなものが、アキラの背負われるヒスイを指し示し「蜘蛛の毒がまわっています。とても強力です。だから、わたくしが直しても良いですか。」
妙に落ち着いた感じで同意を求める。
「ヒスイの治療が出来るのか!?さっき刺されて…あっ」
背中のヒスイを優しく地面に降ろして、アキラは叫び仰け反った。
破れた服から覗く背中側の腰の皮膚はぐずぐずになり、中の肉も爛れ溶け落ちている最中だった。
素人目にも一目で、致命的なものだと、ヒスイが死に向かっていると、そしてアキラにはそれをみているだけしか出来ないことを理解した。
「頼む!ヒスイを助けてくれ!ください!お願いします」
アキラは、伊−ハ三六に懇願する。
「承知しました。少し衝撃的ですけど、黙っててくださいね」
そういうと、その手に透明な薄い硝子板のようなものを持つと、それで躊躇いなくヒスイの首を切った。
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※安心と不安のお題です。

1/27/2024, 1:58:53 PM