『愛情』
「まま、学校行きたくない」
駄目だ。行きなさい。そう返されてその日私は大人しく学校に行った。
いつもそうだ
ままは私が学校に行きたくない理由を知っている。その上私に同情もしてくれた。
……なのに休ませてくれないのだ。
学校に着くと、いつも私と喋ってくれているまいちゃんとさきちゃんが私の元へやってきた。
「あのねあのね、ワタシ昨日からわんちゃん飼い始めたの!!」
「えーっ!いいなぁ……わたしも飼いたい」
「でしょでしょ?チワワっていう種類で、名前は───
このふたりは私になんでもないかのように話しかけてくれる。ふたりもみきちゃんと仲が良かったはずなのに。
私とみきちゃんが喧嘩しちゃったから、悪い空気になってしまった。
……ん、……ゆ…ちゃん、あゆちゃん!」
「っえ?!ど、どうしたの?」
「話しかけてもお返事くれないからどうしちゃったのかと思って」
「大丈夫?体調が悪いの?保健室行く?」
「ううん、大丈夫だよ、ありがと」
そう話すと、2人は1時間目が始まるからと席に戻った。
ぼーっと授業を受けていると、後ろからかみひこうきが飛んできた。何かと思って紙を見てみると、
─────、───、───────────
多分これはみきちゃんからのかみひこうきだろう
私が怒るであろう、悲しむであろう言葉が書いてあった。
いわゆるこれはこの前習った「ちくちくことば」というものなのだろう。
そんな空気が続くと、学校に行きたくなくなるのも当然のことだ。と思うのは、私だけなのだろうか。
当時の私は耐えた方だと思う。
耐えたからこそ、みきちゃんとも仲直りができた。
それは、あの時学校を休んで、みきちゃんから逃げていたら
今にはもう関係がなかったかもしれないのだ
あの日、みきちゃんと仲直りした日、ちゃんと彼女と話して、仲直り出来たから今でも交流が続いている。
なんなら、親友と呼んでもいいような仲だ
ははは私達の仲を切らないために、
私を学校に送り出してくれていたのだろう。
『時間よ止まれ』
今日で盆最終日、16日だ。そろそろ帰らなくちゃいけない。
空は真っ赤に染まって、鴉も
もう時間だ、というように鳴いている。
「どうしたの?」
「あ、そうだ!明日は川行こうぜ!」
「えー、この前も言ったじゃない」
「別にいいだろ〜」
周りの子達がそう口々に言い始め、私はハッとした。
明日にはもう居ないと、そう伝えなければならない。
のに、私はまだ彼女たちと遊んでいたいと思ってしまう。
こうして一緒に遊べたのもたまたま、次があるか分からないし。
何より、彼女たちは今まで私無しで遊んでいて、これからも……
彼女らからしたら、いつも遊んでいる中に一人増えただけかもしれない。
でも私からしてみれば、この思い出が後に一生残り続ける気さえする。
「さきちゃん?さきちゃんは明日どこで遊びたいの?」
「あっ、えっとね……それが…」
_______________
「「えーーーっ!」」
「明日にはおうちに帰っちゃうの?」
「うん、そうなんだ」
「学校明日からなの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど……」
「せっかくお友達になれたと思ったのに!」
「来年は?来年は来ないのか?」
「ぇっと……分かんない」
こんな友達なんかできたこともなかったし、日が暮れるまで外で遊んだこともなかった。
友ダチと一緒にスイカを食べたのも初めテだし
一緒二川で遊ンだのモ初めてダった
私が生キ◾︎たら……こレかラも一緒に遊べテタのかナぁ
私が◾︎◾︎で◾︎ら初めて◾︎お盆。
学校◾︎嫌いだったし、パ◾︎とママもあま◾︎好きではなか◾︎◾︎けど。
おばあちゃ◾︎◾︎優しくし◾︎くれたし、◾︎じいちゃんは沢◾︎◾︎◾︎でくれていた。
私の不注意さえなかったら、
川に溺れちゃうなんてこと無かったのに。
あ、おばあちゃんが呼んでいる気がする。
火をつけるんだね!
もっと一緒に沢山すごしたかったなぁ
私の体のように、こんな時間がずっと止まったままならいいのに。
あ、でもそうしたらおばあちゃんには会えないままになっちゃうね。
送ってくれてありがとう、おばあちゃん!
おじいちゃんとこっちで待ってるからね
『私の名前』
「さすがゆりちゃんね、それに比べてゆみちゃんは……こんなことも出来ないの?」
「ほんと、あのころのゆみちゃんはどこに行っちゃったの?」
「お母さんにこれ以上迷惑を________
「おっはよーゆり!」
「あれ、?隣にいるの妹さん?」
「一緒に登校してあげてるのー!?」
「ゆりちゃんやっさし〜」
「ほらー、邪魔ですって、どいてくだいよ〜」
(ドンッ
「っえー、ちょっと当たっただけなのに転ぶとか弱すぎませんかー?」
「双子なのにゆりと全然似てないよねーww」
「わかるー、ゆりはもっと優しくて________
「ごめんゆみ、別れよ、もう付き合ってられない」
「……ほんとどうしたんだよ、最近ゆみらしくないし」
「周りのクラスメイトも言ってるけどさ」
「ほんと変わったよね」
違う違う違う……なんでダメなの?
ゆみはもっと人気で優しくて、可愛くて頭も良くて運動もできる、そう……なんでも出来て……まるで天才で
私じゃだめなの?何が違うの?全く一緒なはずなのに、どこがダメだったの?同じことをしているのに、
「ねぇゆみ!!!!どういうこと?」
「何言ってるのお姉ちゃん、?お姉ちゃんがゆみになりたいって言ったんじゃん」
「だからゆみは”ゆみ”を譲ってあげたのに」
「ちがう、ちがう!!!」
「ゆみはもっと________
「ゆりお姉ちゃんまだ分からないの?」
「どれだけお姉ちゃんが頑張っても外がゆみでも、中身が一緒なんだから変わらないじゃない」
「私たちの見分けが着けられてるのは髪の長さが違うだけ」
「髪の長ささえ変えていれば外見で見分けはつかない」
「みんな私たちを中身で判断してるの」
「お姉ちゃんが私になれるとでも思った?」
「昔はすごくできた子だったゆみと、全く出来なかったゆり」
「今では馬鹿で気も使えないゆみと、天才で気遣い上手なゆり」
「お姉ちゃん、次はどっちになりたいの?」
『優越感、劣等感』
私は臆病者だ。
何をするにも他人の目を気にしたり、余計なプレッシャーを自分にかせてしまったりしている。
私の学校の体育で器械運動という種目があった。
私は全くできない。という訳では無いのだが。なんというか、こう、やりずらい。
男女合同というのもあるかもしれないが。
前転や後転、側転など失敗したり不格好だったりするのではないか。
下手くそだ。
こんなことも出来ないのか。
みっともない。
実際に言われている訳でもないし、特別視線が私に向いているという訳でもない。自意識過剰だということも重々承知だ。
でも尚、恐れを離すことが出来ない。
妹の通知表の結果が帰ってきた。
彼女は私が越えられなかった壁を易々と超えてゆき、私が中学時代得意だったとする数学の内心をも越して見せた。
なのに私に数学の問題を訪ねてくる。
私以上の評価を持つ人がなぜ己以下の人に質問をするのか。
素直でない私は嫌味と受け取ってしまう。
彼女はそうは思っていなくとも、私がそう思ってしまう。
父や母も普段はちゃんと物事をこなすと褒めてくれることはあるが、
妹がこの内心を持ち帰ってからは、私に対して「おまえもこれくらい」という視線が向いているように感じる。
そこで私は勉強すればいいわけだ。
なぜ私が勉強をしないのか。
別に勉強をしていない訳でもないが、自分で首を絞めているとわかっていても
最後の最後までやりきることが出来ない。
私の妹はいわゆるコミュ障というものだろうか。他人と話すのも苦手だし自分の意見も周りに通そうとはしない。
だが何故か彼女は、他人の目は気にしないのだ。
彼女が言うには
自分の知り合いから見られるのはいやだが、赤の他人からどう思われていようが関係ない。
のだそうだ。
私にはそれが理解できなかった。
というかそれを享受できなかった。
そういった点が優秀な彼女と粗悪な私との差なのだろう。
結局私は何が言いたかったのだろうか。
『風に乗って』
チリン
「こら、お供え物なんだから、食べてはいけないよ」
そう声をかけられて伸ばしてた手を引っ込めた。
声をかけられた方へと顔を向けると、頭に変なお耳をつけてふさふさのしっぽを生やした男性がたってたんだ。
「だれ?おにいさん」
「お兄さんはここの管理をしている人だよ」
「だれもたべないのに、たべてはいけないの?」
「それはね、神様のお供え物で───」
そこからそのお兄さんに会うために、学校帰り神社に通った。
ある日、
「ねえ、おにいさんにはおもとだちいないの?」
「んー、そうだねぇ……良かったらなんだけど咲ちゃんが僕とお友達になってくれる?」
「いいよ!私もね、がっこうにおともだちいなくて…おにいさんとおともだちになりたいとおもってたの!」
「そっか、」
「うん!おともだちだから、これからもずっといっしょね!」
中学生にもなると、そんなことはすっかり忘れていて、いつの間にか高校生になっていた。
下校中、珍しく友達の家に近い道から帰っていたこともあって普段とは違う道を歩いていた。
「あ、ここ曲がるわ」
「ほんと?じゃあここまでだね」
「うん、じゃあまた明日ー」
「はーい」
そう言って友達は角を曲がっていった
「にしてもこの道、すごい久しぶりだなー、小学生以来かも」
ギリギリ車が2台も通れなさそうな狭い道を歩いて行く、住宅街で塀が建っているというのもあって余計に狭く感じる。
少し道を歩いていると、どこか懐かしさを覚えた
「あ、この神社懐かしい」
なぜかは分からないが、昔この神社に通っていた記憶がある。まぁどうせ、猫が住み着いていただとか、神社にくるおばあさんがお饅頭をくれたとか、そんな感じだろう。
「にしてもこの階段、こんなにきつかったっけ」
「この桜の木も、昔は大きく感じたのに」
はぁ、
階段を登りきった私は息を着くと、後ろを向いて階段に座った。
瞬間
「昔は小さかったからね、もう来ないと思ったよ。また来てくれたんだ」
何故か振り向けなかった
「なんで、」
「なんで?ずっと一緒でしょう?友達だもの」
動けるようになったと気づき、振り返った時には、そこに何も無かった。
チリン
風に乗って、僅かに鈴の音が聞こえたような気がした。
───
え、待ってオチがついてないんだが?