金蝉子

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4/29/2023, 3:43:21 AM

『刹那』


高校になった僕は何部に入ろうかと悩んでいた2年前のことを思い出した。

特にしたいことも無く、そして部活に熱を入れたい訳ではなく。

こう言っては失礼かもしれないが、とにかく楽そうな部へ。そう思って入ったのが写真部だった。

当時の先輩たちは、僕に、僕たち1年生にとても優しく接してくれて、半年も経つと写真に夢中になっていた。


今も転部はせず、3年生として写真部に居続けている。

あれからいくつか賞を取ったが、最近、いやここ数ヶ月の間はこれだ、と思う写真が撮れていない。


僕自身、風景写真や不思議さ、謎さを感じさせてくれる自然が好きで、そんなような写真ばかり撮っていた。

今まで賞を撮ってきた作品たちもそう



池の水面で反射した、もうひとつの鏡の国


普段見ようと思って見ることのない、花の雄蕊


蟻の目線から見た世界


色々なものを撮ってきたけど、人は撮ってこなかった。
何故って、人を撮るのが苦手だから


そんな中、今はスランプ中で、とりあえず、何でもかんでも手を出してみよう。と思い

人を撮る

という思考に至った。


運動部の姿や、下校する生徒の写真、何種類もの写真を撮っては見たものの、納得いくものは取れなかった。


人は動くから、ここぞと言うタイミングでシャッターを押すのが難しい。

これも僕が人を撮ってこなかった理由の一つだ



そのことを同じ写真部の奴とはなしていると、

同じ写真部で3年の内村さんが来た、彼女は写真部に来るものの、全く喋ったことは無い


彼女のカメラを持つ横顔が好きで、密かに僕は思いを寄せている。

笑ったところを見た事は無いけれど

でも、どこか引かれる儚さがあった。



いつものように横目でチラ、とみていると、開いた窓の間から蝶が入り込んできた

その蝶は、ほかのものには目もくれず、一直線で彼女の構えるレンズの先へ飛んでいくと、彼女が取ろうとしている花に止まった。

それを見他彼女の口角は僅かだけど、確かに上がっていた。


その瞬間、僕の中でなにかがブワッとなって、
彼女に引き込まれたように感じた。




やっぱり人を撮るのは難しい


刹那の瞬間にも、画面に移る1枚は変わってしまうのだから。

4/27/2023, 10:52:37 AM

『生きる意味』


「林先生、私どうすればいいですか」

「大丈夫よ石田さん、私が貴方の味方だわ」




屋上から飛び降りようとしていたところ、担任の林先生に止められた。


中学の頃から始まって、高校になっても続いている、私へのイジメ。

全てはお父さんが悪い、と何度思ったことか、
お父さんが、お父さんが殺人さえ犯さなければこんな苦しめられることは無かった。
お母さんも、あんな人に縋るなんて、、馬鹿みたい

クラスメイトは変わっていても私の生活は変わらなかった。そんな中先生は私の味方をしてくれた

イジメを受けている、というアンバランスな生活が私の思考をネガティブにする


「ねぇ?アンタまだ学校にいたの?」

「うっわ、図太〜、ってか執拗い」


アハハwまじそれな〜?ww



彼女らは笑いながら私に肩をぶつけて通りすぎて行く。

私を虐めているのは彼女らでは無い。別の子達である。でもそれが広まって、今は他の子達からもこんな扱いだ。



「うーん、あの子どうすれば……、」

「どうしたんです?林先生」


「あっ、いえ……久保先生、」

「ははぁさてはまた、あの石田さんですか」


「あ、いえ、彼女は別に、!」

「そんな生徒1人だけに目を向けてないで、学級内の他の成績上位者のためにも、よろしくお願いしますね」

「……はい……、、」


──────林さん、私が貴方の味方になるわ




「先生、私頑張ります」


私は勉強だけは辞めなかった。

彼女は両親でさえもしてくれなかった私の味方をしてくれていた、そんな人のためにも、と。

テストの成績は上位で、その度に先生は自分の事のように褒めてくれた。



それが何より励みになった。







「石田先生、もう私学校にきたくない……沢山我慢した、」


「お父さんは帰ってこないし」

「お母さんもお酒がないと、気が立って……」


「どうすればいいのかなぁ、」

私が空き教室で首を吊ろうとしていたところを止めた石田先生、私の担任の先生で、苦、という言葉を知らなさそうな顔をする先生。


「そっか、話してくれてありがとう」

「私が貴方の味方になる、大丈夫貴方にも味方がいるよ」


石田先生は、高校時代の話をしてくれた

4/21/2023, 1:59:29 PM

『雫』


ぽた、ぽた、雨戸から石の上にしずくが落ちる。



「ほらー、本ばっかり呼んでないで、少しは勉強しなさい!」

毎日毎日、母親というものは勉強への催促しか声掛けできないのだろうか。


そんなことを考えながら読んでいる本のページを進めた。読み進めていると、ひとつの言葉が目に止まった。


とたん、胸がドキリとした。




それからの僕の行動は一風変わった。
勉強も進んでやったし、志望校もレベルの高いところを目指した。

沢山勉強をした、朝起きたらまず今日の予習、帰ったらワークを進めて、夜には単語を覚える、休日には昼間復習も挟んだ。受験に向けてたくさん頑張ったんだ。

なんの取り柄のない、こんな僕でも。


でも、現実は優しくなくて、

「君、本当にこんなレベルの大学へ行くんですか?」

「は、はい、なにか……」

「少し厳しいことを言うけど、あなたの力でここはきついと思います」


数日前の放課後、先生とこんな会話をしてからはもっと勉強を詰め込んだ。

何事も努力、努力、努力





試験当日になった。

頭の良さそうな人達ばかりだ。倍率も高く、とても入りずらいところであるここは、試験開始まで時間があるにもかかわらず、ほとんど人が揃い髪をめくる音だけが聞こえていた。


正直、そこからの記憶はもうない。

張っていた糸がプツリと切れたように、何もする気が起きなくなった。

合格発表が怖い。

受かっていれば実力がちゃんと身についていたということ、


落ちていればそこまでだ。






やっぱりそうだ、

継続は力なり。努力はこんな僕にもできるものだった。

小さな積み重ねが明日への一歩を切り開く



僕の目に止まったひとつの言葉、それは


『雨だれ石を穿つ』






雨戸の下の石には深い穴が空いていた。


───
『』の中の意味、良ければ調べてみてください

4/20/2023, 11:17:18 AM

『何もいらない』


「今日は私のためにお集まり頂き、ありがとうございます」

私の誕生日会が始まってから既に数時間経っていた。
お父さんの友達の社長さんからお母さんのお茶友達、親戚の人までたくさんの人たちが出席していた。

私が両親と共に挨拶をして回っていると、少し離れたところから声をかけられた

「ほんとにいい娘さんねぇ、テストの成績も良くて、スポーツもできてしまうなんて、ほら、バスケ部のキャプテンをやっているんでしょう?」

「生徒会もやっているんだとか、流石ですな」

「はは、いえ、これくらいできて当たり前ですよ」

「まぁ、おふたりの教育がよろしいのね」


こんな会話がされている中、私は笑顔を絶やさずお客様の方を向いてたっている。



お父さんは財閥の社長で、お母さんは病院の医院長の娘、今ではお兄さんが継いでいるらしい。

そんな両親に私は、私をちゃんと見て欲しかった。

いつもから返事で相手にして貰えないり

私は見てもらうためにならなんでもやった。


沢山勉強もしたし

沢山スポーツでいい成績も収めた

沢山家事の手伝いもしたし

沢山、沢山、なんでも、


それも全部だめだった。何も変わらなかった。
次に私は色々なものをねだった。

参考書にぬいぐるみ、食べ物からアクセサリー

どれだけ高価なものをねだっても、私の手元に来た。

望んだものは全て手に入った。




両親からの目(あい)以外は。

周りからしたら高価なほど価値があるかもしれない。
けれど私にとって宝石はただの石と変わりなかった。


何をしても無駄なのならば、


本当に欲しいものが手に入らないのならば、


私は他に何もいらない。

4/19/2023, 2:20:26 PM

『もしも未来を見れるなら』


私には生まれつきあるちからがあった。
それは普通の人には無いもので、親にそれを言うと、笑って、冗談でしょう。と言われた。

もう高校生にもなると、このことは他人には話すべきでは無い。という雰囲気を感じてからは、誰にもこの話はしていない。

このちからは以外にも使えるもので、何でも「未来」が見えてしまうのだ。しかしそれは私が操作できるものではなく、見えたと思うと、それがすぐあとの出来事だったり、はたまた1年先の事だったりする。


「はぁ。部活疲れたなぁ」

そんなことを呟きながら私は通学路を歩いていた。
そろそろ日が沈みそうで、近くの公園では子供たちが遊んでいた。
元気だなぁ。そんなことを思いながら公園の出入口に差し掛かった時、転がったボールを追いかけて小さい男の子が飛び出してきた。


その男の子を少し目で追って、私は直ぐにハッとした。
道路の方を見ると少し先の方からトラックが走ってきていた。

運転手の人この子が見えてないのかな。

私はとにかく焦って、男の子に向けて叫んだが止まってはくれなかった。
それどころか道路の真ん中で転がったボールを拾うためにしゃがんでいた。

私は何とか助けようと、右足を前に出した。



───そこで私は体を止めた。

次の瞬間、なにかぶつかった大きい音と共に私の目の前から男の子の姿が消えた。

辺の人が音を聞いてか、辺りに集まってきた。

交通事故?トラックが少年にぶつかったんですって。うわぁ。子供は見ちゃ行かん。可哀想。おい、誰か救急車を呼べ!


そんな言葉を背景に、私は家に向けて足を進めた。
私の体は何故か男の子を前に動かなかった。
トラックに引かれる、なんてこと分かっていたのに。


ほんの一瞬、私の体が止まる前、なにか見えたような気がした。

それは確かに



倒れた私のそばで泣く、男の子の姿だった。

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