『雫』
ぽた、ぽた、雨戸から石の上にしずくが落ちる。
「ほらー、本ばっかり呼んでないで、少しは勉強しなさい!」
毎日毎日、母親というものは勉強への催促しか声掛けできないのだろうか。
そんなことを考えながら読んでいる本のページを進めた。読み進めていると、ひとつの言葉が目に止まった。
とたん、胸がドキリとした。
それからの僕の行動は一風変わった。
勉強も進んでやったし、志望校もレベルの高いところを目指した。
沢山勉強をした、朝起きたらまず今日の予習、帰ったらワークを進めて、夜には単語を覚える、休日には昼間復習も挟んだ。受験に向けてたくさん頑張ったんだ。
なんの取り柄のない、こんな僕でも。
でも、現実は優しくなくて、
「君、本当にこんなレベルの大学へ行くんですか?」
「は、はい、なにか……」
「少し厳しいことを言うけど、あなたの力でここはきついと思います」
数日前の放課後、先生とこんな会話をしてからはもっと勉強を詰め込んだ。
何事も努力、努力、努力
試験当日になった。
頭の良さそうな人達ばかりだ。倍率も高く、とても入りずらいところであるここは、試験開始まで時間があるにもかかわらず、ほとんど人が揃い髪をめくる音だけが聞こえていた。
正直、そこからの記憶はもうない。
張っていた糸がプツリと切れたように、何もする気が起きなくなった。
合格発表が怖い。
受かっていれば実力がちゃんと身についていたということ、
落ちていればそこまでだ。
やっぱりそうだ、
継続は力なり。努力はこんな僕にもできるものだった。
小さな積み重ねが明日への一歩を切り開く
僕の目に止まったひとつの言葉、それは
『雨だれ石を穿つ』
雨戸の下の石には深い穴が空いていた。
───
『』の中の意味、良ければ調べてみてください
4/21/2023, 1:59:29 PM