金蝉子

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『刹那』


高校になった僕は何部に入ろうかと悩んでいた2年前のことを思い出した。

特にしたいことも無く、そして部活に熱を入れたい訳ではなく。

こう言っては失礼かもしれないが、とにかく楽そうな部へ。そう思って入ったのが写真部だった。

当時の先輩たちは、僕に、僕たち1年生にとても優しく接してくれて、半年も経つと写真に夢中になっていた。


今も転部はせず、3年生として写真部に居続けている。

あれからいくつか賞を取ったが、最近、いやここ数ヶ月の間はこれだ、と思う写真が撮れていない。


僕自身、風景写真や不思議さ、謎さを感じさせてくれる自然が好きで、そんなような写真ばかり撮っていた。

今まで賞を撮ってきた作品たちもそう



池の水面で反射した、もうひとつの鏡の国


普段見ようと思って見ることのない、花の雄蕊


蟻の目線から見た世界


色々なものを撮ってきたけど、人は撮ってこなかった。
何故って、人を撮るのが苦手だから


そんな中、今はスランプ中で、とりあえず、何でもかんでも手を出してみよう。と思い

人を撮る

という思考に至った。


運動部の姿や、下校する生徒の写真、何種類もの写真を撮っては見たものの、納得いくものは取れなかった。


人は動くから、ここぞと言うタイミングでシャッターを押すのが難しい。

これも僕が人を撮ってこなかった理由の一つだ



そのことを同じ写真部の奴とはなしていると、

同じ写真部で3年の内村さんが来た、彼女は写真部に来るものの、全く喋ったことは無い


彼女のカメラを持つ横顔が好きで、密かに僕は思いを寄せている。

笑ったところを見た事は無いけれど

でも、どこか引かれる儚さがあった。



いつものように横目でチラ、とみていると、開いた窓の間から蝶が入り込んできた

その蝶は、ほかのものには目もくれず、一直線で彼女の構えるレンズの先へ飛んでいくと、彼女が取ろうとしている花に止まった。

それを見他彼女の口角は僅かだけど、確かに上がっていた。


その瞬間、僕の中でなにかがブワッとなって、
彼女に引き込まれたように感じた。




やっぱり人を撮るのは難しい


刹那の瞬間にも、画面に移る1枚は変わってしまうのだから。

4/29/2023, 3:43:21 AM