「なんだこのお題は」
「どうしたの?」
「ずいぶん近代的なお題だなとおもってな」
「最近でもそんな昔でもないんだ」
「18世紀のスウェーデンの化学アカデミー界が活発だった頃の話だ」
「へー、そうなんだ」
「大規模設備の必要な重元素しか見つからないものは残ってないようになって、そのあとは大型加速器を使った新元素の発見に移っていったわけだ」
「へー、そうなんだ」
「いや、こういったお題は科学的素養をあまり求めるものが少ない。それはハードルを下げている意味もある。しかし、こういったお題で酸素が出るということは、日本の教育レベルでは酸素を扱うことはおかしくないと思われている、もしくは出題者はそう考えたのだろう」
「へー、って長いよ!」
「そうして考えると、そのお題から見えないけど欠かせないものなんて考える作家と、水につながる作家で違いがありそうだな」
「へー、……なんで水?」
「ん?」
「ん?」
「Dihydrogen Monoxide」
「ん?」
お題『酸素』
「記憶を海に例えるメタファーはディラックを想起させられるがSF好きでもなければそのままの小説かスクールデイズなんかが出てきたりするのでは。なんていうのはどうだろうか?」
「今日はいつものと違う?」
「ところで」
「ところで?あ、戻った」
「何が戻ったかはともかくとして、海と記憶はなんだろう、自分のものであるのに直接触れることができない記憶と、実際に触れられるのは海の一部で全体ではない。そんなイメージがあるね。そこから人とものを飲み込んでしまう。忘れ去られた記憶、しかしふと何かの折に海岸にもどってくる過去の何か、そういったものを想起させる。それゆえ海なのか。なんて思ったり、思われたりしているわけだ」
「ながいよー」
「記憶と海には類似性がある」
「短くてわからん」
「君の記憶の海は広いようだ」
「だから、わからんてば」
「ところで『記憶の海』という作品は短期記憶しかできない記憶障害が扱われたりしていてね」
「あ、なんか聞き覚えがある話」
「『博士の愛した数式』あたりがこのテーマだと著名だったりする」
「よくわからないけど、なんかすぐ忘れちゃうやつでしょ。親近感があるなー」
「そうか。それは良かった」
「良いか悪いかはわからないけど、親近感がある。あれ、なんで親近感があるんだろう」
お題『記憶の海』
「いつものようにだが」
「いつもの?」
「いや、いつものとはちょっと違う」
「どう違うのか、そもそも何の話?」
「いや、このお題というのは基本書く人が見るわけで」
「シェアした場合は違うけどね」
「まあ、それは横に置いておいて」
「はい。横におきました」
「つまり、他の人の文章を読んだときはお題を知っているわけだ。だから、お題に沿って別の作者がどんなものを書いたか?というメタ認知がすでに働いている」
「言われてみればそうね」
「ということは、読む層はさっきのシェアとかを除けば書く習慣での作者たちである。そして他の人がどんなテーマで書いているかもわかっている」
「そこまで意識しているかはわからないけどね」
「いや、そういった意味で文章を書く練習にもなっているというのは興味深い」
「あー、学校で他の人の作文を見るみたいな感じなのかなー」
「いや、受験校だと書き方のテンプレートと教師受けの良い書き方をすでに学んでいるのでちょっと違う」
「へー」
「そして対人関係でも無難な方法を学んだりもする」
「へー」
「ここまで内面を晒すのは君にだけだけどね」
「へ、へー」
お題『ただ君だけ』
「なんというか」
「なんというか?」
「未来と船、この言葉がつながるとノアの方舟と未来、つまり未来へ残したいものというメタファーを感じる」
「そう?それで」
「メタ的な視点で見れば、そう感じた作者たちがそういった作品を書くように思われる」
「あー」
「それを意図したお題のように見えるし。SFで見れば亜光速までに加速した宇宙船が地球に戻ってきたときに元の時代から数百年、数万年、それ以上だっていたというのは良くあるパターンだ。宇宙船の内部は相対性理論による時間の遅延でほとんど時間が経っていないという」
「定番ネタなのね」
「それを踏まえると、未来へのメッセージがどうかというところに作者性が現れるとも言える。SFとかを問わずに」
「で、本当に言いたかったことは?」
「作者はお腹が空いていて未来のことを考える余裕がない。というのが今の作者の考えだな」
「そう。このパターンできたか」
「つまりエッセイだな」
「エッセイといえば許される!?」
お題『未来への船』
「これはなかなか深淵なる問題だ」
「いきなり何の話?」
「今回のお題が森林ということについて考えてみた」
「あー、今回は作者目線なのね」
「鋭いね。君もメタ視点に慣れてきたようだね」
「メタメタな視点の話は良いから、何が深淵なの?」
「そう、日本は世界有数の森林国で、国土の約7割が森林である」
「まあ都市部にいるとわからないけどね」
「それもそうで、日本の国土の約7割が山であること、そしてそのほとんどが森林であることと関係している」
「昔習った気がするわね」
「そう。そして人は山野や森にはほとんど住まない」
「そうね」
「だから、このテーマを選んだのはどういった心理なんだろう?と作者が疑問に思ったわけだ」
「もしかして深淵というのは、森が深いなんて意味じゃないよね?」
「……」
「……」
「それはさておき、静かな森というと森のクマさんが想起される人もそれなりにいると思う」
「そうね。歌詞に森の中ってあるからね」
「つまり静かな森は……」
「また微妙にホラー風味に走ってる!」
「ほう?君は知っているようだね。元々の英語の歌詞を」
「あなたが教えてくれたんでしょ!」
「ところで」
「ところで?」
「ここは熊が出たことがあるらしいけど、スプレーと鈴は持っているかね?」
「!!!」
お題『静かなる森へ』