300字小説
俺と使い魔
曽祖父の記録にあった山頂に佇む巨大鷲の姿に俺は目の前が真っ暗になった。いい加減だった曽祖父が無責任に
『待ってろ』
と命じて放置していた使い魔。健気に命に従っていた姿に罪悪感が胸を刺す。
『やっと戻って来てくれたんだね』
喜ぶ姿に俺は曾孫だとも言えず頷く。
「独りぼっちにして悪かったな。これからはずっと一緒だ」
君を最初に見た時から、彼と違うのは解っていた。震える声で
「すまなった」
と僕に抱きついたとき、僕は僕の意思で君といたいと思った。
僕に掛けられた契約魔法を解除する方法を探し出して、僕を自由にしようと旅を始めた君。
彼と間違えているふりで一緒にいるけど、魔法が解けたら僕は君と契約して君の使い魔になるんだ。
お題「待ってて」
300字小説
時を越える想い
暴れ川がまた大暴れして、大勢の村人を呑み込み、田んぼにたくさんの岩や石が入ってしまった。
「もう、この村は駄目だ……」
皆、伝手をたどって村を出る。うちも親戚を頼って、ここを去る。
「何をしてるんだ?」
おとうの声に振り返る。
「……寛ちゃん達のことを誰かに伝えたくて」
ここに村があったこと。その村に産まれ育った子供達がいたこと。川に呑まれる前まで精一杯生きて暮らしていたこと。
おらは村の道祖神様の横に丸い石を重ねた石仏様を置いた。
昔、ここは長らく廃村だったけど、高度成長期に宅地が造られ、今は賑やかな街になっている。
道端に昔の村の入口跡の道祖神を見つける。その隣の丸い石仏様に私は庭からとってきた花を供えた。
お題「伝えたい」
300字小説
賛美歌の流れるなかで
祖母がこの惑星に来るとき、移民船団の中の数隻が致命的な事故を起こした。
他の船に乗り換えたが、祖母の友人を含む、船一隻分の人々はどうしても置いていかざるえなかった。
『我々はこの場所で留まる』
祖母は断腸の思いで船に別れを告げたという。
そんな話を思い出しながら、遭難船に乗り込む。俺の仕事はトレジャーハンター。『墓荒らし』と揶揄する者もいるが。
居住区に乗り込み、物色する。とある家では、住人全ての遺体がベッドで横になっていた。
バッテリーで電源を復活させる。途端に音楽が流れ出す。
「驚かせるなよ……」
美しい女性の声で朗々と響く賛美歌。この歌を祖母が感慨深げに聞いていたことを思い出し、俺はそっと祈りを捧げた。
お題「この場所で」
300字小説
心残り
『誰もがみんな無視していくのにキミは気づいてくれたんだ!』
学校の理科準備室で見つけてしまった女子学生の霊に俺は頭を抱え込んだ。
この霊視のせいで、これまでどれだけ酷い目にあったことか。霊を成仏させるには心残りを晴らさなければならない。
「出来る範囲でやってやるから話してみろ」
やれやれと肩を竦めた俺に霊は目を輝かせた。
映画にテーマパーク。ランチとカフェは俺が一人で食べたけど、霊の言うとおり、一日中遊ぶ。
夜のイルミネーションカーニバルを見た後、霊は心残りが晴れたと笑った。
「こんなんで良いのか?」
『うん』
その身体が薄くなっていく。
『大好きな男の子とデートが出来たんだから、もう心残りはないわ。ありがとう』
お題「誰もがみんな」
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花束の人
「今回も……」
毎演、初日と千秋楽に送られてくる花束。花屋を通して匿名で送られてきている。
「本当に誰からかしらね」
初めての舞台からずっと。それはいつしか私の芸能界で生きる支えになっていた。
父が亡くなり私は遺品の整理に久しぶりに実家に帰った。父一人娘一人。父は私が芸能人になるのに大反対で家出同然に上京して今の事務所に入って以来、ほとんど会っては無かった。
「これは……」
机の引き出しからスクラップブックを見つける。私の記事を集めたそれには花屋のレシートが何枚も挟まれていた。日付は全て、私の舞台の初日と千秋楽。
「お父さん……」
最後のページには私の次の舞台のチケット。使われなかったそれに、私は泣き崩れた。
お題「花束」