いぐあな

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300字小説

時を越える想い

 暴れ川がまた大暴れして、大勢の村人を呑み込み、田んぼにたくさんの岩や石が入ってしまった。
「もう、この村は駄目だ……」
 皆、伝手をたどって村を出る。うちも親戚を頼って、ここを去る。
「何をしてるんだ?」
 おとうの声に振り返る。
「……寛ちゃん達のことを誰かに伝えたくて」
 ここに村があったこと。その村に産まれ育った子供達がいたこと。川に呑まれる前まで精一杯生きて暮らしていたこと。
 おらは村の道祖神様の横に丸い石を重ねた石仏様を置いた。

 昔、ここは長らく廃村だったけど、高度成長期に宅地が造られ、今は賑やかな街になっている。
 道端に昔の村の入口跡の道祖神を見つける。その隣の丸い石仏様に私は庭からとってきた花を供えた。

お題「伝えたい」

2/12/2024, 11:21:26 AM