300字小説
花束の人
「今回も……」
毎演、初日と千秋楽に送られてくる花束。花屋を通して匿名で送られてきている。
「本当に誰からかしらね」
初めての舞台からずっと。それはいつしか私の芸能界で生きる支えになっていた。
父が亡くなり私は遺品の整理に久しぶりに実家に帰った。父一人娘一人。父は私が芸能人になるのに大反対で家出同然に上京して今の事務所に入って以来、ほとんど会っては無かった。
「これは……」
机の引き出しからスクラップブックを見つける。私の記事を集めたそれには花屋のレシートが何枚も挟まれていた。日付は全て、私の舞台の初日と千秋楽。
「お父さん……」
最後のページには私の次の舞台のチケット。使われなかったそれに、私は泣き崩れた。
お題「花束」
2/9/2024, 12:25:52 PM