いぐあな

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1/24/2024, 11:25:53 AM

300字小説

逆光の写真立て

「なんでこんなものを持って帰ってきたんだろう」
 突然死した先輩の形見分け。皆が服等を頂くなか、俺は何故か棚の写真立てを頂いた。
 夕焼けを背景に逆光で人が黒々と佇んでいる写真。俺は首を捻りながら、机の上に飾った。

「……何か聞こえる」
 形見分けから数ヶ月。家に帰ると何か声のようなものが聞こえる。耳に手を当て、音の方向を探る。
 机の上、あの写真からだ。よく見ると逆光の人物は……、
「先輩!!」
『ここから出してくれ!!』
 俺は悲鳴を上げて、写真立てを放り投げた。

「なんでこんなものを持って帰ってきたんだろう」
 ゴミ捨て場から帰って気が付くと、何故か写真立てが手にあった。首を捻りながら、私はそれをテーブルの上に飾った。

お題「逆光」

1/23/2024, 1:06:22 PM

300字小説

夢の世界には

 目覚めると俺は違う世界にいた。鉄の馬車が走り、鉄の鳥が飛び、電気とやらで掃除も洗濯も料理も簡単に出来る世界だったが、軽く宙に浮いたり、手に火精や水精を呼ぶ魔法を使ってみせるだけで、テレビ局とやらに引っ張りだこになった。そんなある日
『まだ寿命が残っていたのに異世界転生させちゃたの。ごめんね』
 女神様とやらが現れて、暴れ馬に跳ねられた俺は施療院のベッドで目覚めた。

「……意識のない間、こんな不思議な夢を見たんだ」
 今日も冒険者として、地味な依頼をこなし、報酬を稼ぐ。
「夢では楽に暮らせたんでしょ。目覚めてイヤにならない?」
 女剣士の問いにニヤリと笑う。
「そうでもないさ。あの夢にはお前が出てこなかったからな」

お題「こんな夢を見た」

1/22/2024, 12:21:24 PM

300字小説

過去の私からの手紙

 パートと買い物から帰ると郵便受けに一通の手紙が入っていた。
「……懐かしい……」
 高校の授業で『未来への自分』宛に出した手紙だ。開くと、あの頃流行って練習した丸い文字が並ぶ。まるでタイムマシーンに乗って、高校生の自分に戻ったみたいだ。
『秀樹くんとは仲良くしてますか?』
 の文字に苦笑する。
 夫とは二人の子供が出来た今、倦怠期を通り越して空気のような関係だ。でも……。
「あの頃は手を繋ぐだけでドキドキしたけど、今の何でもない話をして穏やかに過ごすのも乙なのよね」
 買い物袋を片付ける。今夜は家族みんなが好きな鍋だ。冬の透明な夕日の光が薄く差し込む。
「今夜は二人でビールでも飲もうか」
 私は小さく笑って土鍋を出した。

お題「タイムマシーン」

1/21/2024, 12:02:02 PM

300字小説

『田の神様』のお泊まり

 今夜は村の家々が持ち回りで『田の神様』を迎える特別な夜。
 ご近所の手も借りて、玄関と客間と風呂場を綺麗に掃除し、お神酒にお供え物を用意する。
 『田の神様』を紋付袴姿で祖父が田圃まで迎えに行き、背負って戻ってくる。客間に御膳を用意し、召し上がって頂き、お風呂に案内して、その間に客用布団を敷く。そして、一晩泊まって頂いた後、また背負って田圃にお帰り頂くという。
「全く、今どき……」
 俺と兄は今夜は居間で一晩過ごす。兄がぶつくさボヤく。
『すまんのう。御手洗に行ったら迷ってしまって、客間はどっちかの』
「客間ならこの廊下を真っ直ぐ行って右手の襖の奥です」
『ありがとう』

「今の誰だ?」
 思わず俺は兄と顔を見合わせた。

お題「特別な夜」

1/20/2024, 12:23:19 PM

300字小説

海の都の少年

 子供の頃、浜辺で遊んでいると、いつの間にか、まぎれ込んでいる男の子がいた。黒髪の麗顔の少年は、皆が誘っても浜辺からは離れようとせず
「お祖母様がお待ちだから」
 と、いつの間にかどこかに帰っていった。

 そんなことを思い出しながら、久しぶりの帰省で海に行く。のんびりと泳いでいると身体が沖へ、あっという間に流される。離岸流だ! と焦ったとき
「大丈夫だ」
 あの少年が現れた。私の身体を抱えて泳ぎ、岸まで送ってくれる。
「ありがとう。何かお礼をさせて」
「構わぬが、其方、史跡を回るのが趣味だと言うたな。ならば、母上の墓に参られたとき、私は海の底の都で幸せに暮らしていると告げてくれ」
 そう頼み、少年の姿は波間に消えた。

お題「海の底」

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