300字小説
海の都の少年
子供の頃、浜辺で遊んでいると、いつの間にか、まぎれ込んでいる男の子がいた。黒髪の麗顔の少年は、皆が誘っても浜辺からは離れようとせず
「お祖母様がお待ちだから」
と、いつの間にかどこかに帰っていった。
そんなことを思い出しながら、久しぶりの帰省で海に行く。のんびりと泳いでいると身体が沖へ、あっという間に流される。離岸流だ! と焦ったとき
「大丈夫だ」
あの少年が現れた。私の身体を抱えて泳ぎ、岸まで送ってくれる。
「ありがとう。何かお礼をさせて」
「構わぬが、其方、史跡を回るのが趣味だと言うたな。ならば、母上の墓に参られたとき、私は海の底の都で幸せに暮らしていると告げてくれ」
そう頼み、少年の姿は波間に消えた。
お題「海の底」
1/20/2024, 12:23:19 PM