300字小説
過去の私からの手紙
パートと買い物から帰ると郵便受けに一通の手紙が入っていた。
「……懐かしい……」
高校の授業で『未来への自分』宛に出した手紙だ。開くと、あの頃流行って練習した丸い文字が並ぶ。まるでタイムマシーンに乗って、高校生の自分に戻ったみたいだ。
『秀樹くんとは仲良くしてますか?』
の文字に苦笑する。
夫とは二人の子供が出来た今、倦怠期を通り越して空気のような関係だ。でも……。
「あの頃は手を繋ぐだけでドキドキしたけど、今の何でもない話をして穏やかに過ごすのも乙なのよね」
買い物袋を片付ける。今夜は家族みんなが好きな鍋だ。冬の透明な夕日の光が薄く差し込む。
「今夜は二人でビールでも飲もうか」
私は小さく笑って土鍋を出した。
お題「タイムマシーン」
1/22/2024, 12:21:24 PM