いぐあな

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300字小説

『田の神様』のお泊まり

 今夜は村の家々が持ち回りで『田の神様』を迎える特別な夜。
 ご近所の手も借りて、玄関と客間と風呂場を綺麗に掃除し、お神酒にお供え物を用意する。
 『田の神様』を紋付袴姿で祖父が田圃まで迎えに行き、背負って戻ってくる。客間に御膳を用意し、召し上がって頂き、お風呂に案内して、その間に客用布団を敷く。そして、一晩泊まって頂いた後、また背負って田圃にお帰り頂くという。
「全く、今どき……」
 俺と兄は今夜は居間で一晩過ごす。兄がぶつくさボヤく。
『すまんのう。御手洗に行ったら迷ってしまって、客間はどっちかの』
「客間ならこの廊下を真っ直ぐ行って右手の襖の奥です」
『ありがとう』

「今の誰だ?」
 思わず俺は兄と顔を見合わせた。

お題「特別な夜」

1/21/2024, 12:02:02 PM