300字小説
変えられた未来
「どうして……!」
処刑台で命を散らす夢に私は飛び起きた。そう、私は前世、悪役令嬢として、民衆の怒号の中、処刑され、時をループして生まれ変わったのだ。このままなら五年後、私はまた処刑台に立つ。ぐっと拳を握る。
「きっと、未来を変えてみせる!」
「どうして……」
そして五年後、私はまた処刑場にいた。五年間、前世の記憶を頼りに性格を変え、生活を変え、親達の考えを変え、付き合う人々を変え、あらゆる手を尽くしてきたが、私の未来を変えることは出来なかった。ただ一つ出来たのは。
「どうしてなんだ!」
一緒に処刑されるはずだった彼の未来を変えること。今、処刑場の柵の向こうに彼がいる。その結果に笑みながら私は段を登った。
お題「どうして」
300字小説
夢見た世界
企画を出したとき、何故、お前の過去の繕いに金と労力を払わなければならないのだと笑われた。
だから、それらしい目的と計画を立て、地道に人々が夢中になりそうな夢を集めた。宇宙、異世界、リゾート地、故郷。それらに体験型VRをプラスし、好きな時に何時でも見られる夢の機械、ドリームマシンと名付け、販売した。そして、更なるバージョンアップの為と、体験者からの要望を集め、それを密かに自分のマシンに編集し……。
生命維持装置を着け、ベッドに横たわりドリームマシンを起動する。目を閉じれば……。
『ただいま!』
『おかえりなさい』
『帰ってきたか』
憧れていた暖かな子供時代。私はようやく私の思い焦がれた夢をずっと見続ける。
お題「夢を見てたい」
300字小説
幻の家
叔母が突然いなくなったと聞いたとき、私は自殺を疑った。旦那さんと息子さんを川の事故で無くしてから、ずっと実家で引き篭もりになっていたから。
でも、叔母を以前、叔母家族が暮らしていた街で見たという連絡が入り、頼まれて私は様子を見に行った。
「……うそ……」
街の外れ、取り壊し空地になったはずの叔母の家が当時のままにある。塀の向こう、キャッチボールをする旦那さんと息子さん。部屋では叔母が笑みながら、おやつを用意している。
有り得ないはずの光景を、どこからか湧いた霧が飲み込んでいく。
「叔母さん!」
私の声に叔母さんが手を振る。
「ずっとこのままでいさせて」
霧は濃くなり、家を包む。晴れるとそこは空地に戻っていた。
お題「ずっとこのまま」
300字小説
予行演習
「そっちじゃない。お前はこっちの方角に逃げろ」
「向こうの角で曲がって南に向かえ」
1月も中頃。二月に向け、俺達は逃走経路を確認する。初めての者は念入りにぶつけられた豆の痛さにパニックにならないように確認を重ねる。
「お疲れ様です」
神社の境内にふくよかな匂いが流れる。福の神達の振る舞い酒。本番さながらに虎の皮のパンツ一枚の、寒さが身に染みる俺達には本当にありがたいことだ。
「毎年すみませんね」
「いや、これで人々が息災で過ごせるなら」
二月三日の夜に鬼を追い出し、福の神を迎える。今は恵方巻きとやらの方が盛んだが、それで人々の憂いが晴れるなら。
コップ酒を片手に夜空を見上げる。白い息がふわりと上がっていった。
お題「寒さが身に染みて」
300字小説
二十歳の神事
この家には二十歳の夜に行われる神事がある。二十歳になった者は三宝に酒の入った瓶子と盃を乗せ、家の一番奥の神棚の部屋に参る。そして、家神様と一夜を共にするという。
今夜、私はその神事を行う。しんと静まり返った夜半過ぎ。カタカタと神棚が鳴り、扉が開く。家神様が三宝の前に降り立ち、私に問う。
「酒は好きか?」
「まだ飲んでませんが、おそらく」
「そうか」
家神様が盃に酒を注ぐ。
「なら、儂がお前に正しい飲み方を教えてやろう」
うちの家神様は酒好きで、代々二十歳の子と酌み交わし、楽しい酒を飲む術を教えていらっしゃる。
「ご教授ありがとうございました。気をつけて参ります」
神棚に手を合わせ、私は初めての飲み会に向かった。
お題「20歳」