いぐあな

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300字小説

予行演習

「そっちじゃない。お前はこっちの方角に逃げろ」
「向こうの角で曲がって南に向かえ」
 1月も中頃。二月に向け、俺達は逃走経路を確認する。初めての者は念入りにぶつけられた豆の痛さにパニックにならないように確認を重ねる。
「お疲れ様です」

 神社の境内にふくよかな匂いが流れる。福の神達の振る舞い酒。本番さながらに虎の皮のパンツ一枚の、寒さが身に染みる俺達には本当にありがたいことだ。
「毎年すみませんね」
「いや、これで人々が息災で過ごせるなら」
 二月三日の夜に鬼を追い出し、福の神を迎える。今は恵方巻きとやらの方が盛んだが、それで人々の憂いが晴れるなら。
 コップ酒を片手に夜空を見上げる。白い息がふわりと上がっていった。

お題「寒さが身に染みて」

1/11/2024, 11:59:19 AM