300字小説
幻の家
叔母が突然いなくなったと聞いたとき、私は自殺を疑った。旦那さんと息子さんを川の事故で無くしてから、ずっと実家で引き篭もりになっていたから。
でも、叔母を以前、叔母家族が暮らしていた街で見たという連絡が入り、頼まれて私は様子を見に行った。
「……うそ……」
街の外れ、取り壊し空地になったはずの叔母の家が当時のままにある。塀の向こう、キャッチボールをする旦那さんと息子さん。部屋では叔母が笑みながら、おやつを用意している。
有り得ないはずの光景を、どこからか湧いた霧が飲み込んでいく。
「叔母さん!」
私の声に叔母さんが手を振る。
「ずっとこのままでいさせて」
霧は濃くなり、家を包む。晴れるとそこは空地に戻っていた。
お題「ずっとこのまま」
1/12/2024, 11:56:14 AM