いぐあな

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12/13/2023, 11:20:55 AM

300字小説

お袋の味は

 冬の寒空の下、息子のお嫁さんがやってきた。
「今年こそはお義母さんのクリスマスチキンを食べさせろって……」
 ネットから有名シェフのレシピまで調べて作ったのに違うと言うらしい。しまいには「お袋はもっと愛を注いでいた!」なんて……。
「バカ息子が……結婚した途端マザコンになりやがって……」
 私は平身低頭謝ってレシピを教えた。

「美味い! お袋の味はこれだよ!」
「美味しい!」
 義母の秘蔵のレシピ……地元有名店のタレに漬け込んだチキンに夫と息子が舌鼓を打つ。
「やっと合格点だ」
 あのバカは正月の帰省に義父母が二人がかりでしめてくれるが。
「……息子も手遅れにならないうちに『お袋の味』への過剰な幻想、解いておかないとなぁ」

お題「愛を注いで」

12/12/2023, 11:30:06 AM

300字小説

二度目のさようなら

 事故で君が亡くなった後、僕は君のアバターを形見分けに貰った。それに君のあらゆるデータを入力し、仮想空間上の君を作る。この中ならまた君に会える。約束していた映画も、食事も。予定していたデートも出来る。

 一年後、これで最後にするつもりで僕は君を海に連れて行った。事故前に買った婚約指輪を出し、君の左手の薬指に嵌める。
「ありがとう」
 君の頬を伝う涙を見た途端、消去コードを打とうとしていた指が震える。
「今まで、本当にありがとう。でも、もう終わりにしましょう」
 君が微笑む。僕の手に添えた、君の細い指がコードを入力する。
 大丈夫。心と心はずっと繋がっているから。だから、前を向いて。
 消えゆく君の声が海風に流れ去った。

お題「心と心」

12/11/2023, 12:07:42 PM

300字小説

最後のプレゼント

 ガキの頃から、うちのサンタはじいちゃんだった。小学三年生くらいには気付いていたが、プレゼントにせっせと俺の好きそうなお菓子を買う姿に何も言えなくて、何でもないフリをしてイヴは早寝をしていた。

 じいちゃんが亡くなって初めてのクリスマスイヴ。夜中、枕元に気配を感じる。ふと目を覚ますとそこには。
「じいちゃん!」
『とうとうバレたか』
 半透明のじいちゃんが、にんまりと笑って仏壇の方に消えていった。

「そういや、大人になった俺と一緒に飲みたいって言ってたもんな」
 枕元にあったのは、これまでのお菓子ではなく、じいちゃんの好きな銘柄の日本酒。思わず視界が滲む。
「ありがとう、じいちゃん。これは成人式の後に親父と飲むよ」

お題「何でもないフリ」

12/10/2023, 12:01:13 PM

300字小説

勇者と商人

「『仲間』という言葉で誤魔化さないで下さい。魔王討伐までサポートした料金はキチンと払って頂きます」
 勇者である俺のパーティの旅路を支えてくれた商人が手を差し出す。
「結局、金かよ」
 俺は奴に金貨の詰まった袋を投げ付けた。

 帰還し軍幹部に迎え入れられた俺は調子に乗り過ぎて、王都から追放された。当てもなく歩く俺を迎えたのはあの商人の馬車。新しく造ったという村に行き、畑付きの家を俺にくれた。
「ありがとう。やっぱり仲間だったんだな」
「いいえ、貰い過ぎた金貨の分を返しただけです」
 奴が素っ気なく返す。
「でも反省したなら『仲間』として組んでも良いですよ」
 勇者ブランドは貴重ですからね。
 奴はにっと笑って手を差し出した。

お題「仲間」

12/9/2023, 12:09:55 PM

300字小説

離れないように

 氷雨の降る寒い夜、小さなノックが教会の扉を打つ。
「いらっしゃい」
 私はしっかりと手を繋いだ幼い兄弟を招き入れた。燭台の明かりにあるはずの影が無いのを、見ないふりをして、温かいスープとパンでもてなす。
 手を繋いだまま二人が食べ終える。私は彼等に祈りを捧げた。

「盗賊に襲われた馬車を見つけました。犠牲者にお祈りをお願いできませんでしょうか?」
 兵士に連れられて、私は峠に向かった。倒された馬車の脇には遺体が並んでいる。
 その中にしっかりと手を繋いだ幼い兄弟が。
「離すのも可哀想なので、そのままにしています」
「そうですか……」
 恐怖の中、互いに離れないよう、手と手を握りあったのだろう。
 私は改めて二人に祈りを捧げた。

お題「手を繋いで」

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