300字小説
離れないように
氷雨の降る寒い夜、小さなノックが教会の扉を打つ。
「いらっしゃい」
私はしっかりと手を繋いだ幼い兄弟を招き入れた。燭台の明かりにあるはずの影が無いのを、見ないふりをして、温かいスープとパンでもてなす。
手を繋いだまま二人が食べ終える。私は彼等に祈りを捧げた。
「盗賊に襲われた馬車を見つけました。犠牲者にお祈りをお願いできませんでしょうか?」
兵士に連れられて、私は峠に向かった。倒された馬車の脇には遺体が並んでいる。
その中にしっかりと手を繋いだ幼い兄弟が。
「離すのも可哀想なので、そのままにしています」
「そうですか……」
恐怖の中、互いに離れないよう、手と手を握りあったのだろう。
私は改めて二人に祈りを捧げた。
お題「手を繋いで」
12/9/2023, 12:09:55 PM