300字小説
二度目のさようなら
事故で君が亡くなった後、僕は君のアバターを形見分けに貰った。それに君のあらゆるデータを入力し、仮想空間上の君を作る。この中ならまた君に会える。約束していた映画も、食事も。予定していたデートも出来る。
一年後、これで最後にするつもりで僕は君を海に連れて行った。事故前に買った婚約指輪を出し、君の左手の薬指に嵌める。
「ありがとう」
君の頬を伝う涙を見た途端、消去コードを打とうとしていた指が震える。
「今まで、本当にありがとう。でも、もう終わりにしましょう」
君が微笑む。僕の手に添えた、君の細い指がコードを入力する。
大丈夫。心と心はずっと繋がっているから。だから、前を向いて。
消えゆく君の声が海風に流れ去った。
お題「心と心」
12/12/2023, 11:30:06 AM