いぐあな

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10/8/2023, 10:37:48 AM

ファンタジー
300字小説

思いは遠く、でも確かに

 昔、古より湧く、この山脈の邪気が、一時的に途絶えた時があった。
 ずっと邪気の生み出す魔物と戦ってきた聖竜の俺には束の間の休息だったが、人にとっては森を切り開き、開墾し、新たな村をつくり、それが街になり、山脈を越える為の都市になるほどの時間だった。
「再び、邪気が湧き出し、人は、この地を捨てざるえなくなって去ったがな」
 俺を称える為に、都市に人が造った神殿を背に魔物を切り裂く。
 以前はただ神に与えられた役目として戦ってきただけだが。
「あれ以来、俺にも心の拠り所ってやつが生まれたのさ」
 山の向こう、遠くに村と町、都市の灯り。この地に生き、去った人の血を引く者達が暮らす場所。
 雄叫びを一つ。俺はにっと牙を剥いた。

お題「束の間の休息」

10/7/2023, 11:45:25 AM

オカルト
300字小説

呪いの土人形

 そりゃもう、アンタのご先祖に酷い目に合わされたのでしょうね。思いっきり恨みを込めて、力を込めて『呪いの土人形』こと私を造ったのよ。
 私も最初は馬鹿正直にアンタのご先祖達に憑いて、しっかり呪っていたけどね。とうの本人はずっと昔に亡くなって、今、三回目の生まれ変わりかな? この国にもいないわけ。
 で、馬鹿らしくなって、でも込められた力はまだ有効だから、頑張って頑張って、呪いをなるべく無害なものに変えたの。

「で、年に一度『タンスの角に小指をぶつける』と『カメムシが服に入り込む』と『鳥の糞が頭にジャストミートする』と、どれかの呪いを選ぶことになったけど、どれが良い?」
「……どれも地味に嫌な呪いですね……」

お題「力を込めて」

10/6/2023, 11:07:24 AM

それでも輝いていた日々に

 『奇跡の石』だと言われたこともあった。ダイヤモンド研磨職人の手に掛かり、カットされ磨きあげられ、大粒ながらも高い透明度の美しさから天文学的数値の価値があるとまで言われた。

 その後の私を巡る争いは想像にかたくないだろう。盗まれ、多くの手から手に渡り、時に血が流され、強奪され……とうとう『不幸を呼ぶ石』とまで呼ばれるようになった。

 今、歴史的遺物として博物館に預けられ、ガラスのケースの中でほっと息をつく。
 ようやく得た静かな時間。周りの遺物達がぽつりぽつりと語る昔語りを聴きながら、それでも私を身につけ、輝いていた人達を振り返り、過ぎた日を想う。

お題「過ぎた日を想う」

10/5/2023, 11:08:20 AM

SF
300字小説

闇に願いを

「……昔、インカ帝国ではね、あまりに星が見えすぎて、夜空の星の無い暗い部分を動物とかに見立てて星座を描いていたんだよ」
 そう彼が言ったのは遠足に行った宇宙エレベーターの展望台だったか。そこから見る銀河系の中心は無数の星が瞬いていて、確かに、その間の暗黒星雲くらいしか形をたどれるものは無かった。
「いつか、僕もあの星の中に……」

 彼はその後、銀河系の中心を探索する調査団に入った。
 古のような帰ることの無い探索。無事に目的を果たせるかも解らない危険な調査だ。
「行ってくるよ!」
 それでも瞳を煌めかせて船に乗り込み旅立った彼。
 煌めく光は宇宙放射線を伴う危険な星域。その隙間の黒い影に彼の姿を描き、私は無事を祈る。

お題「星座」

10/4/2023, 10:49:14 AM

300字小説

もう一度君とワルツを

「私と踊りませんか?」
 それが召喚後の最初の言葉だったねぇ。はじめはカモだと思ったんだよ。若い娘だし。適当に相手して、願いを叶えて、とっとと魂を頂けばいいと。
 だか、甘かったねぇ。悪魔を呼び出し力を借りてまでトップスターになろうという野心家さ。そのギラギラとした瞳にあてられて……ミイラ取りがミイラになっちゃったね。寿命で死ぬまで付き合うことになってしまったよ。
 えっ? 何で、ようやく手に入れた魂を自分に預けるのかって? そりゃまあ……踊り足りないからねぇ。地獄につれていったら、もう一度会うことが出来ないでしょ?

 ワルツを口ずさみながら悪魔がステップを踏んで去っていく。その後ろ姿に天使は小さく肩をすくめた。

お題「踊りませんか?」

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