いぐあな

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5/22/2023, 12:20:34 PM

オカルト。地縛霊と少女。444字。

『踏切の地縛霊』

 おい……また来たのかよ。いいか? この踏切はな俺のショバだ。『踏切の地縛霊』は二人もいらねぇんだよ。どれ、今日も飛び込む気が失せるような轢死体の話を……。

 しなくていい? 転校が決まった? そうかそうか、これでそのシケたツラ見なくてすむぜ。良かったな!

 でも、転校先でもイジメられそうで怖い? ……解った、ちょっと髪一本寄越しな。これをこうして、線路の上に置く。で、下がってな。ほら、列車が通り過ぎた。これで、昨日までのお前は死んだ。さよならだ。明日は明日の新しいお前に出会える。いいな。

 おっ。……いや、お前笑うと結構可愛いんだな。うん、その笑顔ならもう大丈夫だ。あん? 俺もいい加減、成仏しろ? 余計なお世話だ。二度と、こんなとこ来るんじゃねぇぞ!


 カンカンカン……。春の陽の中、降りる遮断機に中学生のときを思い出す。
 イジメで自殺すら考えたとき、救ってくれた奇妙な少年の地縛霊。
「お母さん! 列車!」
「うん。カッコイイね」
 遮断機が上がる。どこか彼の面影のある息子の手を引き、私は踏切向こうの公園に向かった。

お題「昨日へのさよなら、明日との出会い」

5/21/2023, 12:22:04 PM

しんみりオカルト。老夫婦。300字小説。

連れ添い

 亡くなった祖父は柱時計が十時を告げる音と共に閉店した喫茶店内に現れた。
 白いシャツに黒のスラックス、ダークブラウンのカフェエプロンを着けた姿はこの店のマスターを勤めていたときのまま。コンロにドリップポットを置きドリッパーにフィルターをセットする。ポットからのの字を描くように注ぎ、コーヒーカップをカウンター席の祖母に渡した。
「……透明な水……」
「もう豆は置いてないし、ガスも止めているから」
 祖母が一口啜り店内を見回す。
「子供のように大切にしていた店だから離れられないの」

「私が向こうに逝くときに連れて逝くわ」
 五十年もずっと添っていたのだから。
「もう少し付き合うわ」
 祖母は微笑んでカップの水を飲み干した。

お題「透明な水」

5/20/2023, 1:27:11 PM

ファンタジー。竜と王。300字小説。

守護竜の加護

 私は守護竜、ホワイトドラゴン。一般的なドラゴンと違い、白い毛並のもふもふの身体とふわふわの羽根を持つ。
 王家を守護する私は、王宮の奥に設えた神殿の祭壇に鎮座している。歴代の王は私の加護を得て、堅実な治世をおこなっている。
「竜の加護を得てくる」
 今宵も国政の執務を終えた王が神殿にやってくる。人払いをし、竜との秘話を誰も邪魔せぬよう、祭壇の間の厚い扉を閉め、私に向かい大きく手を広げる。
「我に加護を」

「……もふもふのふわふわ……」
 王が蕩けるような声を上げて、私の背に顔を埋め、羽根を撫でる。
「……一日の疲れがとれる……」

 常に民の為に理想の王を演じているあなた。
 せめて私の身に触れるときは全てを忘れ癒されて。

お題「理想のあなた」

5/19/2023, 12:07:26 PM

ほのぼのオカルト 300字小説

約束

 幼い頃、僕には仲の良い友達がいた。おかっぱ頭の女の子。両親が共働きで、家に一人でいることの多かった僕はいつもその子に遊んで貰っていた。しかし。
『転勤で引っ越すことになったんだ』
『また会いに来るから、これを貸しておくね』
 突然の別れに僕はお気に入りのぬいぐるみを再会の約束と共に、その子に渡した。

「それ、座敷童子じゃない?」
 その時、引っ越した家に移り住んだ僕に妻が言う。
「結構、乱暴な子だったし、そんな良いモノかなぁ?」
 首を捻る僕の頭に何かがぶつかる。振り向くとあの時のぬいぐるみ。
「おかっぱの女の子が怒っているよ」
 娘が僕の後ろを指す。
「りふぉーむとやらに耐えて待っていたのに、その言い草はなんだ!  って」

お題「突然の別れ」

5/18/2023, 8:20:42 PM

SF。帰ってきた浦島太郎。444字

浦島太郎、それから

「とんだ笑い話だ」

 人生を掛けた亜光速飛行。しかし、俺の乗った宇宙船が地球から飛び立って数年後、人類は他星系知的生命体との接触、交流によりワープ航行技術を会得した。

 目的の星は既にテラフォーミングがされ、人類が移住した後。ウラシマ効果の貴重な実証実験体として生活は保証されているものの、この先、俺は何を目的に生きればいいのか。

 両親はとうに亡く、弟は独身で生涯を終え、あとは顔も知らない親戚ばかり。そして。
 墓の前に佇む。旅立ち前に別れた恋人は別の男と結婚していた。

「あの……」

 声を掛けられ振り返る。そこにいたのは彼女そっくりの……。

「もしかして、ひいおばあちゃんの元カレですか? ネットニュースで見ました」

 ひ孫だという娘が俺に声を掛ける。

「私、航宙力学を学んでいて、ワープ航行前の航宙技術に興味があるんです!」

 彼女を思い浮かばせるキラキラした瞳に思わず笑む。

「お話聞かせて貰えませんか?」
「勿論」

 あの日、途絶えた恋物語を、また始められるかもしれない。
 そんな予感を胸に、俺は彼女と連れ立って歩き出した。

お題「恋物語」

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