しんみりオカルト。老夫婦。300字小説。
連れ添い
亡くなった祖父は柱時計が十時を告げる音と共に閉店した喫茶店内に現れた。
白いシャツに黒のスラックス、ダークブラウンのカフェエプロンを着けた姿はこの店のマスターを勤めていたときのまま。コンロにドリップポットを置きドリッパーにフィルターをセットする。ポットからのの字を描くように注ぎ、コーヒーカップをカウンター席の祖母に渡した。
「……透明な水……」
「もう豆は置いてないし、ガスも止めているから」
祖母が一口啜り店内を見回す。
「子供のように大切にしていた店だから離れられないの」
「私が向こうに逝くときに連れて逝くわ」
五十年もずっと添っていたのだから。
「もう少し付き合うわ」
祖母は微笑んでカップの水を飲み干した。
お題「透明な水」
5/21/2023, 12:22:04 PM