SF。帰ってきた浦島太郎。444字
浦島太郎、それから
「とんだ笑い話だ」
人生を掛けた亜光速飛行。しかし、俺の乗った宇宙船が地球から飛び立って数年後、人類は他星系知的生命体との接触、交流によりワープ航行技術を会得した。
目的の星は既にテラフォーミングがされ、人類が移住した後。ウラシマ効果の貴重な実証実験体として生活は保証されているものの、この先、俺は何を目的に生きればいいのか。
両親はとうに亡く、弟は独身で生涯を終え、あとは顔も知らない親戚ばかり。そして。
墓の前に佇む。旅立ち前に別れた恋人は別の男と結婚していた。
「あの……」
声を掛けられ振り返る。そこにいたのは彼女そっくりの……。
「もしかして、ひいおばあちゃんの元カレですか? ネットニュースで見ました」
ひ孫だという娘が俺に声を掛ける。
「私、航宙力学を学んでいて、ワープ航行前の航宙技術に興味があるんです!」
彼女を思い浮かばせるキラキラした瞳に思わず笑む。
「お話聞かせて貰えませんか?」
「勿論」
あの日、途絶えた恋物語を、また始められるかもしれない。
そんな予感を胸に、俺は彼女と連れ立って歩き出した。
お題「恋物語」
5/18/2023, 8:20:42 PM