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6/13/2023, 1:06:49 PM

「赤い紫陽花が青に染まってたらその下には死体が埋まってるって話知ってるか?」
「何、その信憑性のない話。」
「さあ、なんでも紫陽花は土は酸性だと青になってアルカリ性だと赤になるらしくてさ。で、死体は腐り始めると酸性になるから青に染まってたら死体が埋まってるんじゃないかって噂だぜ。」
「ふーん、ちょっと怖い話ね。」
彼はネットや本で面白い話を見つけるとよく私に話したがる癖がある。まあ、暇つぶしにはいいものだったからよく聞いてあげていた。
「でも、面白い話ね。知れて良かったわ。」
「だろ? やっぱりこういう話を調べるのは楽しいわ。」
あの楽しい時間が蘇る。


窓から咲き誇る紫陽花を眺める。ああ、懐かしい。
彼は紫陽花の噂について自身たっぷりに話していたこと
を思い出す。ねえ、私もね一つ紫陽花について知ってる事があるのよ。
紫陽花の花言葉を。「移ろい」という意味を。
あなたはあの時から私ではない他の誰かに目移りして
いたんでしょう? 本当に腹が立つわ。でももういいの。
青く咲いている紫陽花を見ながらうっそりと私は笑う。 「本当ね。あなたのおかげで青くて綺麗な花になったわ。ありがとう。」
あはは。楽しそうに笑う彼女の声は雨に掻き消された。

『あじさい』

6/13/2023, 10:07:02 AM

「おはよう!」
彼女は毎日笑って話しかけてくれる。
僕はそれにドキドキしながら言葉を返す。ばれないように、冷静な振りをして。
「うん、おはよう。」
「ねぇねぇ課題やった? 私はバッチリだよ!」
「珍しいね。いつもは忘れるのに。」
「う、今日はしっかりやったもん。」
「どうせ、徹夜だろ。」
「バレたか。」
そんな他愛もない会話が続くこの瞬間が一番好きだ。
でも、長くは続かない。だって僕は───
「あ、来た!」
そう彼女には彼氏がいる。僕ではない恋人。
僕は彼女にとってただの友人。有象無象の一人に過ぎない。いつもあの男に向ける花のような笑顔を見ると、
彼女もあの男も途端に憎らしくなる。だけど。
「じゃあね、また後で!」
だけど、僕に笑いかけてくれるその度に。嫌いなんて
感情はなくなってしまう。もっと好きになってしまう。
「いっそ君を嫌いになれたらいいのに。」
呟いた言葉は誰にも届かない。


『好き嫌い』

6/11/2023, 11:23:00 AM

今日、この街を出る。
都内の大学に受かり引っ越しを終えて後は電車で向かおうとした時、この街には二度と戻らないということで
せっかくなら最後に見て回って行こうと思って記憶に
残る場所へ行ってみた。まずは駄菓子屋が近くにあった
公園へ行くとそこはもう荒れ地で駄菓子屋もやっていなかった。中学校からは疲れてすぐ帰っていたのでこの道を通らなかったからやっていなかったなんて。
少し切ない気持ちになりながら、また歩き出す。
そういえば、通っていた小学校は人数が少ないためあと 
1年したら廃校になるらしい。もうあの小学校を見ることもないのだろう。
その他にも色々な場所が潰れていたり、なくなっていた
ためもう見に行く場所はなくなり時間がきた為駅へと
向かった。待っている時、会話が聞こえた。
「ねぇ、この駅もう少ししたら廃駅になるんでしょ。」
「そうなんだ。もうこの街も寂れてきたわね。」
電車が来たので乗り込む。そうか、もうすべて無くなるのか。どうしようもなく苦しくなる。
小さかったあの頃、私にとってこの街は世界の全てだったのに、ここ以外にも街はありこの場所はちっぽけなのだと知った。そして今思い出の場所はすべて消えてしまった。でもそれはよくあること。皆いつかは寂れて消えてしまうものなのだ。
電車の窓から見える景色は酷く色褪せていた。
「さよなら、私は二度と帰らない。」
思い出に別れを告げて私は眠った。


『街』

6/10/2023, 5:34:33 AM

山を歩く。静かで緑しかないこの場所に私は一人だ。
その事実に不安が少し込み上げてくる。何を弱気になっているんだ。私は覚悟を決めてここまで来たんだ。
ずっと耐えられなかった。仕事ができないと小言を毎日言われ続け、押し付けられる日常に私は疲れていた。
そして、私は一つの答えを出した。
今から、死のうと。そうするために夜が明ける前に車で
崖がある山へ向かい、歩いていた。
少しずつ目的の場所へ近づいている。空が明るくなった
時、私はようやく辿り着いた。
そこには、眩いほどの朝日に包まれた海があった。
その朝日の優しい温もりが私を包み込む。
「──っ、ああ。」
この景色を見たら。この温もりに包まれたら。
死にたいなんて思えなくなってしまった。
「生きたい。生きたいよ。」
朝日に照らされながら私は暫く動くこともできずにずっと休みなく泣き続けた。

『朝日の温もり』

6/9/2023, 8:24:29 AM

まだ寒い冬の朝。心を落ち着かせるように白い息を吐き出す。今日は大学の合否発表が行われる。第一志望の
大学に受かるかどうか私は今人生の岐路に立たされて
いる。
「やった、受かってる!!」
「落ちちゃった…」
など悲喜こもごもの声が聞こえて来て私も不安がピークに達する。ゆっくり掲示板の前まで歩く。自分の数字が
あるかどうか確認して行く。
889、900、901…、そして910番台に入った時───
915。あった。私の番号がそこにあった。嬉しくて涙が
溢れ落ちていく。良かった、私は成功の道を選べた。
さあ、この事を家族に報告しよう。


『岐路』

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