浮遊レイ

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7/9/2024, 1:05:20 PM

当たり前とは…、一般的に認識され、疑問を持たれることの少ない事象や状態をさす言葉。
 
世間一般の当たり前がこの意味だとするなら、私の当たり前は“少し“変わってるのだろうな。
そう不意に私は思った。


「楓~!おはよ!」
 見慣れた通学路を歩いていると、背後から活気溢れた声が聞こえた。
 振り替えると、私と同じ紺色の制服を着ている親友、双葉が手を振りながら駆け足で近づいているのが見えた。
「双葉、おはよ。」
 私は微笑み、彼女に手を振り返す。
 だがその途中、双葉の後ろにピタリとくっついている“黒い人影”が私の顔を強ばらせた。
「……昨日出ていた数学の課題やった?」
 気持ちを切り替え、私は双葉に尋ねる。
「課題…?……やば忘れてた。楓お願い!後で課題見せて!」
 双葉は慣れた口調で私にせがむ。
「えー、前もそう言って見せてあげたじゃん。」
「お願いだってー!今度コンビニスイーツの新作奢るからさ。」
「えー、…もうしょうがないなー。」
 私は仕方なく、双葉の頼みを聞くことにした。けして、スイーツにつられたわけではない。けして、そうではない。
「やったー、ありがとね!」
 双葉はほっと一息つく。
 

 私は双葉と何気ない会話を楽しんでいると、不意に彼女の背後をチラリと見た。
 成人男性ほどの人影が相変わらず、双葉の背中にピタリと張り付きゆらゆら揺れている。
 一方、双葉は後ろの人影を気にしていない様子であった。いや、”気付いていない“という方が正しいのだろう。どっちにしろ、人影は双葉から離れる素振りを一向に見せない。
 仕方ない。また、あの手を使うか。私はそう思った。
「あっ、双葉!アレ何かな?」
 私は不意に正面右斜めの方向を指差す。
「え?!なになに?」
 双葉は連れて私が指差した方向に目をやった。
 それと同時に私は指差していた手で双葉に張り付いていた人影を“振り払った”。
 人影は無抵抗のまま黒い灰を撒き散らし、消えていった。
「何もないけど?」
 事を終えた途端、双葉はキョトンとした顔をして聞いてくる。
「ああごめん。私の勘違いだったみたい。」
 私は何事もなかったかのように平然とした。
「そかー。あっねえ、そう言えばさ…」
 双葉は私の不振な行動を気付いていないのか、呑気に話し始める。
 そして私もその話し声に相づちを打ち、楽しく平和な会話をしだした。


 

 私の人とは違う当たり前は霊が見え、祓えることだ。
 そして双葉は霊感はないものの、引き寄せ体質らしく、度々霊に憑かれてしまう。
 そのため私は彼女に取り憑いた霊をこうして祓っているのだ。
 これは双葉にも誰にも言えない私の秘密の当たり前だ。

題名 少し変わった私の当たり前

6/19/2024, 1:29:29 PM

「あっ」
校門を出ようとしたその時、琉生は空を見て短く叫んだ。
 冷たい雫がパラパラと降り、どんより重たい雲が町全体を覆っている。現在、天気は雨。道路に雨が弾く音が響いていた。
「あー最悪…こんな時に限って傘忘れてもうた。」
 琉生は降り注ぐ雨粒を見ながら不服そうに顔を曇らせた。時おり吹く風が冷えていて、肌寒さを感じさせる。雨は思っていたよりも強く、走って帰る気力が彼には沸かなかった。
 雨止むまで校内に残ろっかな。と思い、踵を返そうとした時、
「あ、琉生じゃん。何してるの?」
 背後から琉生の名を呼ぶ声ご聞こえた。琉生は声が聞こえた方へ振り向く。
「おお、勇治じゃん!やっほー。」
 琉生は声の主が勇治だと知り、元気良く手を振る。勇治は駆け足で琉生の方へと向かった。
「お前、こんなところで突っ立って何してたんだ?」
「いやー、傘を忘れてな、どうしようか考えていて…。」
 不思議そうに尋ねる勇治に琉生はわけを話す。
「今日の天気予報見てなかったのかよ。…しゃあないなー。折り畳み傘だけど入るか?狭いけど。」
「えっ、いいのか?!ありがと、助かるわ!」
 軽く感謝を述べると、勇治はリュックから折り畳み傘を取り出した。そして、二人肩を並べて雨が降り注ぐ、灰色の町を歩きだした。



「なあ、勇治ちょっといいか?」
 下校中、琉生が突如尋ねた。笑いと戦っているのか、彼の体は小刻みに揺れている。
「まて、お前が何を言いたいかはわかる。だが今は言うなよな?」
 何を考えているのか理解した勇治はそんな琉生に釘を刺す。だがそんな彼も小刻みに揺れ、笑いを耐えしのいでいた。
「いやもうさ、笑わない方がおかしいって。だって…傘の意味ないんだもん、この状況…!」
 琉生は互いの肩を見ると、耐えられなかったのかとうとう大笑いをしてしまう。
「それは言わない約束だろ……てダメだ、なんでか知らんけど…笑って…しまう…!」
 琉生の笑いに連れて勇治も大いに笑いだした。
 琉生と勇治は相合傘な状態で小さな折り畳み傘に詰めて歩いていた。だが、男子高校生二人が折り畳み傘で相合傘をすることは体格的に難しく、二人のはみ出た肩とリュックは盛大に濡れていたのだ。
 二人とも意味がないことにとっくにわかっていた。雨も強いし、ある程度は濡れるだろうと割りきっていたのだ。だが、ここまできたら知っていたのを通り越して、もう可笑しくて笑いが溢れてきた。
 ザーッと雨音が響く中、二人の男子がバカ笑いをして楽しそうな声を響かせていた。
「ていうか、そんなに笑うならもうちょっとこっち来いよな。」
 ひとまず、笑い終えた勇治はまだ笑い続けている琉生の腕を組んで自分の体と密着させる。
 すると琉生は勇治の行動にびっくりして笑い声を止めた。その代わり、気まずそうに辺りをキョロキョロ見渡していた。
「お、おい…誰か見ていたら…」
「大丈夫だって、周りに誰もいないってお前もさっき見ただろ?それにこんな雨の中だし、気付かれないって。」
「そうだけど…」
「いやか?」
「いやというよりは、なんか…慣れないっていうか…。」
 そんな状態のまま時間が過ぎていった。二人は互いに無言でうつ伏せたまま、顔を合わせようとしない。だがそのかわり、二人の顔を真っ赤に染まっていた。
 二人は恋人であった。


「俺さ、あんまり雨って好きじゃなかったんだ…。けど今日から好きになった、かも…。」
 顔をうつ伏せたまま、琉生が呟いた。まだ顔が赤いが今度は耳まで真っ赤に染めている。
 少しの沈黙の後、「そうだね、俺も好きだな。」と勇治も呟き、組んでいた腕をほどいて今度は手を握る。
 そのことに驚いた琉生だがすぐに強く手を握り返した。
 すると琉生は押し寄せる様々な感情に耐えきれなかったのか、爆発したかのように突拍子のない話をあれよあれよと語り始めた。
 勇治は最初はなんのことかわからなかったが、微笑みを浮かべて、琉生の突拍子のない会話を楽しみだした。

題名 雨の日の下校も悪くない

6/14/2024, 12:32:06 PM

『今日の天気はいつもどうりあいまいな天気となるでしょう。ですが万が一のことがあるので、体温調節ができる服装で出かけることをおすすめします。以上、今日のお天気でした。』
 天気予報が終わり、ニュースに切り替わろうとしたところで、僕はスマホの電源を切った。そしてイヤホンを外し、窓から空模様を覗いてみる。
 空は天気予報の通り、曇っているが晴れているようにも見える…実にあいまいな空模様であった。
 僕は今日の空模様を確認すると、先程頼んだこの店オススメ”であろう“カフェオレに口につける。
 味は美味しいが、牛乳の甘さとコーヒーの苦みが混ざりあい、矛盾で溢れてたあやふやでわかりにくい味であった。だがそれが人気になった理由だろうと、僕は喫茶店に流れるジャズに耳を傾ける。そしてもう一度空を眺めた。
 …いつからだっけな、こんなあいまいな空になったのは。僕は心の中で呟いた。
 ここ最近、晴れや曇り、雨と言った単語をいっさい聞かなくなった。かわりに皆、口を揃えて言うのだ、あいまいな空って…。空だけじゃない。みんな自分の言葉ですら、あいまいと化している。
 さっき僕は、自分が頼んだカフェラテを、この店オオスメらしい、といったがそれは僕があいまい化したのではない。メニューにその通り書いてあったのをそのまま読んだのだ。
 あいまいなのはそれだけではない。人同士の会話だってそうだ。最近は誰もが話の最後に『たぶん、だろう、かもしれない』という言葉をつけている。
 みんな自分の言葉を霧のようにぼかすようになった。だがそのようにしてしまうのは僕にもわかる。言葉をぼかすということは逃げ道を造るのと同じだ。言葉をあやふやにすることで自身にかかる責任もあやふやにすることができる。
 それは誰にとっても楽な選択肢だ。
 だがそれでいいのか?と僕は時々思う。
 逃げ道には限界がある。その限界までに追い込まれたとき、人はどうなってしまうのか。そんな考えが僕の頭の中を巡る。
 あいまいは楽な逃げ道であり、脆いガラスみたいだな。
 そう思い、僕はもう一度甘いようで苦い、カフェラテに口をつけた。

題名 あいまいなのは…

6/2/2024, 12:27:27 PM

題名 嘘をつくなら正直なところも混ぜろ

 突然だが、今俺は姉貴に尋問されている。事の発端は姉貴が買ってきたプリンを俺が間違って食べてたことから始まった。姉貴は失くなったプリンの残骸を見て俺が犯人だと疑っている。
 俺は姉貴の疑いの言葉に知らんぷりを続けた。食べた犯人は俺だ、だが姉の言葉に、けして頷いてはいけない。何故なら俺は姉貴に殺されるからだ。
 姉貴は食にめがない荒くれ者。そんな姉貴にもし、俺が食べただなんてばれてしまったら、確実に俺はお陀仏になる。
 それだけは何としてでも回避しない…!
 そう思い、俺は言い訳を必死に探す。
「…で、ほんっとうに食べていないの?」
 姉貴は疑惑の目で俺を見て言う。
 まずい、姉貴は俺を疑っている。どうにかしてバレないようにしないと。……あっ、そう言えば…嘘をつくときには少し正直な事も言った方が信憑性が上がるとかなんとか、聞いたことがあるな。
「し、知らねえよ!俺が冷蔵庫見たとき、限定プリンなんてなかったし…!母さんが間違って食べたんじゃないか?」
 よしっ、正直混じりに嘘をつけた。これでしばらくは大丈夫だろう。そう思って安心した矢先である、
「ふぅーん、そうなんだ。じゃあなんで私が買ったのは”限定プリン“だってわかるの??」
 姉貴は張り付いた笑顔でこちらを睨んだ。それで俺は自分の過ちに気づく。
 正直が混じった嘘は信憑性を高くすけど、それには言ってはいけないことがあるのだな、と当たり前のことに気づけなかった俺は自分自身を哀れんだ。だが姉貴はそんな俺に同情なんかせず、俺の右頬に拳を振り上げた。

5/31/2024, 3:08:50 PM

「私…隣のクラスの○○君と付き合ったの…。」
 頬を赤く染め、モジモジとしながらN子は私にそう告げた。
「えっ?!○○と付き合ったの?!良かったじゃんN子!前からその人のこと気になっていたんでしょ??」
 親友の恋の実りを聞いて私は喜び、N子の肩をバンバン力強く叩く。
「うん…。最近よく話せるようになって…そしたら向こうから…」
「良いねー!青春が、甘酸っぱい青春が今始まろうとしているのか~!!」
「ちよっとー、大袈裟だよ~!」 
 本人よりも盛大に喜んでいる私に、N子は恥ずかしそうに私をなだめた。
「それで……相談なんだけどさ。」
 N子が言いにくそうに本題を出した。付き合い報告に気を取られていたが、N子に呼び足された理由は相談であり、報告ではない。
 最初はなんの相談なんだろう、と思っていたが、N子の話を聞いて確信した。これは恋の相談だ。
 親友に恋の相談をされる日がくるなんて…胸踊るな~!心の中でそう呟き、私はニヤニヤ笑みを浮かべた。
「私、誰かと付き合うってこと初めてで…何をしたらいいのかわからないの。……だけど、私…彼ともっと交流を深めたいの!そう思って私……」
 力強く話したN子だが最後は言い淀み、静寂が流れる。
 …正直驚いた。あのN子がここまで本気な意思を見せるなんて、意外である。
 だけど、私は親友の志に感銘を受けた同時に少し不安も感じた。
 N子は正真正銘無垢な少女…言ってしまえば純粋の化身の様な子であった。そんな子が男子とそういう風に付き合うなんてあまり想像できない。というかあまりしたくない。
 だけどそんな親友でも、今は思春期真っ盛りの普通の女子高校生だ。異性との関わって成長していくのが大事でもある。それでも正直…N子にはもう少し純白であって欲しかった。
 癒し系キャラが私よりも経験豊富になると考えると、複雑な気持ちになってしまう。だけどこれが彼女が選んだことなら親友の私は応援するまでである。たとえ、段階飛ばしすぎな行動を起こしたとしても……
「……それでね、私!……交換日記から始めようと思うの!!」
 さっきまで言い淀んでいたN子が思いきって口を開き、カバンから日記を取り出した。
「………あ、うん、良いと思うよ…。」
「ほんとっ?!……じゃあ、言ってくるね!相談のってくれてありがと!」
 「バイバイっ!」と嬉しそうに手を振って走っていった親友の背中を私は見送った。
 ああ、神様…。親友がいつまでもこうでありますように…。
 私は大事そうに日記を抱える彼女を見て、密かにそう願った。



題名 少女よ、無垢であれ!
 

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