浮遊レイ

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「あっ」
校門を出ようとしたその時、琉生は空を見て短く叫んだ。
 冷たい雫がパラパラと降り、どんより重たい雲が町全体を覆っている。現在、天気は雨。道路に雨が弾く音が響いていた。
「あー最悪…こんな時に限って傘忘れてもうた。」
 琉生は降り注ぐ雨粒を見ながら不服そうに顔を曇らせた。時おり吹く風が冷えていて、肌寒さを感じさせる。雨は思っていたよりも強く、走って帰る気力が彼には沸かなかった。
 雨止むまで校内に残ろっかな。と思い、踵を返そうとした時、
「あ、琉生じゃん。何してるの?」
 背後から琉生の名を呼ぶ声ご聞こえた。琉生は声が聞こえた方へ振り向く。
「おお、勇治じゃん!やっほー。」
 琉生は声の主が勇治だと知り、元気良く手を振る。勇治は駆け足で琉生の方へと向かった。
「お前、こんなところで突っ立って何してたんだ?」
「いやー、傘を忘れてな、どうしようか考えていて…。」
 不思議そうに尋ねる勇治に琉生はわけを話す。
「今日の天気予報見てなかったのかよ。…しゃあないなー。折り畳み傘だけど入るか?狭いけど。」
「えっ、いいのか?!ありがと、助かるわ!」
 軽く感謝を述べると、勇治はリュックから折り畳み傘を取り出した。そして、二人肩を並べて雨が降り注ぐ、灰色の町を歩きだした。



「なあ、勇治ちょっといいか?」
 下校中、琉生が突如尋ねた。笑いと戦っているのか、彼の体は小刻みに揺れている。
「まて、お前が何を言いたいかはわかる。だが今は言うなよな?」
 何を考えているのか理解した勇治はそんな琉生に釘を刺す。だがそんな彼も小刻みに揺れ、笑いを耐えしのいでいた。
「いやもうさ、笑わない方がおかしいって。だって…傘の意味ないんだもん、この状況…!」
 琉生は互いの肩を見ると、耐えられなかったのかとうとう大笑いをしてしまう。
「それは言わない約束だろ……てダメだ、なんでか知らんけど…笑って…しまう…!」
 琉生の笑いに連れて勇治も大いに笑いだした。
 琉生と勇治は相合傘な状態で小さな折り畳み傘に詰めて歩いていた。だが、男子高校生二人が折り畳み傘で相合傘をすることは体格的に難しく、二人のはみ出た肩とリュックは盛大に濡れていたのだ。
 二人とも意味がないことにとっくにわかっていた。雨も強いし、ある程度は濡れるだろうと割りきっていたのだ。だが、ここまできたら知っていたのを通り越して、もう可笑しくて笑いが溢れてきた。
 ザーッと雨音が響く中、二人の男子がバカ笑いをして楽しそうな声を響かせていた。
「ていうか、そんなに笑うならもうちょっとこっち来いよな。」
 ひとまず、笑い終えた勇治はまだ笑い続けている琉生の腕を組んで自分の体と密着させる。
 すると琉生は勇治の行動にびっくりして笑い声を止めた。その代わり、気まずそうに辺りをキョロキョロ見渡していた。
「お、おい…誰か見ていたら…」
「大丈夫だって、周りに誰もいないってお前もさっき見ただろ?それにこんな雨の中だし、気付かれないって。」
「そうだけど…」
「いやか?」
「いやというよりは、なんか…慣れないっていうか…。」
 そんな状態のまま時間が過ぎていった。二人は互いに無言でうつ伏せたまま、顔を合わせようとしない。だがそのかわり、二人の顔を真っ赤に染まっていた。
 二人は恋人であった。


「俺さ、あんまり雨って好きじゃなかったんだ…。けど今日から好きになった、かも…。」
 顔をうつ伏せたまま、琉生が呟いた。まだ顔が赤いが今度は耳まで真っ赤に染めている。
 少しの沈黙の後、「そうだね、俺も好きだな。」と勇治も呟き、組んでいた腕をほどいて今度は手を握る。
 そのことに驚いた琉生だがすぐに強く手を握り返した。
 すると琉生は押し寄せる様々な感情に耐えきれなかったのか、爆発したかのように突拍子のない話をあれよあれよと語り始めた。
 勇治は最初はなんのことかわからなかったが、微笑みを浮かべて、琉生の突拍子のない会話を楽しみだした。

題名 雨の日の下校も悪くない

6/19/2024, 1:29:29 PM