浮遊レイ

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11/8/2025, 4:33:51 PM

今から話すことは僕が子供の時に体験した、不思議で忘れられない話だ。
当時僕は体調を崩す度に入院を強いられる程、体が弱く、病弱であった。
あの時は、肺か気管支を患って何度目かわからない入院生活を送っていた。
寝たきりでありながらも、思考と口は元気な子供であった。変わらぬ景色とただ過ぎてゆく日々に常に不満を募らせながらもやることがなく、呆然と窓から見える青い空を眺めてばかりであった。
そんな退屈な入院生活を送っていた僕だが、友達ができた。彼女は気がつけば病室の窓際の椅子に座り、僕に話しかけてくれる。太陽の光に照らせれ、壁に写る影が羽が生えているように見えたから僕は彼女のことを「天使さま」と呼んだ。
天使さまとの会話はとても楽しく、心地よかった。嫌だった入院生活が悪くないと思える程であった。
だがそんなある日、僕の容態は急激に悪化した。あの日は頭がボーッとしていて、何も考えれない。寒いのか暑いのかもよく分からなかった。
いつもより視界が霞む中、窓から見える青い空を眺めていると天使さまが現れた。
「天使さま、こんにちわ!今日はね……」
話そうにも口が上手く動かない。必死になった言葉を話そうとしていると、天使さまは僕にゆっくり近づき、僕の手を握りしめた。その手は柔らかく、日の光みたいに温かかった。
「もう、お別れみたいだね…。楽しかったよ、今までありがとう。」と天使さまは寂しそうに僕に微笑んだ。
「どういうこと?」そう聞こうとする前に天使さまは僕の手を離し、何処かに行ってしまった。この時僕は、このままだと二度と天使さまに会えないと直感的に感じた。何とか声を出したかった。だが声が届くことはなかった。

その後不思議なことに僕の容態は回復していき、そのまま退院することができた。
それ以降、僕は入院するほどの体調を崩すことはなくなり、

そして天使さまと二度と会うことはなかった。



「病院の天使さま」

1/11/2025, 6:30:09 AM

未来の鍵というものを拾った。
そして目の前には、見覚えのない一枚の扉が佇んでいた。おそらくこれが未来の扉なんだろう。
扉は鍵と同じでガラスのように透明で、青い宝石が埋め込まれている。
僕は鍵穴に鍵を差し込んだが鍵を回さなかった。いや、回せなかった。
漠然とした恐怖が僕を包み込み、そこから僕は行動に移せなかった。
そして鍵穴から鍵を抜き取り、僕はまた何もしないまま、扉から離れた。 
それを何度も何度も繰り返した。僕は未来を知りたくても知ることが怖かった。きっと受け入れられないに違いないから。
大切な人が、この世からいなくなっているという現実を僕は認めたくないからだ。


この鍵を拾った日が彼女の余命宣告を聞いた帰りなのは、はたして偶然なのだろうか。
そして未来への扉が置かれるこの廃校が、僕と彼女が初めて出会い、共に学園生活を送った思い出深い場所なのも、、

神様がいるとしたら、何故僕にこんな使えない鍵を渡したのか聞きたいものだ。



題名 拝啓、未来を知りたくない僕へ

8/29/2024, 2:36:54 PM

言葉はいらない、ただ………

この後の言葉って何だっけ?
そう考えながら夕日を眺めていると隣からすすり泣く声が聞こえた。

私の友人だ。
失恋したらしく、彼女は深い悲しみにとらわれていた。目の周りが赤く腫れていて、それを物語っている。
こんなに大切に思っている彼女を振るなんて相手は見る目が無いなと怒り半分、こんなに思ってくれる人がいてその人は羨ましいなという気持ちがあった。
私は失恋の経験が何度もあるが、告られたことは一度もない。実に悲しいことだ。

隣で泣く友の悲しみは痛い程良く分かる。
「辛いよね」「よく分かるよ」
だけど今はそんな言葉はいらない。かわりに、
「大丈夫、私はここにいるよ」と私は友の頭を優しく撫でた。
励ましも必要であるけど、今は言葉よりも寄り添うことが大事だと思ったからだ。

急に頭を撫でられびくりとした友だが、強ばった表情が緩みだし、また大粒の涙を流した。

大丈夫。涙は心のシャワーだ、充分に洗い流してその後は一緒に美味しい物でも食べに行こう。
そう思いながら私はまた友の頭を撫でた。

8/26/2024, 11:55:11 AM

日記帳って何を書くんだ?
そんな思いながら私は新品のノートを開いて、真っ白の紙を凝視していた。
文字を書く習慣をつけるのは良いことだと母が言っていたのを思い出して日記用のノートを買ってみたが、飽き性の私に果たして日記を書き続けることができるのだろうか。
大抵のことは3日も経たずに飽きてしまう、そんな人間が日記を書くだなんて不向きすぎる。
でも買ったまま使わないのはもったいなしい、今日起きたことでも書こうかな。
私は思うがままに言葉を連ならせて書いてみた。
書いた内容は、いつでも誰にでも起きそうな、くだらない日常の出来事。人に話す程でもないごくあり触れた、そんな話だ
……でもなんでだろうな、書いていてとてもほっこりとする…。
自分の記録につまらないなどと文句をつけているのに、私はその日記の内容を見て微笑みを浮かべた。

7/22/2024, 1:47:16 PM

 ねぇ、もしもの話なんだけどね、タイムマシンがあったら未来か過去、どっちに行きたい?


 青白い華やかな笑顔が僕に向けて笑いかける。
「私はねー、22年後の未来に行きたいなー!」
 夢を語るように目をキラキラとさせる彼女に僕は「何で22年後なの?」と当たり前な質問をした。
「んーそれはね、その年になると彗星が見れるんだ!だから、その日に飛んで、見晴らしの良い所で彗星を見たい。もちろん君と一緒にだよ!」
 病院の天井に、たくさんの管で繋がられた腕を伸ばし、物を掴むようなジェシュチャーをして、子供に話しかけるような明るい口調でに僕に話す。
 別にタイムマシンがなくても、22年後、一緒に見に行けばいいだろ。
 そんな短い言葉は僕の口から出なかった。
 変わりに、彼女の細い手を握りながら、「そうだね」と言うことしかできなかった。
 彼女の手のひらに一粒、二粒と雫が垂れる。
「何で泣いてるのよー。…それよりさ、君はどうなの?過去か未来どっちに行きたいの?」
 彼女は僕の崩れた顔を見て、呆れ笑いを浮かべると、空いている片方の手で僕の頭を撫でた。
 温かいけど弱々しい手であった。
 この時、僕は彼女の問いには答えれなかったけど、これだけははっきりしてる。
  僕は初めて君と出会った日に戻りたいな。そして、何度も何度も君と一緒にいる時間を繰り返したい。
 けど、そんな状況を君が見たらきっと、いやな顔をするだろうね。
 でも僕はね、君がいない未来なんてね、これっぽっちも歩きたくないんだ。


 だから僕は君と初めて出会った、7年前の過去に行きたい。
そう言おうとしたところで、僕は言葉を飲み込んだ。かわりに、
「秘密ー!」
と彼女に笑いかけた。実に不細工な顔をしていたと思う。
「何それー。」
 そう不服そうに言うと、彼女は寂しそうに笑った。
 
  

題名 繰り返しの日々を願う

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