浮遊レイ

Open App
1/11/2025, 6:30:09 AM

未来の鍵というものを拾った。
そして目の前には、見覚えのない一枚の扉が佇んでいた。おそらくこれが未来の扉なんだろう。
扉は鍵と同じでガラスのように透明で、青い宝石が埋め込まれている。
僕は鍵穴に鍵を差し込んだが鍵を回さなかった。いや、回せなかった。
漠然とした恐怖が僕を包み込み、そこから僕は行動に移せなかった。
そして鍵穴から鍵を抜き取り、僕はまた何もしないまま、扉から離れた。 
それを何度も何度も繰り返した。僕は未来を知りたくても知ることが怖かった。きっと受け入れられないに違いないから。
大切な人が、この世からいなくなっているという現実を僕は認めたくないからだ。


この鍵を拾った日が彼女の余命宣告を聞いた帰りなのは、はたして偶然なのだろうか。
そして未来への扉が置かれるこの廃校が、僕と彼女が初めて出会い、共に学園生活を送った思い出深い場所なのも、、

神様がいるとしたら、何故僕にこんな使えない鍵を渡したのか聞きたいものだ。



題名 拝啓、未来を知りたくない僕へ

8/29/2024, 2:36:54 PM

言葉はいらない、ただ………

この後の言葉って何だっけ?
そう考えながら夕日を眺めていると隣からすすり泣く声が聞こえた。

私の友人だ。
失恋したらしく、彼女は深い悲しみにとらわれていた。目の周りが赤く腫れていて、それを物語っている。
こんなに大切に思っている彼女を振るなんて相手は見る目が無いなと怒り半分、こんなに思ってくれる人がいてその人は羨ましいなという気持ちがあった。
私は失恋の経験が何度もあるが、告られたことは一度もない。実に悲しいことだ。

隣で泣く友の悲しみは痛い程良く分かる。
「辛いよね」「よく分かるよ」
だけど今はそんな言葉はいらない。かわりに、
「大丈夫、私はここにいるよ」と私は友の頭を優しく撫でた。
励ましも必要であるけど、今は言葉よりも寄り添うことが大事だと思ったからだ。

急に頭を撫でられびくりとした友だが、強ばった表情が緩みだし、また大粒の涙を流した。

大丈夫。涙は心のシャワーだ、充分に洗い流してその後は一緒に美味しい物でも食べに行こう。
そう思いながら私はまた友の頭を撫でた。

8/26/2024, 11:55:11 AM

日記帳って何を書くんだ?
そんな思いながら私は新品のノートを開いて、真っ白の紙を凝視していた。
文字を書く習慣をつけるのは良いことだと母が言っていたのを思い出して日記用のノートを買ってみたが、飽き性の私に果たして日記を書き続けることができるのだろうか。
大抵のことは3日も経たずに飽きてしまう、そんな人間が日記を書くだなんて不向きすぎる。
でも買ったまま使わないのはもったいなしい、今日起きたことでも書こうかな。
私は思うがままに言葉を連ならせて書いてみた。
書いた内容は、いつでも誰にでも起きそうな、くだらない日常の出来事。人に話す程でもないごくあり触れた、そんな話だ
……でもなんでだろうな、書いていてとてもほっこりとする…。
自分の記録につまらないなどと文句をつけているのに、私はその日記の内容を見て微笑みを浮かべた。

7/22/2024, 1:47:16 PM

 ねぇ、もしもの話なんだけどね、タイムマシンがあったら未来か過去、どっちに行きたい?


 青白い華やかな笑顔が僕に向けて笑いかける。
「私はねー、22年後の未来に行きたいなー!」
 夢を語るように目をキラキラとさせる彼女に僕は「何で22年後なの?」と当たり前な質問をした。
「んーそれはね、その年になると彗星が見れるんだ!だから、その日に飛んで、見晴らしの良い所で彗星を見たい。もちろん君と一緒にだよ!」
 病院の天井に、たくさんの管で繋がられた腕を伸ばし、物を掴むようなジェシュチャーをして、子供に話しかけるような明るい口調でに僕に話す。
 別にタイムマシンがなくても、22年後、一緒に見に行けばいいだろ。
 そんな短い言葉は僕の口から出なかった。
 変わりに、彼女の細い手を握りながら、「そうだね」と言うことしかできなかった。
 彼女の手のひらに一粒、二粒と雫が垂れる。
「何で泣いてるのよー。…それよりさ、君はどうなの?過去か未来どっちに行きたいの?」
 彼女は僕の崩れた顔を見て、呆れ笑いを浮かべると、空いている片方の手で僕の頭を撫でた。
 温かいけど弱々しい手であった。
 この時、僕は彼女の問いには答えれなかったけど、これだけははっきりしてる。
  僕は初めて君と出会った日に戻りたいな。そして、何度も何度も君と一緒にいる時間を繰り返したい。
 けど、そんな状況を君が見たらきっと、いやな顔をするだろうね。
 でも僕はね、君がいない未来なんてね、これっぽっちも歩きたくないんだ。


 だから僕は君と初めて出会った、7年前の過去に行きたい。
そう言おうとしたところで、僕は言葉を飲み込んだ。かわりに、
「秘密ー!」
と彼女に笑いかけた。実に不細工な顔をしていたと思う。
「何それー。」
 そう不服そうに言うと、彼女は寂しそうに笑った。
 
  

題名 繰り返しの日々を願う

7/19/2024, 4:06:35 PM

教室の窓際の席、私は中央にいる彼女を見た。
彼女はたくさんの人に囲まれ、仲睦まじくおしゃべりを楽しんでいた。
微笑むときに揺れる艶のある黒髪、長いまつ毛がやけに視界に入って鬱陶しい。
私は目をそらすように廊下側を見る。ドアから覗くよう、他クラスの男子達が彼女を見つめていた。ほんのり顔を赤く染めながらひそひそと耳打ちをしている。
彼女はいわゆる、高嶺の花と呼ばれる存在だ。
本当に彼女にぴったりである。顔、スタイルが良いのはともかく、勉強、スポーツも優秀で、性格も良いといった非の打ち所がない女の子。人気者で男子にモテるのは嫌でもわかる。
もちろん最初は妬む奴なんかもいた。だけどみな、自分と彼女との格の差とやらを思い知らされ、負の感情という名は消し去られてしまう。
私はもう一度彼女を見た。
相変わらず、可憐な花がそこに咲いている。
すると視線に気付いたのか、彼女は私の方を振わり向き、明るく手を振った。
私は手なんて振らずにすぐにそっぽを向いた。
……せめて性格は悪かったら良かったのに。
そう思い、私はうつ伏せて、窓の外を見る。
空は迷いのない澄みきった青空で私の気持ちと正反対である。
彼女の明るくて、優しい振る舞いは誰にでもしている。
でも彼女は知らないだろうな。誰にでも平等に接するその優しさで一部の人を殺していることに


題名 一輪の花に触れれない

Next