言葉はいらない、ただ………
この後の言葉って何だっけ?
そう考えながら夕日を眺めていると隣からすすり泣く声が聞こえた。
私の友人だ。
失恋したらしく、彼女は深い悲しみにとらわれていた。目の周りが赤く腫れていて、それを物語っている。
こんなに大切に思っている彼女を振るなんて相手は見る目が無いなと怒り半分、こんなに思ってくれる人がいてその人は羨ましいなという気持ちがあった。
私は失恋の経験が何度もあるが、告られたことは一度もない。実に悲しいことだ。
隣で泣く友の悲しみは痛い程良く分かる。
「辛いよね」「よく分かるよ」
だけど今はそんな言葉はいらない。かわりに、
「大丈夫、私はここにいるよ」と私は友の頭を優しく撫でた。
励ましも必要であるけど、今は言葉よりも寄り添うことが大事だと思ったからだ。
急に頭を撫でられびくりとした友だが、強ばった表情が緩みだし、また大粒の涙を流した。
大丈夫。涙は心のシャワーだ、充分に洗い流してその後は一緒に美味しい物でも食べに行こう。
そう思いながら私はまた友の頭を撫でた。
日記帳って何を書くんだ?
そんな思いながら私は新品のノートを開いて、真っ白の紙を凝視していた。
文字を書く習慣をつけるのは良いことだと母が言っていたのを思い出して日記用のノートを買ってみたが、飽き性の私に果たして日記を書き続けることができるのだろうか。
大抵のことは3日も経たずに飽きてしまう、そんな人間が日記を書くだなんて不向きすぎる。
でも買ったまま使わないのはもったいなしい、今日起きたことでも書こうかな。
私は思うがままに言葉を連ならせて書いてみた。
書いた内容は、いつでも誰にでも起きそうな、くだらない日常の出来事。人に話す程でもないごくあり触れた、そんな話だ
……でもなんでだろうな、書いていてとてもほっこりとする…。
自分の記録につまらないなどと文句をつけているのに、私はその日記の内容を見て微笑みを浮かべた。
ねぇ、もしもの話なんだけどね、タイムマシンがあったら未来か過去、どっちに行きたい?
青白い華やかな笑顔が僕に向けて笑いかける。
「私はねー、22年後の未来に行きたいなー!」
夢を語るように目をキラキラとさせる彼女に僕は「何で22年後なの?」と当たり前な質問をした。
「んーそれはね、その年になると彗星が見れるんだ!だから、その日に飛んで、見晴らしの良い所で彗星を見たい。もちろん君と一緒にだよ!」
病院の天井に、たくさんの管で繋がられた腕を伸ばし、物を掴むようなジェシュチャーをして、子供に話しかけるような明るい口調でに僕に話す。
別にタイムマシンがなくても、22年後、一緒に見に行けばいいだろ。
そんな短い言葉は僕の口から出なかった。
変わりに、彼女の細い手を握りながら、「そうだね」と言うことしかできなかった。
彼女の手のひらに一粒、二粒と雫が垂れる。
「何で泣いてるのよー。…それよりさ、君はどうなの?過去か未来どっちに行きたいの?」
彼女は僕の崩れた顔を見て、呆れ笑いを浮かべると、空いている片方の手で僕の頭を撫でた。
温かいけど弱々しい手であった。
この時、僕は彼女の問いには答えれなかったけど、これだけははっきりしてる。
僕は初めて君と出会った日に戻りたいな。そして、何度も何度も君と一緒にいる時間を繰り返したい。
けど、そんな状況を君が見たらきっと、いやな顔をするだろうね。
でも僕はね、君がいない未来なんてね、これっぽっちも歩きたくないんだ。
だから僕は君と初めて出会った、7年前の過去に行きたい。
そう言おうとしたところで、僕は言葉を飲み込んだ。かわりに、
「秘密ー!」
と彼女に笑いかけた。実に不細工な顔をしていたと思う。
「何それー。」
そう不服そうに言うと、彼女は寂しそうに笑った。
題名 繰り返しの日々を願う
教室の窓際の席、私は中央にいる彼女を見た。
彼女はたくさんの人に囲まれ、仲睦まじくおしゃべりを楽しんでいた。
微笑むときに揺れる艶のある黒髪、長いまつ毛がやけに視界に入って鬱陶しい。
私は目をそらすように廊下側を見る。ドアから覗くよう、他クラスの男子達が彼女を見つめていた。ほんのり顔を赤く染めながらひそひそと耳打ちをしている。
彼女はいわゆる、高嶺の花と呼ばれる存在だ。
本当に彼女にぴったりである。顔、スタイルが良いのはともかく、勉強、スポーツも優秀で、性格も良いといった非の打ち所がない女の子。人気者で男子にモテるのは嫌でもわかる。
もちろん最初は妬む奴なんかもいた。だけどみな、自分と彼女との格の差とやらを思い知らされ、負の感情という名は消し去られてしまう。
私はもう一度彼女を見た。
相変わらず、可憐な花がそこに咲いている。
すると視線に気付いたのか、彼女は私の方を振わり向き、明るく手を振った。
私は手なんて振らずにすぐにそっぽを向いた。
……せめて性格は悪かったら良かったのに。
そう思い、私はうつ伏せて、窓の外を見る。
空は迷いのない澄みきった青空で私の気持ちと正反対である。
彼女の明るくて、優しい振る舞いは誰にでもしている。
でも彼女は知らないだろうな。誰にでも平等に接するその優しさで一部の人を殺していることに
題名 一輪の花に触れれない
アラームが部屋中に鳴り響いた。
起き上がる気力が沸かず、俺は布団に埋もれたままごそごそと手探りでうるさいアラームを止める。
眠たい細い目をして時計を見た。現在、午前7時すぎである。
「起きなきゃ…けど起きたくねぇー。せめてあと5分だけ…寝てもいいよな。」
小言でそんなことを呟いた途端、重たい瞼が俺の視界を暗くする。
ああダメだ!そう言って前、ギリギリまで寝て遅刻しかけたじゃねえか。早く起きねえと…!
再び失いかけた意識を取り戻し、頑張って体を起こす。
やった、睡魔に打ち勝った!そう誇りに思い、俺はおもむろに時計を見た。
時計の短針は7時ではなくなんと”12時“を差していた。
「……えっ?」
俺はその状況に頭が追い付かず、間抜けな声を上げた。
窓の外を見ると、真っ青な青空と神々しいで町全体を照らす太陽の姿が見えた。
俺の部屋は西側にあって、本来なら朝起きてすぐにはこんなにはっきりとは見えないはずだ。
てことは、つまり………
呆然とし、身動き一つ取れない俺を嘲笑うかの様に昼に鳴り響くはずの昼鐘がぼんやりと聞こえる。
あの時、「あと5分」そう言って瞼を閉じたのは覚えている。
ということはあの数秒の出来事の間でこんなに時間が経っていたのか…?ありえない、こんなことって…
俺は何も考えることができなかった。
ただ、「5分」と言って俺は5時間寝ていた、そんな事実を受け入れざる終えないと理解はしたのだった。
題名 5□間後、再び目を覚ます