浮遊レイ

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7/19/2024, 4:06:35 PM

教室の窓際の席、私は中央にいる彼女を見た。
彼女はたくさんの人に囲まれ、仲睦まじくおしゃべりを楽しんでいた。
微笑むときに揺れる艶のある黒髪、長いまつ毛がやけに視界に入って鬱陶しい。
私は目をそらすように廊下側を見る。ドアから覗くよう、他クラスの男子達が彼女を見つめていた。ほんのり顔を赤く染めながらひそひそと耳打ちをしている。
彼女はいわゆる、高嶺の花と呼ばれる存在だ。
本当に彼女にぴったりである。顔、スタイルが良いのはともかく、勉強、スポーツも優秀で、性格も良いといった非の打ち所がない女の子。人気者で男子にモテるのは嫌でもわかる。
もちろん最初は妬む奴なんかもいた。だけどみな、自分と彼女との格の差とやらを思い知らされ、負の感情という名は消し去られてしまう。
私はもう一度彼女を見た。
相変わらず、可憐な花がそこに咲いている。
すると視線に気付いたのか、彼女は私の方を振わり向き、明るく手を振った。
私は手なんて振らずにすぐにそっぽを向いた。
……せめて性格は悪かったら良かったのに。
そう思い、私はうつ伏せて、窓の外を見る。
空は迷いのない澄みきった青空で私の気持ちと正反対である。
彼女の明るくて、優しい振る舞いは誰にでもしている。
でも彼女は知らないだろうな。誰にでも平等に接するその優しさで一部の人を殺していることに


題名 一輪の花に触れれない

7/10/2024, 11:41:52 AM

 アラームが部屋中に鳴り響いた。
 起き上がる気力が沸かず、俺は布団に埋もれたままごそごそと手探りでうるさいアラームを止める。
 眠たい細い目をして時計を見た。現在、午前7時すぎである。
「起きなきゃ…けど起きたくねぇー。せめてあと5分だけ…寝てもいいよな。」
 小言でそんなことを呟いた途端、重たい瞼が俺の視界を暗くする。
 ああダメだ!そう言って前、ギリギリまで寝て遅刻しかけたじゃねえか。早く起きねえと…!
 再び失いかけた意識を取り戻し、頑張って体を起こす。
 やった、睡魔に打ち勝った!そう誇りに思い、俺はおもむろに時計を見た。
 時計の短針は7時ではなくなんと”12時“を差していた。
「……えっ?」
 俺はその状況に頭が追い付かず、間抜けな声を上げた。
 窓の外を見ると、真っ青な青空と神々しいで町全体を照らす太陽の姿が見えた。
 俺の部屋は西側にあって、本来なら朝起きてすぐにはこんなにはっきりとは見えないはずだ。
 てことは、つまり………
 呆然とし、身動き一つ取れない俺を嘲笑うかの様に昼に鳴り響くはずの昼鐘がぼんやりと聞こえる。
 あの時、「あと5分」そう言って瞼を閉じたのは覚えている。
 ということはあの数秒の出来事の間でこんなに時間が経っていたのか…?ありえない、こんなことって…
 俺は何も考えることができなかった。
 ただ、「5分」と言って俺は5時間寝ていた、そんな事実を受け入れざる終えないと理解はしたのだった。

題名 5□間後、再び目を覚ます

7/9/2024, 1:05:20 PM

当たり前とは…、一般的に認識され、疑問を持たれることの少ない事象や状態をさす言葉。
 
世間一般の当たり前がこの意味だとするなら、私の当たり前は“少し“変わってるのだろうな。
そう不意に私は思った。


「楓~!おはよ!」
 見慣れた通学路を歩いていると、背後から活気溢れた声が聞こえた。
 振り替えると、私と同じ紺色の制服を着ている親友、双葉が手を振りながら駆け足で近づいているのが見えた。
「双葉、おはよ。」
 私は微笑み、彼女に手を振り返す。
 だがその途中、双葉の後ろにピタリとくっついている“黒い人影”が私の顔を強ばらせた。
「……昨日出ていた数学の課題やった?」
 気持ちを切り替え、私は双葉に尋ねる。
「課題…?……やば忘れてた。楓お願い!後で課題見せて!」
 双葉は慣れた口調で私にせがむ。
「えー、前もそう言って見せてあげたじゃん。」
「お願いだってー!今度コンビニスイーツの新作奢るからさ。」
「えー、…もうしょうがないなー。」
 私は仕方なく、双葉の頼みを聞くことにした。けして、スイーツにつられたわけではない。けして、そうではない。
「やったー、ありがとね!」
 双葉はほっと一息つく。
 

 私は双葉と何気ない会話を楽しんでいると、不意に彼女の背後をチラリと見た。
 成人男性ほどの人影が相変わらず、双葉の背中にピタリと張り付きゆらゆら揺れている。
 一方、双葉は後ろの人影を気にしていない様子であった。いや、”気付いていない“という方が正しいのだろう。どっちにしろ、人影は双葉から離れる素振りを一向に見せない。
 仕方ない。また、あの手を使うか。私はそう思った。
「あっ、双葉!アレ何かな?」
 私は不意に正面右斜めの方向を指差す。
「え?!なになに?」
 双葉は連れて私が指差した方向に目をやった。
 それと同時に私は指差していた手で双葉に張り付いていた人影を“振り払った”。
 人影は無抵抗のまま黒い灰を撒き散らし、消えていった。
「何もないけど?」
 事を終えた途端、双葉はキョトンとした顔をして聞いてくる。
「ああごめん。私の勘違いだったみたい。」
 私は何事もなかったかのように平然とした。
「そかー。あっねえ、そう言えばさ…」
 双葉は私の不振な行動を気付いていないのか、呑気に話し始める。
 そして私もその話し声に相づちを打ち、楽しく平和な会話をしだした。


 

 私の人とは違う当たり前は霊が見え、祓えることだ。
 そして双葉は霊感はないものの、引き寄せ体質らしく、度々霊に憑かれてしまう。
 そのため私は彼女に取り憑いた霊をこうして祓っているのだ。
 これは双葉にも誰にも言えない私の秘密の当たり前だ。

題名 少し変わった私の当たり前

6/19/2024, 1:29:29 PM

「あっ」
校門を出ようとしたその時、琉生は空を見て短く叫んだ。
 冷たい雫がパラパラと降り、どんより重たい雲が町全体を覆っている。現在、天気は雨。道路に雨が弾く音が響いていた。
「あー最悪…こんな時に限って傘忘れてもうた。」
 琉生は降り注ぐ雨粒を見ながら不服そうに顔を曇らせた。時おり吹く風が冷えていて、肌寒さを感じさせる。雨は思っていたよりも強く、走って帰る気力が彼には沸かなかった。
 雨止むまで校内に残ろっかな。と思い、踵を返そうとした時、
「あ、琉生じゃん。何してるの?」
 背後から琉生の名を呼ぶ声ご聞こえた。琉生は声が聞こえた方へ振り向く。
「おお、勇治じゃん!やっほー。」
 琉生は声の主が勇治だと知り、元気良く手を振る。勇治は駆け足で琉生の方へと向かった。
「お前、こんなところで突っ立って何してたんだ?」
「いやー、傘を忘れてな、どうしようか考えていて…。」
 不思議そうに尋ねる勇治に琉生はわけを話す。
「今日の天気予報見てなかったのかよ。…しゃあないなー。折り畳み傘だけど入るか?狭いけど。」
「えっ、いいのか?!ありがと、助かるわ!」
 軽く感謝を述べると、勇治はリュックから折り畳み傘を取り出した。そして、二人肩を並べて雨が降り注ぐ、灰色の町を歩きだした。



「なあ、勇治ちょっといいか?」
 下校中、琉生が突如尋ねた。笑いと戦っているのか、彼の体は小刻みに揺れている。
「まて、お前が何を言いたいかはわかる。だが今は言うなよな?」
 何を考えているのか理解した勇治はそんな琉生に釘を刺す。だがそんな彼も小刻みに揺れ、笑いを耐えしのいでいた。
「いやもうさ、笑わない方がおかしいって。だって…傘の意味ないんだもん、この状況…!」
 琉生は互いの肩を見ると、耐えられなかったのかとうとう大笑いをしてしまう。
「それは言わない約束だろ……てダメだ、なんでか知らんけど…笑って…しまう…!」
 琉生の笑いに連れて勇治も大いに笑いだした。
 琉生と勇治は相合傘な状態で小さな折り畳み傘に詰めて歩いていた。だが、男子高校生二人が折り畳み傘で相合傘をすることは体格的に難しく、二人のはみ出た肩とリュックは盛大に濡れていたのだ。
 二人とも意味がないことにとっくにわかっていた。雨も強いし、ある程度は濡れるだろうと割りきっていたのだ。だが、ここまできたら知っていたのを通り越して、もう可笑しくて笑いが溢れてきた。
 ザーッと雨音が響く中、二人の男子がバカ笑いをして楽しそうな声を響かせていた。
「ていうか、そんなに笑うならもうちょっとこっち来いよな。」
 ひとまず、笑い終えた勇治はまだ笑い続けている琉生の腕を組んで自分の体と密着させる。
 すると琉生は勇治の行動にびっくりして笑い声を止めた。その代わり、気まずそうに辺りをキョロキョロ見渡していた。
「お、おい…誰か見ていたら…」
「大丈夫だって、周りに誰もいないってお前もさっき見ただろ?それにこんな雨の中だし、気付かれないって。」
「そうだけど…」
「いやか?」
「いやというよりは、なんか…慣れないっていうか…。」
 そんな状態のまま時間が過ぎていった。二人は互いに無言でうつ伏せたまま、顔を合わせようとしない。だがそのかわり、二人の顔を真っ赤に染まっていた。
 二人は恋人であった。


「俺さ、あんまり雨って好きじゃなかったんだ…。けど今日から好きになった、かも…。」
 顔をうつ伏せたまま、琉生が呟いた。まだ顔が赤いが今度は耳まで真っ赤に染めている。
 少しの沈黙の後、「そうだね、俺も好きだな。」と勇治も呟き、組んでいた腕をほどいて今度は手を握る。
 そのことに驚いた琉生だがすぐに強く手を握り返した。
 すると琉生は押し寄せる様々な感情に耐えきれなかったのか、爆発したかのように突拍子のない話をあれよあれよと語り始めた。
 勇治は最初はなんのことかわからなかったが、微笑みを浮かべて、琉生の突拍子のない会話を楽しみだした。

題名 雨の日の下校も悪くない

6/14/2024, 12:32:06 PM

『今日の天気はいつもどうりあいまいな天気となるでしょう。ですが万が一のことがあるので、体温調節ができる服装で出かけることをおすすめします。以上、今日のお天気でした。』
 天気予報が終わり、ニュースに切り替わろうとしたところで、僕はスマホの電源を切った。そしてイヤホンを外し、窓から空模様を覗いてみる。
 空は天気予報の通り、曇っているが晴れているようにも見える…実にあいまいな空模様であった。
 僕は今日の空模様を確認すると、先程頼んだこの店オススメ”であろう“カフェオレに口につける。
 味は美味しいが、牛乳の甘さとコーヒーの苦みが混ざりあい、矛盾で溢れてたあやふやでわかりにくい味であった。だがそれが人気になった理由だろうと、僕は喫茶店に流れるジャズに耳を傾ける。そしてもう一度空を眺めた。
 …いつからだっけな、こんなあいまいな空になったのは。僕は心の中で呟いた。
 ここ最近、晴れや曇り、雨と言った単語をいっさい聞かなくなった。かわりに皆、口を揃えて言うのだ、あいまいな空って…。空だけじゃない。みんな自分の言葉ですら、あいまいと化している。
 さっき僕は、自分が頼んだカフェラテを、この店オオスメらしい、といったがそれは僕があいまい化したのではない。メニューにその通り書いてあったのをそのまま読んだのだ。
 あいまいなのはそれだけではない。人同士の会話だってそうだ。最近は誰もが話の最後に『たぶん、だろう、かもしれない』という言葉をつけている。
 みんな自分の言葉を霧のようにぼかすようになった。だがそのようにしてしまうのは僕にもわかる。言葉をぼかすということは逃げ道を造るのと同じだ。言葉をあやふやにすることで自身にかかる責任もあやふやにすることができる。
 それは誰にとっても楽な選択肢だ。
 だがそれでいいのか?と僕は時々思う。
 逃げ道には限界がある。その限界までに追い込まれたとき、人はどうなってしまうのか。そんな考えが僕の頭の中を巡る。
 あいまいは楽な逃げ道であり、脆いガラスみたいだな。
 そう思い、僕はもう一度甘いようで苦い、カフェラテに口をつけた。

題名 あいまいなのは…

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