当たり前とは…、一般的に認識され、疑問を持たれることの少ない事象や状態をさす言葉。
世間一般の当たり前がこの意味だとするなら、私の当たり前は“少し“変わってるのだろうな。
そう不意に私は思った。
「楓~!おはよ!」
見慣れた通学路を歩いていると、背後から活気溢れた声が聞こえた。
振り替えると、私と同じ紺色の制服を着ている親友、双葉が手を振りながら駆け足で近づいているのが見えた。
「双葉、おはよ。」
私は微笑み、彼女に手を振り返す。
だがその途中、双葉の後ろにピタリとくっついている“黒い人影”が私の顔を強ばらせた。
「……昨日出ていた数学の課題やった?」
気持ちを切り替え、私は双葉に尋ねる。
「課題…?……やば忘れてた。楓お願い!後で課題見せて!」
双葉は慣れた口調で私にせがむ。
「えー、前もそう言って見せてあげたじゃん。」
「お願いだってー!今度コンビニスイーツの新作奢るからさ。」
「えー、…もうしょうがないなー。」
私は仕方なく、双葉の頼みを聞くことにした。けして、スイーツにつられたわけではない。けして、そうではない。
「やったー、ありがとね!」
双葉はほっと一息つく。
私は双葉と何気ない会話を楽しんでいると、不意に彼女の背後をチラリと見た。
成人男性ほどの人影が相変わらず、双葉の背中にピタリと張り付きゆらゆら揺れている。
一方、双葉は後ろの人影を気にしていない様子であった。いや、”気付いていない“という方が正しいのだろう。どっちにしろ、人影は双葉から離れる素振りを一向に見せない。
仕方ない。また、あの手を使うか。私はそう思った。
「あっ、双葉!アレ何かな?」
私は不意に正面右斜めの方向を指差す。
「え?!なになに?」
双葉は連れて私が指差した方向に目をやった。
それと同時に私は指差していた手で双葉に張り付いていた人影を“振り払った”。
人影は無抵抗のまま黒い灰を撒き散らし、消えていった。
「何もないけど?」
事を終えた途端、双葉はキョトンとした顔をして聞いてくる。
「ああごめん。私の勘違いだったみたい。」
私は何事もなかったかのように平然とした。
「そかー。あっねえ、そう言えばさ…」
双葉は私の不振な行動を気付いていないのか、呑気に話し始める。
そして私もその話し声に相づちを打ち、楽しく平和な会話をしだした。
私の人とは違う当たり前は霊が見え、祓えることだ。
そして双葉は霊感はないものの、引き寄せ体質らしく、度々霊に憑かれてしまう。
そのため私は彼女に取り憑いた霊をこうして祓っているのだ。
これは双葉にも誰にも言えない私の秘密の当たり前だ。
題名 少し変わった私の当たり前
7/9/2024, 1:05:20 PM