今から話すことは僕が子供の時に体験した、不思議で忘れられない話だ。
当時僕は体調を崩す度に入院を強いられる程、体が弱く、病弱であった。
あの時は、肺か気管支を患って何度目かわからない入院生活を送っていた。
寝たきりでありながらも、思考と口は元気な子供であった。変わらぬ景色とただ過ぎてゆく日々に常に不満を募らせながらもやることがなく、呆然と窓から見える青い空を眺めてばかりであった。
そんな退屈な入院生活を送っていた僕だが、友達ができた。彼女は気がつけば病室の窓際の椅子に座り、僕に話しかけてくれる。太陽の光に照らせれ、壁に写る影が羽が生えているように見えたから僕は彼女のことを「天使さま」と呼んだ。
天使さまとの会話はとても楽しく、心地よかった。嫌だった入院生活が悪くないと思える程であった。
だがそんなある日、僕の容態は急激に悪化した。あの日は頭がボーッとしていて、何も考えれない。寒いのか暑いのかもよく分からなかった。
いつもより視界が霞む中、窓から見える青い空を眺めていると天使さまが現れた。
「天使さま、こんにちわ!今日はね……」
話そうにも口が上手く動かない。必死になった言葉を話そうとしていると、天使さまは僕にゆっくり近づき、僕の手を握りしめた。その手は柔らかく、日の光みたいに温かかった。
「もう、お別れみたいだね…。楽しかったよ、今までありがとう。」と天使さまは寂しそうに僕に微笑んだ。
「どういうこと?」そう聞こうとする前に天使さまは僕の手を離し、何処かに行ってしまった。この時僕は、このままだと二度と天使さまに会えないと直感的に感じた。何とか声を出したかった。だが声が届くことはなかった。
その後不思議なことに僕の容態は回復していき、そのまま退院することができた。
それ以降、僕は入院するほどの体調を崩すことはなくなり、
そして天使さまと二度と会うことはなかった。
「病院の天使さま」
11/8/2025, 4:33:51 PM