お題「欲望」
欲望は人類が発展していくたびに膨れ上がっていった。世の中は欲望で溢れてる
「あなたの欲望を満たして差し上げましょう」
男は狭い路地裏の地面に胡座をかいていた。
伸び切った髭に肩まであるであろう髪の毛はボサボサであった。
見るからに怪しく、決して清潔とは言えない。しかし男の周りには毎日たくさんの人が溢れかえっていた。
「俺は大金持ちになりたいんだ!」
「早く良い男性と出会って結婚したい!」
「勉強せずに大学に受かりたい!」
老若男女問わず何十人もの人々が己の欲望を赤裸々に路地裏の男に語っていた
男は静かにそれらを聞いて頷いていた。
それから男は立ち上がり、周りにいた何十人もの人の肩に手を乗せていった
最後の1人の肩に乗せ終わった。
男は言った
「あなたたちの欲望は満たしてあげましたよ。今日は帰ってゆっくり休みなさい」
先ほどまでの熱気は無く、周りの人々は皆んな虚な表情をしている
誰も自分の欲望を口にしない
皆んなの足は静かに路地裏の出口に向かっていった
「私の欲望は人々の欲望を喰らうこと、明日の欲望も楽しみだ」
人々の欲望という概念が生んだ欲望の化身は、路地裏の男として自身の欲望を満たしていたのであった。
完
お題「遠くの街へ」
私はこの街しか知らない
公園やショッピングモール、学校や公民館、神社もあるし浜辺だってある。
この街で人生の一生を過ごしたって何不自由無い生活が送れる気がする。
だから他の県に行きたいとも思わないし他の県の事を知りたいとも思わなかった。
「え、転校?」
突然の親からの告白
3ヶ月後に沖縄に引っ越す事になった。
今は中学1年生の11月。
2年生の春から沖縄の学生になる事が決まった。
「私ちゃんは親の都合で後3ヶ月で沖縄に転校することが決まりました、なのでそれまで皆んなで私ちゃんといっぱい思い出を作りましょう」
担任の先生が朝のホームルームの時間に、クラスの皆んなに私の転校の報告をした。
転校する事が決まっても私の学校生活は普段と変わらない。
授業を受け休憩時間は友達とお喋りして、放課後は部活をして、部活後や休日には友達とお出かけしたり。いつも通りの日常だ。
「実感が湧かない」
自宅のベッドに転がり呟いた
私はこの街しか知らない、他県にも行った事が無い。修学旅行だって2年生だから経験してない
「あ、皆んなと修学旅行行けないのか…」
修学旅行だけじゃなく、部活も勉強も遊びも今の友達と出来無いんだ。そう思うと少し悲しくなった
絶交する訳じゃないし、電話やLINEだって出来る
別に寂しくない。会いに行こうと思えば会いに行ける。
「沖縄から神奈川ってどのくらいかかるんだろ」
飛行機なのか船なのか、金額はどのくらいかかるのか全く分からないけど。夏休みは絶対神奈川の友達に会いに行こうと思った。
転校が近づくにつれ胃が痛くなってきた
新しい学校で友達はできるのだろうか
勉強も不安だ。学校によって教科書も授業の進み具合も違うはず
部活はどうしよう。
そういや沖縄って暑いのかな
転校の事を考える度に、寂しさや不安が募ってく。
だけど少しワクワクしてる自分もいた。
「とりあえず沖縄に着いたらまだ始業式前だから観光したいな!」
ーーーーーー
無事に中学1年生が終わった。
終業式の時はクラスのみんながサプライズしてくれた。
クラスの皆んなが書いてくれた寄せ書きも貰ったし。先生からもクラスの皆んなで撮った写真が入ったフォトフレームを貰った
野外活動の時の写真だった
「私ちゃんはうちの卒業アルバムは貰えないから、皆んなの顔忘れないように先生からのプレゼントです」
先生がそう言って私は気付いた
そっか、私が卒業する中学は転校先の学校になるんだ。
クラスのみんなとは終業式の日はたくさん喋った。
仲が良かった子や、全く喋った事なかった子ともたくさん喋った
「楽しかったな」
沖縄に到着して約半年が経っていた。
友達はすぐ出来た。
周りの子が気さくに喋りかけてくれたのですぐ打ち解けられた。
勉強の方は。教科書は全然違うし、前の学校でやった事を授業して、逆にやったとこない範囲もあったりで少し大変だった。
部活もなんとかやっていけそうだ
「にしても沖縄って案外暑くないんだね。風が強いし乾燥してるからかな?それに海綺麗すぎ!想像通り!」
1人沖縄の浜辺に来てはしゃいでいた
夏休みになっていた
神奈川に行きたかったが、部活が忙しくてまとまった時間が取れない
なにより交通費が高かった事を知って、気軽に行けそうにないと思った
「まあ、連絡はしてるからいっか。大学受験で神奈川の大学に行けるように頑張ろっと」
神奈川の大学に行ったら近いから皆んなにまた会いに行けるかも!と考えたが、その思考はすぐ消えた
「でも神奈川じゃなくてもいっか、もっと遠くの大学に行ってもいいかも、んー、次は北海道だな!」
私は心の内で密かに大学を北海道にすると決意した
完
お題「現実逃避」
「今日は最高の日だ」
今の僕は誰から見ても最高に輝いて見えるのではないだろうか。
比喩ではなく実際に幸福なオーラで輝いてるに違いない、きっと太陽より眩くて目も開けてられないだろう。
「おはようございます!」
大声で学校の門の近くに立ってる先生に挨拶をした
誰よりも大きな声で挨拶したので周りの視線が痛いがお構いなしだ
「なにしろ今の僕に怖いものなんてないからな」
教室に入るまでも皆んなの視線が僕に集まっている
よほど輝いて見えるのだろう
口角を少し上げて誇らしげに教室に入った
「おっはよー!」
大声で挨拶した
皆んな一瞬驚いた表情をしていた
何しろ今迄教室に入る時に大声で叫んだ事なんてないからな。
しかし今日の僕は輝いてるから大声で挨拶なんてお手のものだ
いつもよく一緒にいる友達はまだ来てないようだ
僕の挨拶に誰の返答も無いのは少し悲しい。輝きすぎたか?
席に着く
輝きすぎてるせいか皆んなが僕から遠ざかってる気がする
遠巻きに何やら内緒話をしている
今日の僕って輝きすぎてかっこいいってか?!
「やばいぞ、学校の人気者になったらどうしよ」
机に座って窓の外を眺めながら微笑んでいた
すると少しして
「ん、なんだこりゃ!?」
僕の仲の良い友達の声だ
彼が教室に入ってきた
「おいおい、なんか今日学校中う○こ臭いんだけどやばくね?」
彼は何を言っているんだ?
すると
僕の輝きに気付いた彼が近づいてくる
「え、おま、お前、クク」
彼は僕を見て一瞬眉を顰めたが、すぐ大笑いをし始めた
「何俺の顔見て笑ってんだよ」
と彼を小突いた
彼は目を細めながら
「いや、おま。クク、頭に鳥のフン乗っけて、ハッハ。ってよく見たら、ズボンくせー、ハハハ」
僕の現実逃避はここまでだ。
完
お題「君は今」
僕はいつも君を見てるよ。
夕方前のいつもの時間
チャイムの鐘が鳴った
「そんじゃ今日のホームルームもこれでおしまい、皆んな気をつけて帰れよ」
「「はーい」」
ある人は部活に、ある人は教室で雑談、ある人は帰宅、皆授業中とは違い生き生きとした表情だ
そして彼女も
「うん!また明日」
僕はいつものように彼女の後ろを着いていった。
そして彼女は自宅の庭に入っていき、一緒に帰っていた友人に手を振り、扉を開けて玄関に入っていった。
今日も彼女は無事に家に帰れた
良かった
僕が見守っていかなくちゃ
毎日彼女の事を思ってる
いつも玄関までの彼女しか見ていない
そうだ
今日は家の中の彼女も見守ろう
いつもは家の中までプライベートを見るのは気が引けたけど、たまには家の中でも見守っとかないと心配だ。
僕はすぐ行動に移した
静かに音を立てず家の中に入った。リビングや周りを見渡したが両親や彼女の姿は無い。
2階の部屋にいるのかな
そう思った僕は2階に続く階段を進んでいく
静かに、音を立てずに、
しかし僕は思った
別に悪いことをしてる訳ではない、強盗や空き巣をする訳でもない、ただ彼女を見守るだけだ。
でもこれは、不法侵入になるのかな。
ふと疑問が浮かんだが、彼女の部屋を目の前にしてその思考は消し飛んだ。
何個か部屋があったが、扉の表札を見てここが彼女の部屋だとすぐ分かった。
「でねー」
「うん」
「そうそう」
中から声が聞こえる。
よく聞こえないが友達と電話しているようだ
良かった
僕が学校で見る限りの彼女は友人が多くて楽しそうだ。
少しおっとりしたような性格だが、勉強も真面目で図書館でもたまに1人で勉強してる。友人の相談もよくのってあげてるのを見る。多分聞き上手なのだろう。
今日はもう見守らなくても大丈夫だろう
電話の元気な声を聞けたので、僕は帰ろうと階段まで静かに足を運んだ
その時
ドカドカドカドゴン
迂闊にも僕は階段で足を滑らせてしまい、大きな音を鳴らしてしまった。
僕が、尾行のプロの僕が、
やばいと思ったが遅かった
「誰!?」
彼女は勢いよく音がした階段に近づいてきた。
「ママ?パパ?」
僕は階段の下に倒れたまま
下から彼女を見上げた
目があってしまった
彼女の視線は階段下を覗いたまま
「誰も、いない」
「ママとパパはまだ帰ってこない時間だし、気のせい?すごい音がしたのに」
困惑した彼女が階段を降りて近づいてきた
目と鼻の先に彼女がいる
「びっくりしちゃって電話切っちゃった。うぅ…」
目の前で彼女は泣いている
僕が大きな音を立てて怖がらせたからだ。
違う。
彼女は今も変わってないんだ
「電話してなきゃ…..ぐす…..誰かと話してなきゃ….かんがえちゃうのに。うぅ」
彼女は泣いている
「お兄ちゃん…」
彼女が泣きながら僕を呼んだ
「….っ。お兄ちゃん….帰ってきてよ….」
目からは大粒の涙が溢れている
僕は怖かったんだ。
またこの泣き顔を見るのが。
だからこの家には戻れなかった。
2階の僕の部屋の表札は残っていた。きっと部屋の中も当時のままだろう。
2週間前に僕は交通事故でこの世を去った
妹とは仲が良かったから
事故の日以降、家の中でずっと泣いてる彼女を見るのが辛かった
幸い学校では友達と明るく過ごしてたかから僕は安心してしまっていた
彼女は目の前でしゃがみこんで泣いてる
僕は彼女の頭に手を置いた。すり抜けるので感触の無い形だけの行動だが。
君の事見守ってるから
彼女に、僕の手の温もりが伝わって欲しい。そう願いながらそっと呟いた
完
お題「物憂げな空」
天気が悪いと気分も落ち込んでしまう
「私は気分屋だな」
使い方は違うかもしれないが、天気によって簡単に変動してしまう性格は気分屋と言ってもいいだろう。
特に雨の日や曇りの日は私の気分値は最底辺だ。
「でも雪の日はテンション上がるんだよなあ」
そう言って太陽が出て無いことが原因ではないなと思い改めて悩んだ
今日は生憎の雨だ
「濡れる濡れるー」
仕事の帰り道。
大雨では無いが傘も万能ではない、風で雨が横殴りに降ったり、地面の水溜まりに何度も引っかかり足元はびしゃびしゃである
辺りも暗くなってきた
街灯がポツポツと照らされて、その光で雨がよく見える。
大学を卒業して新入社員として働いてようやく2年目の春
今だに仕事に慣れない
「明日も雨だったら出勤するの憂鬱だよぉ」
辺りに人がいないのを確認してため息混じりの独り言を呟いた
見慣れた道。
当たり前だもう一年以上も同じ道を歩いてるのだから。
そのはずだ
「おかしい」
夜の雨だからって見慣れた道を間違えるはずがない
なのに脳を過った違和感を拭いきれない
「なにか、違う?」
私は少し立ち止まって辺りを見渡してみた
見慣れた街だ
人はいない。人がいないのはいつものことだ。
ここは商店街からも離れており、賑わってる風景もない、右側は道路を挟んで川が流れており左側はポツポツ住宅やお店があるだけだ
「おや、君はだれかな?」
「!?」
声のした方に振り返った
「痛っ」
首の回転に勢いをつけ過ぎて捻ったがお構いなしにその声の主を確認した
暗くてあまり見えないが
真っ白なローブを纏い、頭にはフードを被ってる老人らしき人がいた。手の届く距離に立っていたので私は驚いた
「びっくりしたー、えっとどうされましたか?」
恐る恐る老人に話しかけてみた。
あなたの方が誰よ!と心の中では老人に叱咤した。
「おや、やはり見えておるのか、声も聞こえとるみたいじゃの」
「え、あ、はい見えます、ね?」
暗闇の中の老人の表情が困惑したように見えて
「え、ゆ、幽霊!?」
「いきなり失礼じゃの、ほっほ」
老人は笑っていたが、確かに初対面をいきなり幽霊扱いしたら失礼かもと少し反省した
「じゃが、幽霊と言うのも些か間違いではないかもしれんのぉ」
「え」
冗談なのか本気なのか分からない言葉に固まってしまった
「まあワシのことはさておき、お主はここにいてはいかんのじゃ」
「右手に川があるじゃろ。あそこ、月明かりに照らされてる場所に飛び込みなさい」
老人は川に月の光が写ってる場所を指差した
「え、えーー?」
老人は私に入水させる気らしい
いや飛び込むだけなら泳げば大丈夫、なはず、川も荒れてない
「いやー雨ですし、寒いですから、ちょっと遠慮したいですね。はは」
苦笑いを浮かべつつ言った
それにここにいてはいけないの意味が分からない、
ここは家の帰り道なのに。
「えっと、ここにいてはいけないようなので、すぐ離れますね。失礼します!」
振り返り進もうとしたら腕を掴まれた
「ひゃっ」
冷たかった
「待ちなさい、おかしな事を言っておるのも分かっておるがのぉ。じゃが時間が無い」
「時間。?」
「うむ、もう見えとるじゃろ?」
私は辺りを見渡した
何が見えるの、と言おうとしたが
「空が」
空の様子がどうもおかしい。傘をかけていて上を見ていなかったが、空が何かに覆われている。雲でも星でもない、人間が想像したことない、する事の出来ない何かが空を覆っている。
「早く!」
老人の言葉に咄嗟に傘を放り投げ、川の光に飛び込んだ。
ーーーーーー
分からない
飛び込んだ時頭の中では「私このまま溺れて死ぬの?」と不安がよぎった
訳のわからない老人の言葉をなぜ信じた?老人の言葉の圧力が凄かったから?いや本能が体を動かしたのかも。
自問自答の時間は次第に薄れ、意識は覚醒していく
ーーーーーー
目が覚めたらベッドの上だ。見慣れた部屋、自分の家だ。
「昨晩は雨が酷くて急いで帰って、疲れてすぐ寝ちゃったのか。」
朝の支度をして、いつも通りの時間に出勤する
玄関に行き、ふと気づく
「あれ?傘が無い」
昨日は雨だったから傘をどこかに置き忘れるはずがない、記憶が少し曖昧だけど
「桃色の傘でお気に入りだったのにー。」
一瞬悲しい表情を浮かべたが
「まあしょうがないっか、見つかるまで新しいの買って使お!」
玄関のドアを開けて叫んだ
「今日は晴れだー!」
私は天気が悪いと気分がすぐ落ち込む気分屋だ。
と思っていたんだけど
雨の日でも、晴れの日とは違う景色を見れるし、何より涼しいから思ったより嫌いじゃなかったのかも
完