あひる

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2/24/2023, 12:04:44 PM

お題「小さな命」



辺り一面緑の草木に囲まれた森の中、今日も熱心に働いている。

「今日も皆んなで遊んでる」

小さな男の子が草木をかき分けそれを眺めている
男の子にとっては見るもの全てが興味の塊である
男の子の目は輝きで満ちていた。

「なんでこんなに集まってるんだろ。大人も子供も一緒にいて楽しそう」

男の子にとって働くという意味の理解はまだ乏しいのだろう。しかし大人と一緒に子供が同じ作業をしている光景は男の子にとって親子で遊んでいるようなものだった

「パパとママまだかなあ」

父親と母親三人でお出かけしていたが、両親の姿がいつの間にか見えなくなり、男の子が先に行き過ぎたと二人を待ってるようだ
だが実際は男の子自身がはぐれてしまった事に本人は気づいていない

「遅いなーパパとママ迷子かな」

このような場面では多くの子供は両親とはぐれた事による不安で泣き出してもおかしくないのだか、男の子は肝の据わった性格をしており全く不安は感じていない
反対にこの時の両親の不安は尋常ではないだろう。

「遅いから僕もみんなと遊ぼうかな」

男の子は働いてる集団に少し近づいてみた
大きな大人はもちろん、小さな子供まで何やら物を運んでいる

「どこに運んでるんだろ」

運んでる先に目線を動かすと

「洞窟だ」

両親と冬に雪でお城を作って秘密基地にした記憶が浮かんだ
途端に冬が楽しみになってきた

「またお城作って雪だるまも作りたいなあ」

男の子はボーッと働いてる集団を見ていた
すると何やら聞き慣れた声が聞こえた

「ーーーー!」

「パパだ!」

父親が男の子の名前を呼びながら探していたようだ
男の子は声のする方へ走った

「パパママー!」

二人を見つけて笑顔を浮かべる男の子
両親が迷子になっても動じなかったが、二人に会えるとすぐに抱きついた。やはり少し寂しかったようだ


ーーーーーー


帰り道

母親に「何してたの?」と聞かれたので男の子は

「アリさんの行列があったから着いてった!」

「ああ、アリさん見てたのかあ、心配したぞ」

父親が小さく安堵の言葉を吐いた

「アリさん達が洞窟に何か運んでたの見てた!」

「それは多分アリさん達の食べ物かもな」

「あれ食べ物だったのー!あっ!パパ止まって!」

ふと男の子がパパの歩行を両手を広げて静止した
男の子は下を向いてその場にしゃがみこんだ

「パパ危ないよ、アリさん達踏んじゃうとこだった」

父親の足先には蟻の行列ができていた。その行列道を挟んで草木の方へ伸びていた。

「あ、ほんとだ気づかなかったなあ、ありがとな」

「どういたしまして!」

両親は互い顔を合わせて微笑む

息子が命についての理解がどの程度か分からないが、蟻の命を大事に思える息子で良かったと、改めて心から思った日であった。




















2/23/2023, 11:18:59 AM

お題「Love you」



「今日も隣が騒がしいな」

毎日この時間になると、壁越しから大声を上げたり体に響くくらいの騒がしい音が聞こえる。

「俺だって大学の頃良く皆んなで飲んでたけど、こんなに毎日騒いだことないぞ。」

ここに引っ越してきて1週間は経っていた。
呆れた表情を浮かべながら、手に持ってたビールをぐっと喉に押し込んだ

「っかー!うめー!」

「でもそろそろ苦情の1つでも言ってやろうかな、でもなあ、ご近所さんと変な軋轢は生みたくないんだよなあ」

自分自身の性格はよく分かってる。こんな時に迷わず文句を言いにいけるような性格ではない。

「勇気があれば。」

そう呟いた直後

何かがおかしい

一瞬頭をよぎった疑問はすぐビールのアルコールで流された。
毎日の終わりはお酒で終わる。今日も明日も明後日も。

そして


次の日も

「うるさい。何て言ってるか分からないが、とにかくうるさい」

また次の日も

その次の日も

「うるさいうるさい!」
1ヶ月は経っていた
両手にはビール瓶と箸をそれぞれ持ち、用意していたおつまみに箸を持っていく

「今日は絶対苦情を言う!これ食ったら言いにいく!」

「俺はやる時はやる男だ。」

前にも言った事がある。
あの時は。


ーーーーーー


男は玄関を出て
隣の物置きの鍵を開けた


「そうだった。あの時も俺は勇気を出して行動したんだ」

「思い出した」

「君の事。愛してるよ。」


ーーーーーー


後日

1人の女性が保護され1人の男性が逮捕された

周りは獣道ばかりの森の中、決まった時間に近くの山道を歩いてた男性が、一軒家から女性の悲痛な叫び声が聞こえてきたことに気づき、その後通報して発覚した。










2/22/2023, 1:08:07 PM

お題「太陽のような」



「俺らってさ、似てると思わない?」

風で掠れる草木の音が鼓膜に響くくらい静かな夜に、何の前触れもなく呟かれた言葉が聞こえた

「似てる、のかな?」

初めて似てるなんて言葉を言われた気がする
そんな疑問すら浮かんだ事が無かった

「例えばどの辺が似てるの?」

知りたくなった
確かに見た目は似てる気がする。でもそれだけだ、少なくとも私はそう思う

「例えばねえ、見た目!」

「うん。他には?」

「性格とか?」

「性格って、全然違うじゃん笑」

「うん、そうなんだけどさ、いやー、似てる部分もあるっていうか何ていうか」

「何が言いたいの?」

「いや、うん、」

少しの沈黙の後に

「俺ってさお前に嫉妬してんだよ。」

はっきり言ってくれない彼に少し声のトーンを下げてつい語尾が強くなってしまったが、彼に返された言葉に少し動揺して

「嫉妬?」

と次は困惑した声で返してしまった

「そう嫉妬、俺ってさお前にずっと嫉妬してた。俺はお前みたいになりたかった」

私になりたかったという言葉の意味が一瞬わからなかった。

でも

確かに私もあなたみたいになりたいって思った事がある。私は明るくても誰にも近いてもらえない、あなたは私とは違う。

彼は続けた

「お前はいつも明るく輝いていて、皆んなに元気を与える。どんな暗闇も明るく照らしてくれる。皆んなが感謝してるのはお前なんだ、俺なんて存在する意味なんて無いんだ」

それは違う。自分を卑下しすぎだ
私は心の中で憤りを感じた

「違うよ。あなたの存在はとても大事だよ」

彼は黙ったままみつめてる

「あなたがいるから暗闇を照らせる時がある。あなたがいたから、今の地球がある、あなたのその体中の傷は地球を守ってきた証だよね、私は知ってる。だからあなたは存在してる事がとても意味のあることなんだよ」

「俺は君のような、太陽のような輝きを放ちたかった」

「うん。私も本当はあなたのように、皆んなが近づいてくれるような存在なりたい。君が、月がいるから私の光は夜の暗闇に届く。宇宙の法則から私達は私達でいる事しか出来ないけど、これからもこの広くて狭い宇宙の、私達の銀河でよろしくね」







2/21/2023, 11:51:01 AM

お題「0からの」



「初めまして!今日からお世話になります私と言います!よろしくお願いします」

頭を上げると
私の目の前にいる10名ほどの男女と視線が交わった
数名が拍手しており、笑顔の人や真顔の人、睡眠不足なのか欠伸をしてる人もいる
先日ここに来る前面談をしてくれた人が私を紹介した後、集まった人達は解散していった。

今日からここが私の居場所なのだ

しかし自分でも驚いている
私は現在17歳のピチピチの女子高生だ。これまでの人生、勉強も部活も友人関係も何不自由なく過ごしてきた。怖いものは何も無かった、将来について考えた事はあるけど、やりたい事やなりたいものも無かったので、とりあえず良い大学に行こうと勉強だけは真面目にしてきた。成績も悪くない。

何も怖くない
私は何でもできる

私の体は少し震えていた

面談してくれた人が今日の仕事について私に話かけてくれていた
私は震えを抑える事に必死で話の内容をあまり聞きとれなかったが、とりあえず相槌をうっていたら

「じゃあよろしくね」

と面談した人の声が聞こえた後、面談した人は別の場所に行ってしまった

やってしまった。話の内容を全く覚えてなかったので、何をすればいいのか分からない
友人と会話してる時や授業中に別の事を考えてて聞き逃した時と同じだった

「私ちゃん今の話聞いてた?笑」
「え、ああ。聞いてたよ!」
「えーうそー?笑この前の〇〇先生のおもんないボケをどうすれば面白くなるか考えてたんでしょ!」
「なぜピンポイントに!?笑」

懐かしい
ふと思い出してしまった。やっぱり人の話聞いて無いって事相手は気付くのかな

もう会えないんだ

ふと声が漏れた

ハッと気づいて
「ダメだダメだこんなんじゃ」と誤魔化した。

とりあえず内容は分からなかったから、周りの人を見て真似してみよう

私は元気よく挨拶したり、皆んなの真似をしたり、近くの人に聞きながら何とかやりくりしていった
私はできる
私は大丈夫
心の中で何度も自分を鼓舞しながら、不安や恐怖を出さないように、何度も心の中で自分を称賛した。


ーーーーーーー


「今日来た新人ってどんな人なんすか?やたら元気でしたけど」

「ああ、私ちゃんか、あの子なあ。」

「何か訳ありっすか?確かにここはそんな人多いですし、寮もあるから家出した人が来るにも丁度いいっすよね」

「家出か」

面談した人は困惑気味の顔をして呟いていた

「やっぱ家出なんすかねー」

「そうかもな。事情はもう少しあの子がここに慣れたら聞いてみよう。あの子は面談する前に街で出会ったんだが、その時にあの子が言ってた事が少し気がかりだな。」

「何て言ってたんすか?」

「住所が無い!街は一緒なのに何か違う!ここ地球?でも私の家はある!でも表札が違う!知らない人が住んでた!怖い!助けて!とか言ってたな。」











2/21/2023, 10:21:03 AM

お題「同情」



同情される人生なんてまっぴらごめんだ

四半世紀の人生、多くの失敗や成功を経験してきたが、全て自分自身で選んできたことだ。
だからどんなに困難でも、どんなに辛くても陽気な性格を貫いてきた。

「なのになぜ私はこんなに落ち込んでいるのだろう」

真昼の公園のベンチに座っていた男は、悲壮感に満ちた表情をしながら小さく呟いていた。

「何であの時ッー」

言葉にならない感情が今にも溢れそうな時、無意識に大声で叫びそうになったが、奇怪な目で見てくる人達を見て、一瞬我に返って声を殺した。
ここは真昼の公園だ
犬の散歩をしてる女性、ランニングしてる男性、公園にあるさまざまな遊具では数人の子供達が元気に遊んでいる。
それにしても視線が痛い。

「せっかくの休日の真昼に俺は何をしてるんだろう」

いつもなら友人と遊んだり、趣味に没頭してる時間だ。
ただ公園のベンチに座り、景色を眺める趣味がある人がいてもそれを馬鹿にする気はない。趣味なんて人それぞれだ。
ただ私にとって、今公園のベンチに座って景色を見ている事は、辛い現実を忘れる為にどうすればいいか、思考を巡りに巡らせて辿りついた結果である。

昨日同僚に言われた事を思い出してみた

「私さんは勿体ないよな、おれだったら私さんとは結婚できねーな」
「たしかに、私さんはねー見た目がねぇ」
「はは、そうかもなあ」
「でも私さんって性格はいいじゃん性格は!」

他愛もない会話だ
同僚の2人も笑ってる。私も笑ってる
悪意の無い3人の会話、その一部分だけずっと心に残っていた。
見た目で結婚出来ない事への同情なのか、そう感じてしまっていた。


私は現在独身だ、最近結婚ラッシュが来たみたいで高校や大学の頃の友人の結婚式に何度か参列させてもらった。
結婚願望が無いわけではない。
できないのだ
自分でも分かってる

見た目が原因だ
なぜ人は第一印象は見た目から判断してしまうのだろう、そんな分かりきった事を考えていた。
私の見た目は大学の頃から変わってないのに。そう呟いていると

「ちょっと君?」

「!?」

ベンチに座ってる私に声をかけてきたのは、青い服を着ていて強面の大柄な男性だ。警察だ

警察に言われた言葉で、「ああ、また見た目で判断された」私は再び深い悲しみに覆われた

「ブーメランパンツ一枚で何してるの?あっこれボディビル用のパンツ?凄い筋肉だね、身長は2.5メートルくらい?大きいねえ、着れる服が無いのかな?んーとりあえず警察署行こっか」




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