あひる

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お題「小さな命」



辺り一面緑の草木に囲まれた森の中、今日も熱心に働いている。

「今日も皆んなで遊んでる」

小さな男の子が草木をかき分けそれを眺めている
男の子にとっては見るもの全てが興味の塊である
男の子の目は輝きで満ちていた。

「なんでこんなに集まってるんだろ。大人も子供も一緒にいて楽しそう」

男の子にとって働くという意味の理解はまだ乏しいのだろう。しかし大人と一緒に子供が同じ作業をしている光景は男の子にとって親子で遊んでいるようなものだった

「パパとママまだかなあ」

父親と母親三人でお出かけしていたが、両親の姿がいつの間にか見えなくなり、男の子が先に行き過ぎたと二人を待ってるようだ
だが実際は男の子自身がはぐれてしまった事に本人は気づいていない

「遅いなーパパとママ迷子かな」

このような場面では多くの子供は両親とはぐれた事による不安で泣き出してもおかしくないのだか、男の子は肝の据わった性格をしており全く不安は感じていない
反対にこの時の両親の不安は尋常ではないだろう。

「遅いから僕もみんなと遊ぼうかな」

男の子は働いてる集団に少し近づいてみた
大きな大人はもちろん、小さな子供まで何やら物を運んでいる

「どこに運んでるんだろ」

運んでる先に目線を動かすと

「洞窟だ」

両親と冬に雪でお城を作って秘密基地にした記憶が浮かんだ
途端に冬が楽しみになってきた

「またお城作って雪だるまも作りたいなあ」

男の子はボーッと働いてる集団を見ていた
すると何やら聞き慣れた声が聞こえた

「ーーーー!」

「パパだ!」

父親が男の子の名前を呼びながら探していたようだ
男の子は声のする方へ走った

「パパママー!」

二人を見つけて笑顔を浮かべる男の子
両親が迷子になっても動じなかったが、二人に会えるとすぐに抱きついた。やはり少し寂しかったようだ


ーーーーーー


帰り道

母親に「何してたの?」と聞かれたので男の子は

「アリさんの行列があったから着いてった!」

「ああ、アリさん見てたのかあ、心配したぞ」

父親が小さく安堵の言葉を吐いた

「アリさん達が洞窟に何か運んでたの見てた!」

「それは多分アリさん達の食べ物かもな」

「あれ食べ物だったのー!あっ!パパ止まって!」

ふと男の子がパパの歩行を両手を広げて静止した
男の子は下を向いてその場にしゃがみこんだ

「パパ危ないよ、アリさん達踏んじゃうとこだった」

父親の足先には蟻の行列ができていた。その行列道を挟んで草木の方へ伸びていた。

「あ、ほんとだ気づかなかったなあ、ありがとな」

「どういたしまして!」

両親は互い顔を合わせて微笑む

息子が命についての理解がどの程度か分からないが、蟻の命を大事に思える息子で良かったと、改めて心から思った日であった。




















2/24/2023, 12:04:44 PM