お題「日常」
あの日の感じた感情、今でも鮮明に覚えてる。
喜びや悲しみ、感情の波が常に押し寄せてきて情緒不安定だったあの頃。
あの頃を思いだしてる私のこの感情は何だろう、懐かしみを感じてるだけで言葉に表せない。
「過去には戻れない」
何度過去に戻りたいと思ったのだろう。
過去に特別良い思い出があるわけではないし、過去に戻ってより良い未来に変えてやろうとか思ったわけでもない。
「ただ、一言ありがとうを言いたかったな」
10年経った今、私には普通の日常がある。
でも、これから先の私の日常の中で「ありがとう」をあの人に伝えることはもうできない。
「でもね」
私は首を上げて前を向いた。
「この後悔のお陰で、「ありがとう」って言うのが口癖のようにすぐ出てくるようになっちゃった」
私は前を向いて言う
「だから、ありがとう」
完
お題「桜散る」
「初めまして」
お互い挨拶を交わし、桃色に染まってるベンチに腰を下ろす
座って気づいた。自身の心臓の音がこんなにも大きくなっていたことに。
この心臓の音はもしかして隣の彼女にも聞こえてしまっているのではないかと思いながら、隣に一緒に座った彼女を見つめた。
「星が綺麗ですね」
彼女の言葉に私も空を見上げた。私の瞳は満点の星空と大きな桜の木によって埋め尽くされた。
「本当に綺麗、あっ流れ星」
「凄い!ワタシ初めて見ました。何か願い事しなくちゃですね」
彼女は初めて流れ星を見たようで凄く嬉しそうな表情をしている。
「願い事かあ、なた私はあなたの名前が聞きたいな」
「そんな願いでいいんですか?そんなの願わなくても教えてあげますよ。私の名前は栞ですよ」
ー知っているー
私にとって馴染み深い名前だ
「栞さんか、私は桃だよ」
「桃ちゃん!いい名前ですね」
ベンチに座り少しの間お互い他愛の無い会話をしていた。
23時55分、辺りは静けさに包まれている。
街灯の灯りがベンチと少女二人、そしてそれを覆う大きな桜を照らしていた。
「そういえば今日はあなたに渡したい物があったんです」
「え?私に?」
「はい。これです」
栞が手持ちの鞄から何やら取り出している。
「これは、本?」
受け取った物を見て何やら小さな本だとわかった
暗くて文字は読めないが、街灯の灯りで薄暗い中、何とか表紙の絵が見えた
「これは、虹と月?」
「はいそうです。あなたに受け取って欲しかった。これはワタシの宝物ですから」
宝物。そんな大切な物を受け取ってよいものか
少しの葛藤があったが、わざわざ今日私に持ってきてくれたのだと思い、嬉しい気持ちを抑え本を開いてみる
「暗くて読めないけど、これはどんな内容なの?」
「うふふ、今読まなくでも大丈夫ですよ。内容も後で読んで感想教えてくれたら嬉しいです」
「そうだね。じゃあ帰って読むね。ありがとう」
栞はとても嬉しそうだ。
栞の笑顔はとても可愛くて、私もつられて笑顔になってしまう。いや、誰が見ても自然と笑顔になっちゃうんじゃないのだろうか。それほど笑顔が素敵な女性だった。
「桃さん、本当に今日会えてよかったです」
「うん。私も。」
お互い空を見ている
夜の桜と空一面の満点の星空は彼女達を包み込んでいる。
「次は、いつ会えるかな」
私の発言に彼女は笑顔で言う
「またすぐ会えますよ。」
彼女の笑顔で自然と私は微笑んだ
気付けば彼女の姿は無い
時刻は0時を過ぎていた。
ベンチに座り星を眺めている桃、桜の木からは桜が散って少女の周りを舞っていた。
手には栞から貰った本と、もう一つ小さな本が握られている。
「この本のお陰で会う事が出来た。若い頃のおばあちゃんってあんなに可愛いかったんだ。」
不思議な体験をした、そう心に思いながら呟く。
「私もここが思い出の場所になりそう。」
完
お題「夢が醒める前に」
想像した事もない景色
感じたことの無い香り
「人間は僕だけ?」
街の真ん中で少年が1人立ち尽くしている
周りには人がいっぱいいる。
否。正確には人ではない生き物達がいっぱいいる
全身半透明なドロドロな人、前が光ってる人、全身トゲトゲの人。
「ここは、地球?」
コスプレしてる人の集まりかと思ったがどうやら違うようだ。
ここは色んなお店が並んででおり、見たこともない商品がたくさんある。
レストランのようなお店もあり、中からは少し嗅いだだけでも口の中が唾液でいっぱいになる。今まで嗅いだ事のない美味しそうな匂いがしてくる。
「ここは商店街かな?」
少年は香りに食欲をそそられたが
それよりもこの状況について疑問を持った
「ここってどこなんだろ、もしかして、夢?」
夢ならばとてもリアルな夢だと感心した
「にしても言葉が全く分からない、日本語ではないよなあ、英語でもない気がする」
周りにいる人達は何やら少年には理解できない言葉を発してるようだ
学校で英語の授業を習ってる記憶を辿ってみて、記憶と比べてみても周りの人の言語は英語とも全く違うものだと感じた
「でもみんな凄く楽しそう。これってお祭りかなんかかな?」
周りは知らない言葉が飛び交ってる中。
雑音は何やら音楽のような音も聞こえてくる。
何とも心が弾む曲なのだろうかと感心した。
やはり音楽は世界共通なようだ
「ねえ。こっちきて」
ふと聞き慣れた言葉が聞こえた。これは日本語?
目の前の人だかりの奥から手を振る少女の姿が見えた
少女は少年に駆け寄り、少年の手を握った
驚いた少年だったが
そんな事お構いなしに少女は少年を引っ張って人混みの中を走った
「えっと君は?」
少年の問いに少女の顔は一瞬曇ったが
少女は少年の手にぐっと力を込めて
「会いにきてくれてありがとう」
少年は意味が分からないと思ったが
少女の震える手を感じて、疑問を抱く事をやめた。
「あのトンネルから通ってここにきたんだよね?多分もうすぐ夢から醒めちゃう」
夢とは何のことだろう?
少年はここに来た時の記憶が無い
「夢って?ここって夢の中?」
「ううん。夢だけど夢じゃない。少なくとも私にとっては。」
意味深な事を言われたが少年には理解できない。
そして走っていると目の前に大きな壁が見えた。
「これは、木?」
少年は見上げながら呟いた
目の前の幅10メートルくらいの、大きすぎる木はまるで壁のようだ。
「ここに一緒に来たかった。願いが叶ってよかった。」
少女は1人呟いた
心なしか瞳も少し潤んでるように見えた
少年は黙ったまま少女を見つめる
瞬きをした瞬間
脳が覚醒した
少年は咳込みながら目を開ける
草木の生える地面の上で、座ってる少年は全てを理解した。
「僕も会えてよかった。」
完
お題「泣かないよ」
生き物は感情を持っている。
人間に至っては感情を持ってる人がほぼ当たり前だと考えて良いだろう。
そして感情は表情や行動によって表れる。
「今日は機嫌が良さそうだね」
「見ての通り、最高さ!」
男はリズムを奏でながら手を叩き口笛を吹いている。
誰が見ても今日の彼は幸せそうだ
本日は快晴だ
「でもさ、あの話聞いたか?」
「ん?なんの話だ?」
「西側地区担当の奴の話なんだが、そいつが密かに好意を持ってた彼女が雷にうたれて怪我をしてしまったらしい」
「それは大変だな、彼女は大丈夫だったのか?」
「彼女は何とか無事だったが、雷をあててしまった事に責任を感じてまだ気分が落ち込んでるらしい」
話を聞いて少し不安が募った
僕は今最高の気分だ。
だから僕は大丈夫なはずだ
太陽は隠れ雲行きが怪しくなってきた。
「おい、不安にさせちまったか?気にすんなよ?」
「ああ、いや平気さ」
少し不安を感じたが、すぐに雲は晴れ天気は快晴になった。
ここは空の世界
空の住人の感情で地上の天気が変わる。
「僕は泣かないよ」
だってもうあんな思いはさせたくないから。
地上の一点。
小さな少女を見ていた。
彼女を洪水で怖い思いをさせてしまったのは僕だ。
だから僕はもう絶対泣かない。
今日も彼の見守る街は快晴だ。
完
お題「安らかな瞳」
ーなんでそんなに睨んでくるの?ー
ー君は怒られてる時もそんな態度なのかー
ーもっと愛想良くお願いねー
何度言われてきたのだろう
その度に私は深く傷ついた
「私の目って、嫌いだなあ」
鏡の前で私はため息を付いた
生まれつき目が細くて、真顔でも怒ってるように見える。
なるべく笑顔でいる事を心がけているが、笑顔もそんなに良いとは思えず、いつの間にか笑顔も少なくなっていった。
「化粧で多少は良くなるけどさあ」
私は再びため息をついた
今日は取り引き先に挨拶にいくのだが
今までも初対面の相手だとどうも感触が良くない
それもそうだ、笑顔が良い人の方が私だって好印象を覚える。
第一印象って凄く大事なんだなって改めて思った
「さてと、もう行かなきゃ」
朝事務所に挨拶に行って、すぐ先方に向かった。
今日は事務所から距離も近いし徒歩で移動だ。
「涼しくて助かるー」
夏も終わり紅葉が綺麗な季節だ
汗をかかないで済む事に少し気分を弾ませて歩いた。
「あれ?」
歩いていると目の前で女性が困っている様子が窺えた。
何やら袋が破れてなかに入ってた大量の果物を拾ってるよう。何とも色鮮やかな地面になっている。
たまにドラマやアニメで見るような展開だが、困ってる人をほっとく私ではない
「あのー大丈夫ですか?手伝いますよ!」
「あら、助かるわ、ありがとね」
近くで見て驚いた
とても美しい女性だった。顔も整ってるし全てのパーツが美しいと感じた
女優さんなんだろうか?と考えながら果物を集めていった
「これで全部ですかね?」
「そうね、本当に助かったわ。お嬢さんありがとうね」
この大量の果物1人で食べるのかな、とか思いつつも感謝の言葉に頬が緩んだ
「とても可愛らしいお嬢さんね、特に目が綺麗で良いわ」
「いえ、そんな、私は全然」
女性の言葉に咄嗟に両手で否定した
「そんな事ないわよ、貴方の瞳ってなんだか優しい感じがするの。現に1番に私を助けてくれたでしょ」
「いえ、それはたまたま、困ってる人が見えたので…」
「ふふ、照れなくても良いのよ。あ、これお礼に差し上げるわね。お仕事頑張って」
女性は手に持っていた林檎を私の手に包ませた。
赤みが綺麗で大きな林檎だった
「あ、ありがとうございます」
私のお礼を聞いて
女性は笑顔で軽く会釈をして遠ざかっていった。
「綺麗な女性だったな」
私は少し赤らんだ
女性が美しかったのもあるのだか、私の目をほめてくれたのがとても嬉しかった
お世辞だったかもしれないけどと思いながらも、嬉しさが溢れて頬が緩んでしまう。
「さあ、早く先方に会いに行かなきゃ」
揚々とした気分になり、私の足はいつもより早まった。
完