お題「桜散る」
「初めまして」
お互い挨拶を交わし、桃色に染まってるベンチに腰を下ろす
座って気づいた。自身の心臓の音がこんなにも大きくなっていたことに。
この心臓の音はもしかして隣の彼女にも聞こえてしまっているのではないかと思いながら、隣に一緒に座った彼女を見つめた。
「星が綺麗ですね」
彼女の言葉に私も空を見上げた。私の瞳は満点の星空と大きな桜の木によって埋め尽くされた。
「本当に綺麗、あっ流れ星」
「凄い!ワタシ初めて見ました。何か願い事しなくちゃですね」
彼女は初めて流れ星を見たようで凄く嬉しそうな表情をしている。
「願い事かあ、なた私はあなたの名前が聞きたいな」
「そんな願いでいいんですか?そんなの願わなくても教えてあげますよ。私の名前は栞ですよ」
ー知っているー
私にとって馴染み深い名前だ
「栞さんか、私は桃だよ」
「桃ちゃん!いい名前ですね」
ベンチに座り少しの間お互い他愛の無い会話をしていた。
23時55分、辺りは静けさに包まれている。
街灯の灯りがベンチと少女二人、そしてそれを覆う大きな桜を照らしていた。
「そういえば今日はあなたに渡したい物があったんです」
「え?私に?」
「はい。これです」
栞が手持ちの鞄から何やら取り出している。
「これは、本?」
受け取った物を見て何やら小さな本だとわかった
暗くて文字は読めないが、街灯の灯りで薄暗い中、何とか表紙の絵が見えた
「これは、虹と月?」
「はいそうです。あなたに受け取って欲しかった。これはワタシの宝物ですから」
宝物。そんな大切な物を受け取ってよいものか
少しの葛藤があったが、わざわざ今日私に持ってきてくれたのだと思い、嬉しい気持ちを抑え本を開いてみる
「暗くて読めないけど、これはどんな内容なの?」
「うふふ、今読まなくでも大丈夫ですよ。内容も後で読んで感想教えてくれたら嬉しいです」
「そうだね。じゃあ帰って読むね。ありがとう」
栞はとても嬉しそうだ。
栞の笑顔はとても可愛くて、私もつられて笑顔になってしまう。いや、誰が見ても自然と笑顔になっちゃうんじゃないのだろうか。それほど笑顔が素敵な女性だった。
「桃さん、本当に今日会えてよかったです」
「うん。私も。」
お互い空を見ている
夜の桜と空一面の満点の星空は彼女達を包み込んでいる。
「次は、いつ会えるかな」
私の発言に彼女は笑顔で言う
「またすぐ会えますよ。」
彼女の笑顔で自然と私は微笑んだ
気付けば彼女の姿は無い
時刻は0時を過ぎていた。
ベンチに座り星を眺めている桃、桜の木からは桜が散って少女の周りを舞っていた。
手には栞から貰った本と、もう一つ小さな本が握られている。
「この本のお陰で会う事が出来た。若い頃のおばあちゃんってあんなに可愛いかったんだ。」
不思議な体験をした、そう心に思いながら呟く。
「私もここが思い出の場所になりそう。」
完
4/17/2023, 3:00:39 PM