お題「平穏な日常」
目に映る景色は青く輝く海のみ
東西南北どこを見ても水平線しか見えない
「ここで暮らし始めてもう一年か」
直径10メートルの丸い島の真ん中で、男は腰に手を当て立っていた。
この島には木が一本生えているだけで、他には何も無い。
日中は魚を取って腹を満たし、日が落ちれば木の側で寝る。
「昨日の魚は不味かった。今日こそ美味そうなやつ捕まえてやる」
男は海に飛び込み魚を探した。無論男は服を着るなんて概念は持っていない。
島の温度は年中変わらず、外敵もいない。
魚は素手で捕まるくらい敵対心を持っていない。
男は簡単に魚を捕まえてきた。
陸にあがり、すぐさま魚にかぶりつく
「うん、うん、美味い!今日の魚は甘くて美味いな!」
魚の骨を口から抜き、海に返す
「食事を摂ったら運動だな」
小さな島を広く使い、男は島を走り回った。
そして地面や木を使い筋トレをして汗をかく。
命を脅かす存在はこの島にはいないが、身体を鍛えて体力をつけるに越したことはない。
魚を取るのも体力が必要なのだから。
「今日もそろそろ日が落ちそうだ」
太陽が水平線へと消えかかってる
時期に夜になるだろう
明かり1つないこの島は、月が無ければ数センチ先も見えない闇になる
「今夜は月が無いな、星が綺麗だ」
太陽が落ち、夜空は星で埋め尽くされている。
満点の星空は毎日見ても飽きない。
この男の平穏な日常はこれからも続いていく。
完
お題「愛と平和」
記憶とは完璧な物ではない
自分の記憶が全て正しいと言えるだろうか?
いいや、正しいと認識してる記憶でさえ、過去に戻って記憶を見てみればそれは偽記憶だった可能性もある。
長い時間は自分の記憶を自分自身無意識に美化して変えていっていまうのだ。
そして変わってしまった記憶は世界の誰も気付けない。
「僕の命と世界の平和、君はどっちを選ぶ?」
目の前に立つ少年が問いかけてきた。
とても不思議な光景だった。
足首ほどの高さに浮いている少年は、体全体が半透明で後ろの景色が透けて見える。
「私は…」
とっさに答えは出せなかった
それもそのはず
問いかけられた少女は、少年の名前すら知らない。
言ってしまえば赤の他人
誰だって初対面でこの質問をされたら困惑するだろう。
「えっと、あなたのお名前は?というか人間ですか?」
少し考えて質問には答えず逆に問いかけてみた。
少女はなにより、少年の名前とその存在の方が気になってしまった。
「僕の命と世界の平和、君はどっちを選ぶ?」
「え?」
少年の返答が予想外すぎて目を白黒させた。
一瞬聞き間違いかと思い、少年に再度同じ問いをした。
「あのー、あなたの名前を教えて下さい」
「僕の命と世界の平和、君はどっちを選ぶ?」
聞き間違いじゃない
少年は同じ言葉を繰り返してる
なんで?
少女は脳内は少年に対しての疑問でいっぱいになった
なんでそんな問いを私にしてくるの?
名前は?あなたは誰?
少女は両手を頭に置き悶々としていた
その時気づいた。
「みんな固まってる?」
少女の目に映るのは、羽を羽ばたかせながら空中で止まってる鳥、今にも一歩踏み出しそうな男性、廃棄ガスを撒き散らしながら走る車。
見るもの全てが止まっていた。
動いているのは、目の前の少年と私だけだ。
「どうし、て?」
この空間はまるで、世界に少年と少女の2人しか存在しないような。
少女は少年の顔を凝視してみた
目は虚で光は無い、顔も少し青白くみえる。
「僕の命と世界の平和、君はどっちを選ぶ?」
またこの問いだ
この状況に加え、少女にとって訳の分からない問いに更に困惑した。
「でも彼の顔どこかで」
少しの違和感に次の瞬間、少女は半分無意識に少年に向かって叫んでた。
「私は世界の平和より、あなたの命の方が大事!あなたを選ぶ!」
その瞬間世界は真っ白になった。
完
お題「過ぎ去った日々」
歩く度に景色が流れていく
それは新幹線の窓から景色を眺めているようだ。
否、それよりももっと早い。
それは景色というより勢いよく流れている川のようだ。
「私はいったい」
目覚めた女性はベッドの上で静かに呟いた。
見慣れない景色だ。
机に本棚があり、私が座ってるベッドがある。
物の名前も意味も分かる。でも
「何も思い出せない」
辺りを見回してみたが得に気になるものはない
自身の記憶は無いがこの部屋は至って普通の部屋だと感じた
「私は、学生だった?」
机の上に無造作に置かれてる教科書を眺めてる
その時少女の目に置き鏡が映った
反射して見えたのは、ベッドの上に座ってる1人の少女だ。
「これが私?」
初めて自分の顔を見たが、普通だった
実際は初めて見た訳では無いとは思うのだから、少女は不思議な気持ちで鏡を眺めてた
コンコン
小さく扉を叩く音に少女は少し驚き体を跳ねさせた。
扉が開き女性が顔を出す
「起きてる?」
「えっと、だれ、ですか?」
「寝ぼけてるの?ご飯出来たから早くきなさい」
ガチャんと扉は静かにしまり、女性が扉から離れていく気配を感じた
「だれ?」
見知らぬ人に声をかけられて少し不安が高くなった
何も分からないという事実がとても恐ろしく感じて来た。
幸い先程の女性に悪意はなさそうなので、女性の元に行く事にした。
ちょうどお腹の虫も鳴っている
ベッドから立ち上がり扉に向かおうとした時、ふと何かに気づいた?
「記憶の、無くなってる私へ。?」
地面に落ちている手紙を読み、彼女は自分のこの状況が自分の欲のせいで起こった事だと知り、その場から動けなかった。
完
お題「お金より大事なもの」
空は暗く、一点の光さえ通さない
辺りは赤く、灼熱の業火に飲まれてる
「喉が渇いた」
裸足の少年は真っ黒な堅い地面を歩いている
足の皮膚は剥がれ、所々赤く染みている
身体中真っ黒な煤が付着している少年はこの世界にたった1人の人類だ
「何かあるかな」
3日歩き回ってようやく見つけた場所だ
生ゴミのようなひどい匂いが漂ってくるが、匂いがあるだけましだ
「臭い。食べ物ありそう」
少年の手は目の前にあるゴミの山に向かって伸ばしていた。
無我夢中で山を漁った。
鉄屑やプラスチックの塊など、なかなか期待通りの物が出てこなかった。
「おかしい、匂いはするんだけど」
どうにも自分の嗅覚を見誤ったのか、少年の手は一旦止まった。
「でもこの一帯はゴミがたくさんあるから、別の山にあるかも」
その後も何個もあるゴミ山を、少年は全神経を使いながら必死に探し回った。
しかし、何も見つからない。
「帰ろう」
この世界に帰る場所なんてないのだが
一つの場所を離れる度に口癖としてそれを発してしまう。
ゴミ山を離れた少年の背中は暗い闇に消えていった。
完
お題「月夜」
「今夜は荒れそうだな」
髭を生やし髪は全て剃って光を反射させながらホテルの受付に立ってる男は呟いた。
男の顔は言うまでも無く、体も良く鍛えられており大抵の人は彼と目が合えば一瞬尻込みしてしまうだろう。
「そろそろか」
男の一言でホテルのロビーの入り口が開いた。
「うひひ、今日一泊頼むよ」
「おっちゃーん僕も一泊お願い!」
体は腐敗が進んでいるゾンビの老人と、背中には赤く立派な羽が生えた少年がやってきた
「あいよ、ほら鍵だ。場所はいつものとこだろ」
「さんきゅーおっちゃん」
「うひひ、ありがとよ」
男は慣れた手つきで受付で手続きをしている
もうかれこれ何百年もこの仕事をしているので慣れたものだ
入り口が開いた音がした
団体の客が来たようだ
「俺と、あと30人いるんだが、今夜一泊大丈夫か?」
受付に来た男は頭にツノを生やしている。
ツノを生やした男の後ろには、同じくツノの生えた少年少女達が賑やかに談笑している
「ああ、あんたはここ始めてだな。」
「そうだ。」
「じゃあこれに名前を書いてくれ、部屋は何部屋に必要だ?」
「俺意外は5人ずつ6部屋用意してくれ」
「わかった。すぐ手配する」
受付の男はカウンターの裏の部屋にいき
数分してすぐ戻ってきた
「部屋は用意できた。これが部屋までの地図だから無くすなよ」
ツノの生えた男達は地図を受け取り会釈して部屋へ向かった。
「今夜はまだまだ新規の客が来そうだな。」
満月の日
とあるホテルは人知れず営まれている。
完