あひる

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お題「物憂げな空」



天気が悪いと気分も落ち込んでしまう

「私は気分屋だな」

使い方は違うかもしれないが、天気によって簡単に変動してしまう性格は気分屋と言ってもいいだろう。
特に雨の日や曇りの日は私の気分値は最底辺だ。

「でも雪の日はテンション上がるんだよなあ」

そう言って太陽が出て無いことが原因ではないなと思い改めて悩んだ
今日は生憎の雨だ

「濡れる濡れるー」

仕事の帰り道。
大雨では無いが傘も万能ではない、風で雨が横殴りに降ったり、地面の水溜まりに何度も引っかかり足元はびしゃびしゃである

辺りも暗くなってきた
街灯がポツポツと照らされて、その光で雨がよく見える。

大学を卒業して新入社員として働いてようやく2年目の春
今だに仕事に慣れない

「明日も雨だったら出勤するの憂鬱だよぉ」

辺りに人がいないのを確認してため息混じりの独り言を呟いた

見慣れた道。
当たり前だもう一年以上も同じ道を歩いてるのだから。
そのはずだ

「おかしい」

夜の雨だからって見慣れた道を間違えるはずがない
なのに脳を過った違和感を拭いきれない

「なにか、違う?」

私は少し立ち止まって辺りを見渡してみた
見慣れた街だ
人はいない。人がいないのはいつものことだ。
ここは商店街からも離れており、賑わってる風景もない、右側は道路を挟んで川が流れており左側はポツポツ住宅やお店があるだけだ

「おや、君はだれかな?」

「!?」

声のした方に振り返った
「痛っ」
首の回転に勢いをつけ過ぎて捻ったがお構いなしにその声の主を確認した

暗くてあまり見えないが
真っ白なローブを纏い、頭にはフードを被ってる老人らしき人がいた。手の届く距離に立っていたので私は驚いた

「びっくりしたー、えっとどうされましたか?」

恐る恐る老人に話しかけてみた。
あなたの方が誰よ!と心の中では老人に叱咤した。

「おや、やはり見えておるのか、声も聞こえとるみたいじゃの」

「え、あ、はい見えます、ね?」

暗闇の中の老人の表情が困惑したように見えて

「え、ゆ、幽霊!?」

「いきなり失礼じゃの、ほっほ」

老人は笑っていたが、確かに初対面をいきなり幽霊扱いしたら失礼かもと少し反省した

「じゃが、幽霊と言うのも些か間違いではないかもしれんのぉ」

「え」

冗談なのか本気なのか分からない言葉に固まってしまった

「まあワシのことはさておき、お主はここにいてはいかんのじゃ」
「右手に川があるじゃろ。あそこ、月明かりに照らされてる場所に飛び込みなさい」

老人は川に月の光が写ってる場所を指差した

「え、えーー?」

老人は私に入水させる気らしい
いや飛び込むだけなら泳げば大丈夫、なはず、川も荒れてない

「いやー雨ですし、寒いですから、ちょっと遠慮したいですね。はは」

苦笑いを浮かべつつ言った
それにここにいてはいけないの意味が分からない、
ここは家の帰り道なのに。

「えっと、ここにいてはいけないようなので、すぐ離れますね。失礼します!」

振り返り進もうとしたら腕を掴まれた

「ひゃっ」

冷たかった

「待ちなさい、おかしな事を言っておるのも分かっておるがのぉ。じゃが時間が無い」

「時間。?」

「うむ、もう見えとるじゃろ?」

私は辺りを見渡した
何が見えるの、と言おうとしたが

「空が」

空の様子がどうもおかしい。傘をかけていて上を見ていなかったが、空が何かに覆われている。雲でも星でもない、人間が想像したことない、する事の出来ない何かが空を覆っている。

「早く!」

老人の言葉に咄嗟に傘を放り投げ、川の光に飛び込んだ。


ーーーーーー


分からない
飛び込んだ時頭の中では「私このまま溺れて死ぬの?」と不安がよぎった
訳のわからない老人の言葉をなぜ信じた?老人の言葉の圧力が凄かったから?いや本能が体を動かしたのかも。

自問自答の時間は次第に薄れ、意識は覚醒していく

ーーーーーー

目が覚めたらベッドの上だ。見慣れた部屋、自分の家だ。

「昨晩は雨が酷くて急いで帰って、疲れてすぐ寝ちゃったのか。」

朝の支度をして、いつも通りの時間に出勤する
玄関に行き、ふと気づく

「あれ?傘が無い」

昨日は雨だったから傘をどこかに置き忘れるはずがない、記憶が少し曖昧だけど

「桃色の傘でお気に入りだったのにー。」
一瞬悲しい表情を浮かべたが

「まあしょうがないっか、見つかるまで新しいの買って使お!」

玄関のドアを開けて叫んだ
「今日は晴れだー!」



私は天気が悪いと気分がすぐ落ち込む気分屋だ。
と思っていたんだけど
雨の日でも、晴れの日とは違う景色を見れるし、何より涼しいから思ったより嫌いじゃなかったのかも










2/25/2023, 11:36:07 AM