あひる

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お題「君は今」



僕はいつも君を見てるよ。


夕方前のいつもの時間
チャイムの鐘が鳴った

「そんじゃ今日のホームルームもこれでおしまい、皆んな気をつけて帰れよ」

「「はーい」」

ある人は部活に、ある人は教室で雑談、ある人は帰宅、皆授業中とは違い生き生きとした表情だ

そして彼女も

「うん!また明日」

僕はいつものように彼女の後ろを着いていった。
そして彼女は自宅の庭に入っていき、一緒に帰っていた友人に手を振り、扉を開けて玄関に入っていった。

今日も彼女は無事に家に帰れた
良かった
僕が見守っていかなくちゃ

毎日彼女の事を思ってる
いつも玄関までの彼女しか見ていない

そうだ
今日は家の中の彼女も見守ろう
いつもは家の中までプライベートを見るのは気が引けたけど、たまには家の中でも見守っとかないと心配だ。

僕はすぐ行動に移した
静かに音を立てず家の中に入った。リビングや周りを見渡したが両親や彼女の姿は無い。

2階の部屋にいるのかな

そう思った僕は2階に続く階段を進んでいく
静かに、音を立てずに、
しかし僕は思った
別に悪いことをしてる訳ではない、強盗や空き巣をする訳でもない、ただ彼女を見守るだけだ。

でもこれは、不法侵入になるのかな。

ふと疑問が浮かんだが、彼女の部屋を目の前にしてその思考は消し飛んだ。
何個か部屋があったが、扉の表札を見てここが彼女の部屋だとすぐ分かった。

「でねー」
「うん」
「そうそう」

中から声が聞こえる。
よく聞こえないが友達と電話しているようだ

良かった

僕が学校で見る限りの彼女は友人が多くて楽しそうだ。
少しおっとりしたような性格だが、勉強も真面目で図書館でもたまに1人で勉強してる。友人の相談もよくのってあげてるのを見る。多分聞き上手なのだろう。

今日はもう見守らなくても大丈夫だろう
電話の元気な声を聞けたので、僕は帰ろうと階段まで静かに足を運んだ

その時

ドカドカドカドゴン

迂闊にも僕は階段で足を滑らせてしまい、大きな音を鳴らしてしまった。
僕が、尾行のプロの僕が、
やばいと思ったが遅かった

「誰!?」

彼女は勢いよく音がした階段に近づいてきた。

「ママ?パパ?」

僕は階段の下に倒れたまま
下から彼女を見上げた
目があってしまった

彼女の視線は階段下を覗いたまま

「誰も、いない」
「ママとパパはまだ帰ってこない時間だし、気のせい?すごい音がしたのに」

困惑した彼女が階段を降りて近づいてきた
目と鼻の先に彼女がいる

「びっくりしちゃって電話切っちゃった。うぅ…」

目の前で彼女は泣いている
僕が大きな音を立てて怖がらせたからだ。

違う。
彼女は今も変わってないんだ

「電話してなきゃ…..ぐす…..誰かと話してなきゃ….かんがえちゃうのに。うぅ」

彼女は泣いている

「お兄ちゃん…」

彼女が泣きながら僕を呼んだ

「….っ。お兄ちゃん….帰ってきてよ….」

目からは大粒の涙が溢れている

僕は怖かったんだ。
またこの泣き顔を見るのが。
だからこの家には戻れなかった。
2階の僕の部屋の表札は残っていた。きっと部屋の中も当時のままだろう。

2週間前に僕は交通事故でこの世を去った

妹とは仲が良かったから
事故の日以降、家の中でずっと泣いてる彼女を見るのが辛かった
幸い学校では友達と明るく過ごしてたかから僕は安心してしまっていた

彼女は目の前でしゃがみこんで泣いてる
僕は彼女の頭に手を置いた。すり抜けるので感触の無い形だけの行動だが。

君の事見守ってるから

彼女に、僕の手の温もりが伝わって欲しい。そう願いながらそっと呟いた















2/26/2023, 12:34:24 PM