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7/8/2024, 9:23:58 PM

8時も過ぎた頃。
これから夏を迎えるというのに、すっかり日も落ちてしまった。
7時頃の夕闇と『街の明かり』が混ざり合う、この時期が一等好きだった。
雨降り後なら尚の事。
夕涼みなんて言葉が出てこないほど、日が暮れてもたっぷり日差しを浴びたコンクリートがいつまでも熱を放っていて。
あまりにも暑すぎるから、蝉すらも声を上げられないでいる。
吸い込む空気も熱を感じるほどに。

そんな酷暑だろうと、夏は一等好きだ。



7/7/2024, 9:32:19 PM

恋人に『七夕』の、年に一度しか会えないなんて。
そんなの本人たちの努力不足だ、会いたいなら会いに行けばいいのに、なんて幼かった俺は言うだろう。
300km以上も隔たれた、物理的な《川》。
自分で稼いでいる大人なら言えただろうが、日常を仕事に食われている状態では時間がなく。
まだ世間も知らぬ、学生の身なら尚の事無鉄砲だと言われても仕方がない。
それでもなんとか抗いたくて、電子の《川》にそっと文を出す。
簡潔に《会いたい》と。

ただそれだけ。

気付けば夜もすっかり更けてしまって、返事は明日か、そのままどこかへ流れていくのもしれない。
我ながら女々しさに嘲笑し、寝転んだ布団は早くも自分の体温を吸って生温く、居心地悪い。
冷えた所を探して転がっているうちに、小さな通知音が聞こえた。
ずいぶん遠くに放った携帯には同じく簡潔に。

《僕もです》

ただそれだけ。
たったそれだけなのに同じ気持ちなのだと知れて心は簡単に浮ついてしまう。
さらに震える知らせ。

《なので、来月の七夕、こっちに来ませんか?》

「なあ!来月七夕ってどういうこと?!」
「わ、びっくりした。いきなり大きな声、出さないでください」

思わずかけてしまった電話に開口一番の憎まれ口。
今回に限ってはこちらが悪いが、それはそれとして。

「今日七夕だろ?!」
「ああ、こっちでは来月なんですよ。花火も上がります。だから」

「あいにきて」


7/6/2024, 3:57:18 PM

ぬるく、湿り気をまとって部屋に入ってくる風は古い記憶も一緒に連れてきた。
あの日は今よりももっと蝉が鳴いていたような気がするから、7月も後半だったのだろう。
学期末テストも終わり、夏休みを前に少しばかり浮つく教室。
休み時間ともなれば、近しい友人らがお互いの予定をすり合わせて盛り上がっている。
やれ花火だ、プールだ、お祭りだ。
夏は自分で盛り上がらないと楽しめないんだ、と男でも惚れる友人が語っていた通り、ただ暑さから逃れてクーラーの効いた涼しい部屋で余暇を楽しむだけでは勿体ないくらい、楽しげなイベントで溢れかえっている。
どれか好きなものがあればいいのだけれど。



『友だちの思い出』から『恋人との思い出』に。

7/5/2024, 3:26:34 PM

「……わ、」
先程まで会話するには困らなかったのに、お互い相槌だけになってしまって、次の言葉を繋げることが出来なかった。
最初に止めてしまったのは自分の方だと理解している。
けれど。

短くも数分の瞬き。

「ああ、東京じゃこんなには見えないですか?」

釣られるようにして同じように見上げた彼には見慣れた光景なのだろう。
夕方まで滞在はあっても、夏の日もすっかり沈みきった夜中なんてこちらでは初めてだった。
きらきらきらきら。
瞬くという表現が適切なのだと、目を凝らさなくても無数に散らばる星々があまりにも眩い。

「冬は空気が澄むので、もっと綺麗ですよ」

顔を合わせなくてもふんわり微笑んでいるのが分かるほど声に甘さが含まれていて。
思わず足を止めて眺める『星空』。
帰るのが惜しくなるほど、それでも早く歩みを進めたいのは空にいる月が今、隣にあるからかもしれない。

6/29/2024, 2:52:33 PM

蒸し暑い体育館から這い出るようにして外に出てみたが、期待するほどの風はなく、遠くの方でもうすぐすれば『入道雲』になりそうな雲を見つけた。
そろそろ長雨もどこかへ行ってしまうのだろう。
濡れたグラウンドの湿り気の匂いもきっとそのうち忘れてしまうように。
少しばかり過ぎていく日々に感傷的に浸っていても、ポケットで震える振動はいつだって現実へ戻していく。
表示された名前に僅かばかりの動揺と、小さく芽生えた心。
ひとつ、ふたつ。
深呼吸して、平常心。
遠くにいる恋人の声はそばにいないのに、近くで見ているような気にさせる。
過剰なくらいの気遣いと賛辞はひとを少しなら良薬、多ければ堕落させていく毒のよう。
そんな彼にも悩みはあるようで。
ぽつぽつと紡がれる言葉の端に、漠然とみえる、未来。
将来どうしようか、なんてまだ先のこと。
そうは思いつつも。

「まあ、まだはっきりとは決めてませんが、あなたならどっちも選ぶんでしょう?」

好きな道も人を導く道も。
そうやって僕もあなたの夢に自分の未来を重ねたのだから。

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