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恋人に『七夕』の、年に一度しか会えないなんて。
そんなの本人たちの努力不足だ、会いたいなら会いに行けばいいのに、なんて幼かった俺は言うだろう。
300km以上も隔たれた、物理的な《川》。
自分で稼いでいる大人なら言えただろうが、日常を仕事に食われている状態では時間がなく。
まだ世間も知らぬ、学生の身なら尚の事無鉄砲だと言われても仕方がない。
それでもなんとか抗いたくて、電子の《川》にそっと文を出す。
簡潔に《会いたい》と。

ただそれだけ。

気付けば夜もすっかり更けてしまって、返事は明日か、そのままどこかへ流れていくのもしれない。
我ながら女々しさに嘲笑し、寝転んだ布団は早くも自分の体温を吸って生温く、居心地悪い。
冷えた所を探して転がっているうちに、小さな通知音が聞こえた。
ずいぶん遠くに放った携帯には同じく簡潔に。

《僕もです》

ただそれだけ。
たったそれだけなのに同じ気持ちなのだと知れて心は簡単に浮ついてしまう。
さらに震える知らせ。

《なので、来月の七夕、こっちに来ませんか?》

「なあ!来月七夕ってどういうこと?!」
「わ、びっくりした。いきなり大きな声、出さないでください」

思わずかけてしまった電話に開口一番の憎まれ口。
今回に限ってはこちらが悪いが、それはそれとして。

「今日七夕だろ?!」
「ああ、こっちでは来月なんですよ。花火も上がります。だから」

「あいにきて」


7/7/2024, 9:32:19 PM