胡星 (小説書き)

Open App
4/6/2025, 1:24:49 PM

テーマ『新しい地図』


目の前には暗闇が広がっていた。もはや目を開けているのか、閉じているのかすら分からない。

しばらくすると、遠くでキラキラと光るものがあることに気づいた。

僕はその光を目指して歩き始める。周りが暗闇なので進んでいるのかが分かりづらいけれど、確実にその光は近づいている。

「これは……」

感覚だと数時間。それくらい歩いたとき、ついにその光へ辿り着いた。

その光の正体は謎の宝箱。僕はゆっくりとその宝箱の蓋を開ける。すると──

「地図?」

中に入っていたもの。それはボロボロになった地図だった。しかもただの地図ではなく、所々不思議なことが書かれている。


──────────────────────

ゴール
「死」

無数の道
( 得たスキルによって地図が変化する)

スタート
「小人」

──────────────────────


「スタートは小人。ゴールは……死?」

どうして小人から始まって死で終わるのだろう。なんとも不気味で、しかも理不尽。こんな地図があったところで僕はその道を進みたいとは思わない。

そして気になるのはもう1つ。

「得たスキルによって地図が変化……」

普通地図というは細かく道のりが書いてある。でもこれはスタート、無数の道、ゴールの3つしか書かれていない。ざっくりしすぎている。

変化するってことは、人それぞれってことか……。


「──っ!!」


一瞬何かを思い出しそうになった。

僕は、何か知っている。この地図について知っている。

「ゴールには死が待っている……そう分かっているのに、僕は歩き続けていた……」

なんで?

「そこに誰かの顔があった、から」

思い出せそうで思い出せない。誰だ。頭の中に浮かんでいるこの顔は誰の顔なんだ。

その"誰か"を思い出そうと頭を抱えていると、その人の声が聞こえてくる。


『m……w……s……m……s……t』

『p……p』


なんて言っているんだ。聞こえそうで聞こえない。分かりそうで分からない。

君たちは一体──


『め……さ……し……て』

『……ぱ』


僕はこの時、すべてを思い出した。


『目を覚ましてっ!!』

『パパぁ!!』

僕は今、地図に書いてあった無数の道を歩んでいたんだ。

なんだか、頭が痛くなってきた。ズキズキする。

少しずつ"その世界"の感覚が戻ってくる。

『お願いっ!!』

頬に何かが落ちた感覚。

手がギュッと掴まれる感覚。

安心する声。

良かった。宝箱に入っていたものが新しい地図じゃなくて、ボロボロになった"僕の地図"で本当に良かった。

大丈夫。心配かけてごめん。今行くから。

そう思うと同時に世界は明るくなる──


「あい、してる。それと……」



【ただいま】

7/21/2024, 11:49:57 AM

テーマ「今一番欲しいもの」



「今一番欲しいものはなんですか?」

そう聞かれたとき、私は言葉が詰まる。

この質問には『1万円以内で』とか『食べ物限定で』とかという制限はない。つまり自由。

でも何にも縛られず自由だからこその不自由が存在する。



「……ろ、……起きろっ!」

「う、うぅ?……」

目を覚ますと目の前に先生の顔があった。

「うぅ?じゃない!今は作文を書く時間であって寝る時間じゃない!」

周りを見渡すと、色んな人が私のことを見ている。

「す、すみません。徹夜しちゃって……」

「まったく。気をつけろよ」

そう言って先生は教卓へ戻っていった。

はぁっとため息をつきながら、窓の外を見る。

そこは雲ひとつない青空だった。





下駄箱に靴を入れる。
靴を履いて歩き出す。
家に帰る。

帰りのホームルームが終わった後はいつもこうだ。何も変わらない日常を過ごしている。

でも今日は少し違う。

靴を履いて歩き出す。と、家に帰る。の間に寄り道を入れる。


『お墓参り』


私の彼氏は数ヶ月前に事故で亡くなった。

当時は辛くて何も考えられなかったけど、今はもう落ち着いて現実を受け入れ始めている。

「久しぶり」

私は手を合わせて目をつぶる。

その時ふと思いついた。



【今一番欲しいもの】



これは『もの』じゃないけれど……

「彼との時間が、……欲しい」

一緒に休みの日は出かけて、学校がある日も一緒にお昼を食べて。そんな日常が当たり前だと思っていたけれど、そうじゃなかった。

それに気づけたからこそ今、彼との時間が欲しい。

「お願い……」

そう呟いた時だった。

後ろからギュッとされ、温もりを感じた。

「1人にさせてごめん」

思わず振り返ろうとした。

でも後ろにいる人が手で顔を抑えてくる。

「寂しい思いさせて本当に、ごめんね……」

顔は分からない。けれど声でわかる。

だって、ずっと一緒にいたから。

「何言ってるの……?」

「だって……」

「私はごめんって言われたんじゃないの……謝れると悲しくなるじゃん……」

「そっ、か」

「私から言わせて。今までずっと一緒にいてくれてありがとう」

「……っ」

「で?そっちは?」

「そうだね。こっちからもありがとう。今まで本当に本当に楽しかった。そして大好き」




気がつけば顔を抑えられている感覚は消えていて、後ろを振り返っても誰もいなかった。

短い不思議な体験だったけれど、私は前向ける気がした。

これからは彼を心配させないように、全力で生きていこう。

6/22/2024, 12:17:13 PM

テーマ「日常」


今、私が住んでいる国では不思議な現象が起きている。

それは、1日につき10人。


【人が死ぬ】


というものだ。

これは未だにどういったことが原因で起きているのか解明されていない。

この現象は避けることはできず、ただ運命を受け入れるしかない。

「ピコン♪」

携帯の通知音が部屋に鳴り響く。

私はSNSを開き、1枚の投稿を確認する。

『本日、別れを告げるもの。』

その文章の下には1枚の画像があり、そこには対象者の住んでいる地域と、対象者の本名が載っていた。

『福島在住、○○○○さん』

「うそでしょ……」

それは私の友達の名前だった。

この国には約1億人の人々が住んでいる。その中から1日10人死ぬ人が選ばれる。それに対して、この国では毎日2000人以上新しい命が生まれる。

全体の人口で増減で考えたら、10人なんて痛くも痒くもない。それに気づいた人々は次第にこの現象に対して何の関心も抱かなくなっていった。

それでも命の価値に変わりは無い。

『だい、じょうぶ?……』

言葉が見当たらなかった。とにかく思い浮かんだものをメッセージとして送った。

『今までありがとう。』






私の友達がこの世を去ってから1週間が経った。その間にも私の友達は次々とこの世を去っていった。

1日10人。少ない数なのかもしれない。それでも明日死ぬかもしれないという恐怖が私を襲う。

次は私の番だ。

その時、ふと思った。

昔みたいな「日常」が欲しい……

この現象は10年前から始まった。

それより前は何もない普通の生活を送っていた。

その時は退屈だと思っていたけど、今となってはその時が1番平和で愛おしい日々だった。



大切な日常というのは、意外とすぐ近くにあったんだな。

そう実感した。






あとがき
「本当はもう少し物語自体を長めにしたかったのですが、時間の都合でコンパクトにしました。短い物語の中で伝えたいことを伝えられるようにしました。それでは、また次の作品で会えたら会いましょう。」

5/21/2024, 2:14:35 PM

Theme「透明」



私は透明人間だ。誰にも見えないし、誰にも私の声は届かない。


じゃあ何ができるの?


そう思って私は色々試してみた。そうしたら一つだけ分かったことがあった。


物を動かせる。


たったそれだけ?……

私もそう思った。けど、それが意外とおもしろい。

私が物を持つと、他の人間には物が浮いているように見えるらしい。私は透明だから。

ある日、私は図書館にいた。そして本を持った時。

「本が浮いてるよー」

と、子供の声が聞こえた。

周りにいる大人は怖がってすぐに逃げてしまった。けど、その子供だけはそこに残った。

私はその本は置いて、別の本を持った。

すると。

「今度はこっちの本が浮いた!!」

無邪気な声だった。でもそれがおもしろかった。



私は本を読むのが好きで定期的に図書館に行く。そしてその時に、その子供も来る。

そしたら私は本を持って、色んな方向に動かす。

そうすると……

「右、左、うえ!!」

と、動かした方向を口で言ってくれる。もしかしたらこの子は私の姿が見えているんじゃないか。そう思った。

でもそんなことは無かった。

「本さん。おもしろいねっ」


本。


この子が見ているのは本。私ではない。当たり前のことだけど少し悲しくなってしまった。誰にも私は見えない。



とある日、さらに悲しむ出来事があった。

「本さん。私、引越しするんだ……」

私は本を動かすのをやめた。




そして、その子はもう図書館に来なくなった。








どうやら私に寿命はないらしい。いや、もしかしたらすごく長生きなだけかもしれない。

昔、図書館であったその子。

最後に会った日から110年と14日が経った。

街のほとんどは朽ち果てて何も無い。

人間もほとんどいなくなった。

今もたまに見かけるけど、1年に1回会うか会わないかだった。


私はずっと図書館にいる。いや、正しくは図書館があった場所……かな。


33414……

1052167……


図書館にいる意味はないけれど、なんとなくいたかった。あの頃の思い出を忘れたくなかった。


ある日、私は「シオン」という花を持って図書館に向かった。

そしてその子と出会った、あの場所に植えてみた。

「……あ、り、が、と、う」

私は涙を流しながら、誰にも届かないであろう声を発した。




「そんなところで泣いてどうしたんだい?」



後ろから声がした。でも違う。私に向けての言葉じゃない。だって私の姿が見える人なんていないから。

「君だよ。シオンの前で泣いてるあなた」

私は思わず振り向いた。

そこには優しく微笑むお年寄りのおばあちゃんがいた。

「私のこと、見える、の?」

「もちろんだよ。ちゃんと見えてる。ちゃんと聞こえてる」

するとおばあちゃんは話し始めた。

「私ね。いつのことか分からないけど、ここら辺で不思議な本に出会ったんだよ」

「……っ」

「昔はここに図書館があったんだよ。昔っていつか分からないけどねぇ。もしかしたら前世の記憶だったりするのかもしれないねぇ」

「図書館、ありました……」

「それで、大人になってから気づいたんだよ。本が浮くなんてありえないって。だったらなんであのとき本が浮いて見えたんだろうってずっと考えてたよ」

「それは……」


「あなた?」


「え?」



「あの時、本が浮いてたのはあなたが本を持っていたからかい?透明人間さん」

「どういうこと?……」

「分からない。でもそんな気がしたんだよ。人間がほとんどいないこの世界で、私たちはここに集まったんだよ。図書館。私と透明人間さんが出会った場所にね」




「何度生まれ変わっても、忘れないさ」

その言葉が欲しかった。私は今まで誰にも見られなくて、誰にも話しかけられなかった。

そして周りはみんな消えていく。

私はずっと孤独だった。

でもたった今、それが変わった。


あの時出会った子供が戻ってきてくれた。透明人間である私を見ることができるようになって生まれ変わってくれた。



「ありがとう」


そう言って、私はおばあちゃんを抱きしめた。









※変更内容
5/22(水) あとがきを削除しました。

5/4/2024, 2:50:14 PM

テーマ「耳を澄ますと」


耳を澄ますとあの音が聞こえた。小学校の頃、音楽の授業で吹いていたリコーダーの音。

「マリだ……」

その音色を聞くだけで分かる。これはマリだと。

マリは小学校と中学校でずっと仲良くしていた友達。お互い小学校の頃に吹いていたリコーダーの音色を忘れられず、放課後一緒に吹くという学生にしては珍しいことをしていた。

でも高校に入ってから関係はガラッと変わってしまった。

それぞれ別の高校に通い、いつしか毎日会っていたマリとは何ヶ月も会わなくなってしまった。

でも家の方向的に、たまに帰り道ですれ違うことがある。本当ならそこで「久しぶり」と一言くらい言ってもいいのだけれど……

なぜかそれが言えない。

しばらく話さないうちに、なんて話したらいいのか分からなくなって、いつの間にかマリとは気まづい関係になってしまった。

勇気を出して言えばいいだけなのに。言い出せない。ケンカをしたわけでもないのに。

「私は、意気地なしだ……」



次の日。

私は学校の帰り道に、とある場所に寄った。

「やっぱり、誰もいない」

ここには芝生があって、そこから近くの川が見える。昔はここでよくマリとリコーダーを吹いていた。

私はバックからリコーダーを取り出す。

特に意味は無い。ただ、吹きたいだけ。

吹く前に一度指を動かしながら脳内でイメージする。そして口をつけ、優しく息を吹き込む。

「♩〜♪〜♩〜♪〜」

今吹いているのは『新世界より』

ドヴォルザークが故郷ボヘミアを想い作曲したと言われているこの曲。

その時は私は何を想っているのだろう。誰を想ってこの曲を吹いているのだろう。

特に意味はない。

心の中でそう思っていても、本当は彼女のことを無意識に想っているのかもしれない。

「もう一度、一緒に……」




「♩〜♪〜♩〜♪〜」




「……っ」

微かに聞こえた気がした。どこからか分からないけれど、確かにそれは『新世界より』だった。

それはまるで誰かが私の想いに返事をしたかのようだった。




そして次の日。

私は昨日と同じ芝生の上であの曲を吹こうと思っていた。

もしかしたら、誰かが返事をしてくれるかもしれない。と、ほんの少しだけ心の中で期待をしていた。

でもそんな期待よりも先にメッセージは送られた。

「♩〜♪〜♩〜♪〜」

「……まただ」

昨日と同じ音色。

一度、あの芝生を見てみるが、遠すぎて何も分からない。ただ、誰かがいることだけは分かった。

もう一度、目を細めて見てみる。

「マリっ……」

その人はいつしか気まづい関係になって、いつしか話さなくなってしまった人。

マリだった。

それからの行動は無意識だった。

気づいたらリコーダーを手に持っていて、息を吹きかけていた。

「♩〜♪〜♩〜♪〜」

今吹けば、その人に想いが伝わるかもしれない。

そして私は耳を澄ます。

「♩〜♪〜♩〜♪……」

その音は震えていた。

どこか悲しむような、早く会いたい。そう言っているように感じた。

「……っ!!」

もう何も考えていなかった。

その音を聞いた瞬間、私は彼女の元へ走っていた。


高校に入るまではずっと仲良しだったマリ。

いつの間にか気まづい関係になってしまっていたマリ。

心のどこかでまた会いたいと思っていたマリ。

また、一緒に吹きたいと思っていた相手。



「マリ!!」



「……コ、デ?」

コデというのは私の名前で、私はこの名前が大嫌いだ。だって女子に似合わないから。

でもマリはいつもコデと私を呼んでいた。いつも「いい名前じゃん」と言っていた。

「ごめん……」

もうここまできたら逃げられない。

「私、ずっと、ずっとマリと話したかった。なのになんか分からなくなって……」

自然と涙が溢れていった。

「前はどういう風に話してたっけ、とか。いつのの間にかどう接したらいいか分からなくなっちゃって!!」

「私もだよ……」

マリがゆっくりと落ち着いた表情で話し始めた。

「あんだけ仲良しだったのに、ちょっと別れただけでこんな風になっちゃってさ……なんか変だよね」

その時の私はもう、どうでも良くなっていた。


「いいよ。もう」

心の底から願っていたものを今、口に出す。


「一緒に吹こうよ。リコーダー」








「♩〜♪〜♩〜♪〜」

「♩〜♪〜♩〜♪〜」

心地よかった。楽しかった。嬉しかった。

再びマリと話すことができて生まれた色んな感情をその音色にのせて、私はリコーダーを吹く。

そういえばリコーダーを吹く前、マリはこんなことを言ってたっけ。

「コデと吹きたかったんだ。またコデと私のコンビで吹いてみたい!!ってずっと思ってた」

「私もだよ」

「コデと私。コデとマリ。コデマリだね!!」






その時ふと思った。




確か『コデマリ』という花には花言葉があった。







『友情』






雨風に負けずに寄り添う様子を表わしたもの。



それが『コデマリ』の花言葉だった。












※変更内容
5/5(日) 一部の表現と誤字を訂正しました。

Next