胡星 (小説書き)

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1/8/2024, 8:17:38 AM

Theme「雪」




「雪だ……」

家の窓から外を見てみると、雪が降っていた。

私が住んでいる地域に雪が降るなんて珍しく、正直結構驚いている。

しかも私が気づいていなかっただけで、結構前から降っていたらしく、少し積もっている。

「……あっ」

雪をみて閃いた。

インドア派の私が珍しく、外に出る支度をする。

「雪が降るなんてなかなかないし、せっかくだから……」

私はバイクに跨り、走り出す!!

「雪見温泉にしゅっぱーつ!」

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【雪見温泉】
その名の通り雪を見ながら入る温泉のこと。雪見温泉は場所によって12月上旬から3月下旬まで楽しむことができます。
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「ついたっ!!」

日帰り温泉館!

ここなら日帰りで安いし、露天風呂もある。

「……!」

しかも周りを見ると、いい感じに雪が積もっている。

「BESTお風呂タイミング!」

そうしてしっかり料金を支払い、いざ。

温泉へ!

の前に身体をしっかり洗って。

「今度こそ露天風呂!」

そして扉を開けると。

「さささ、さむぅ……」

そ、そりゃそうか。雪降ってるし。寒いし。

でも、だからこそ。

「ぷはぁ〜」

温泉が気持ちいんだよなぁ〜。

寒くて冷えきった身体が、温泉で一気に温まる感じ。さいこう……

少し遠くを見てみる。

「雪を見ながら入れるなんて、贅沢だな……」

普段雪をみたい!なんて思ったら遠くにいかないといけないからダメだったけど、今日はラッキー。

1人でゆっくり遠くを眺めていると。

「いや〜、今日は寒いわね。」

「そうね〜。でもこういう時の温泉は気持ちいいわよ」

60歳くらい?のおばあちゃん2人が入ってきた。

「はぁ〜。あったまる〜」

すると1人が私に気づいて。

「そこのお姉さんっ。今日はおひとり?」

「はい。ちょっと雪を見ながら温泉入りたいなって思って、バイクで」

「まぁ、バイク?寒かったでしょう」

「すごい寒かったですよ。でもおかげで温泉気持ちいいですけどね」

そしてしばらくの間、3人で話をした。

こうやって初めて会う人達と話せるのも、温泉ならでは。

「あっ、もうそろそろ行こうかしら」

「お姉さんもほどほどにね。のぼせちゃうと危ないから」

「はい。ありがとうございました」

すると思い出したかのように、私に聞いてきた。

「お姉さん、日帰り?」

「そうです」

「なら、ここ温泉以外にも色々あるから見てくといいわよ」

「でも余り長居すると、帰りたくなくなるから気をつけて」

そうしておばあちゃんたちは行ってしまった。

「温泉以外にも色々?……」

その言葉の意味はすぐに分かった。

温泉の1つ下の階に色々あった。

お土産屋さんに、ご飯食べられる場所に……

「ぼ、ボウリングまで……」

すごいな。なんでもそろってる……

その後は満足するまで、ここで過ごした。

美味しいご飯を食べ、少し遊んで、お土産も買った。

そして最後にマッサージ機でゆっくり。

「それにしても、本当に帰りたくなくなるな。これ」

こんだけゆっくりしてしまったら、自ら寒い道をバイクで走るなんて絶対にしたくない。

でも……

私はバイクに乗る。

「というか、乗らないと帰れないし」

また雪が降ったら、温泉行くか。



終。




おまけ。

「もしかして温泉入ってのぼせそうになったら、1回出て身体冷せば、また入れるのでは? 」

温まって冷えて温まって冷えて……

無限ループできるぞこれ。

「ヒートショックには気をつけるんじゃぞ」

「なっ、よ、妖精?っていかヒートショックって
なに?」

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【ヒートショック】
寒暖差によって血圧が急上昇・急降下して血管や心臓に大きな負担がかかること。 特に冬の入浴中に起こりやすく、最悪死に至ることもあります。
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「き、気をつけないと……」

「対策としてお風呂から出た場所を、予め温めておくというのもあるぞ」

「これからやってみます」

「みんなも血圧のジェットコースターには気をつけてのぉ」

12/29/2023, 2:29:39 PM

Theme「みかん」




「いつまでもこたつに潜ってないで、出てきなさい」

そう言われ、渋々こたつから出る。

「全く。たまには外に出てみたら?ずっと家にこもってるじゃない?」

「外出ても別にやることないし、ゴロゴロするのが一番幸せなんだもん」

「これだからナマケモノは……」

冬休みに入り、私は一気に暇になった。特にやりたいこともやるべきことも無い。

これならいっそ学校に行った方がましだと思ってきた。

すると二階から降りてきたお兄ちゃんが。

「みかん食う?」

「なんでみかん……?」

「友達にもらったんだよ。有名なみかんなんだってさ。それに今、冬だしちょうどいいだろ?」

正直みかんは、そんなに好んで食べる訳じゃないけど。

「小腹空いてるし、もらう」

「うい」

お兄ちゃんが投げたみかんは私は受け取る。

そしてみかんの皮をむき、パクッと食べる。

「皮はちゃんと捨てなさいよー」

「分かってるってー」

冬休み。それは暇で暇で退屈な日々。

だけど。

『ピロン♪』

この音は誰かからの連絡だな。

私はスマホをとり、誰からかを確認する。

「あれ?かなでじゃん」

奏(かなで)は中学時代の友達。高校は別々でしばらく連絡は取り合っていなかった。

「『今から遊ばない?冬休み入ってるでしょ?』か」

「どうせ家でゴロゴロしてるんだから行ってきたら?」

「でも楽器持ってくのめんどくさいー」

するとお兄ちゃんが不思議そうに問いかけた。

「遊ぶだけなのに楽器いるのか? 」

「私と奏は吹奏楽部で仲良くなった。奏は優秀な子だから、私と遊ぶ時はいつも練習なの。暗黙の了解みたいなやつ?」

「ふーん。お前も吹奏楽部だからちょうどいいな。行ってこいよ。俺が荷物持ってやるからよ」

「え、いいの?」

普段お兄ちゃんはめんどくさがり屋だから、荷物を持つという言葉に驚いた。

「あぁ、たまには兄らしくな」

「ありがと……」

そして私は残ったみかんを口の中に詰め込み、楽器を背負った。

「いってひます!」

「いってらっしゃい」

「ちゃんと飲み込めよ」

「分はった分はった」

そうして暇で暇で退屈な冬休みに、ちょっとした音色が響くことになった。





追記 2024
今年は元日から大変なことになってしまいましたね。皆さんの無事を心からお祈りします。僕は関東住みなので、少し揺れたくらいですみました。

12/27/2023, 12:56:01 PM

Thema「手ぶくろ」




私の親は毎年、手袋をくれる。

最初はなんで手袋?と思っていた。

でも手袋をもらって、またもらう頃には、その手袋はボロボロになっている。

もう私にとって毎日手袋をもらうことは普通になった。

でも今年は少し違った。

手袋は毎年12月にくれるのだが、今年はくれなかった。

私から「手袋は?」と聞いてもいいのだけれど、なんかそれは嫌だった。

仕方なく、今まで使っていたボロボロの手袋を使うことにした。

そして2月。受験の時だ。

私は難関校を志望していることもあって、1年中勉強尽くしだった。

そしていざ、入試当日。

親からの応援の言葉と共に、あれをもらった。

「はい。手袋」

「え?手袋?」

私が不思議な顔をしていたからか、親はすぐに説明してくれた。

「12月に渡すと、もうこの頃には汚れてるでしょ?だから今日みたいな大事な日に渡そうとしてたの」

そして親は最後に。

「頑張ってきなさい」

そう言ってくれた。

そして私も全力で答える。

「行ってきます!!」




入試の会場へと向かう道のりは、すごく寒くて身体が震えてしまう。

でも唯一、手だけは暖かくて……

「ん?」

手袋の手のひらの部分にネームペンで何か文字が書かれている。おそらく文字の感じからしてお母さんだ。

『きっと大丈夫。合格するぞー!(* ˊ꒳ˋ*)』

「あははっ」

思わず笑ってしまった。

「すごく目立つじゃん。これ」

不思議と、その手袋のおかげで私のガチガチの緊張はとけ、リラックスできた。

「合格勝ち取ってくるよ」

そう思い、私は受験会場へと向かった。

12/26/2023, 12:38:13 PM


Thema「変わらないものは無い」



凍えるように寒い、冬の日。

広大なこの世界に、もう人類は存在しない。

生きているのは、ただ1人。

『エルフ』のみだ。




【孤独のエルフ】




人類が滅亡したのは、もう数千年前の話だ。

正直に言うとあまり覚えていない。

私は『エルフ』だ。昔、人間に捕まったことがある。そこからだ。私の研究が始まったのは。

人間にとっては、何千年も生きる生物は珍しいらしい。というか存在することすら知らなかったらしい。

まぁ、ずっと姿を隠してからか。人に見つかると色々めんどくさい。だから見つからないようにしてたんだけど、ちょっとした油断で見つかってしまった。

そして何十年かは、色々あった。

「お前はどこで生まれた?」
「他にエルフはいるのか?」
「何年生きたんだ?」

質問責めだった。まぁ、それもすぐ終わったけど。

その時は突然訪れた。

「もう出ていっていい。自由にしろ」

って。酷いよね。勝手に捕まえといて、さっさと出てけって。

でも彼らにとって、それどころじゃなかったんだろう。

いつしか人間は、増えすぎた人口を抑えることができず、食糧不足へと陥った。

そしてどんどん餓死していった。

研究者たちも生きていくので精一杯だったんだろうね。

1つ、びっくりしたことがあった。

ある日、私を餓死しそうな子供と勘違いした人がいた。

なんせ私は痩せ細ってるし、背も小さいからね。

その人は言った。

「お前、見た感じだと子供だよな。俺はもう40超えてるんだ。俺が生きるより、お前が生きた方がきっといい。長生きするだろう」

そう言って、彼は最後のご飯を私に渡した。

驚いた。まさか今にもお腹が減って餓死しそうな人間が、持っている最後の食べ物をあげるだなんて。

私はその時、初めて。

「いい人間もいるんだな」

と思った。

そしてそんなことから、数千年前経った。

人間が完全に滅亡し、生きているのは『エルフ』だけ。それもエルフはもともと数が少なく、恐らく生きているのは私だけだろう。

毎日毎日つまらなくて仕方なかった。どこに行っても何もないし、誰もいない。

そう私は『孤独のエルフ』なんだ。

そんな時、ふと思った。

あの時、食べ物をくれた人がいた場所に行こうと。

別に深い意味はない。

ただ、行ってみたかっただけだ。

そして予想通り、そこには何も残ってなかった。

何もかもが壊れていて、腐っている。

その時、私も変わったんだなと思った。

彼の墓を作ってあげようと思った。

あの優しさが、今も心に残っている。

だから私は、彼の墓を作り、あの時の借りを返す。

石を重ねて、色々私なりに工夫して、それなりの墓ができた。

そして私は祈りを捧げる。

「借りを返すのが遅くなっちゃった。ごめん。私は今、生きてるよ」

この世界は何もかも、変わってしまった。

人間が滅亡するなんて思ってもいなかった。

変わるんだな。この世界って。

そしていつか私も変わるのだろう。

私もいつか、彼のいる場所へ旅立つ時が来るのだろう。

「この世界に変わらないものはないもんね」

12/25/2023, 11:50:24 AM

Thema「クリスマスの過ごし方」



「クリぼっち……」

今頃、都会ではカップルがイチャイチャしてるんだろうな。

それに対して私は家でパソコンをいじっているだけで、普段と何も変わらない。

「なんだかんだ去年もこんな過ごし方してたよな」

まぁ、何も変わらないっていうのは、ある意味平和でいいけど。

すると『ピンポーン』と音が鳴った。

「おっ、きたきた。はーい」

何も変わらない。確かに彼氏はできなかったし、そういう面では何も変わってない。

でも今年の私は変わろうとしてるんだ。

そう。今年は。

「ミニクリスマスツリーを買ってやった」

箱を開けると、高さ15センチくらいのミニクリスマスツリーが。

「せめてこれで、クリスマス気分を」

モニターの近くに置く。

「なんか、ショボい……」

なんか悲しくなってくるな。

1人でクリスマス気分を味わおうとしていると、着信音が聞こえた。

「この音は電話か」

誰だろうと気になり、見ると。

「なんだ、あいつか」

昔からずっと仲良くしている、私にとっての『最高の友人』からだった。

「もしもし?」

久しぶりだったけど、彼女はいつもと変わらない声だった。

『メリクリー!!』

「はは、元気だな」

『私さ、クリぼっちだから電話しちゃったぁ』

「奇遇だね。私もクリぼっちだよ」

そんなこんなで少し話をしていると。

「あれ?もしかして……」

『あぁ!!』

窓の外見ると、空から少しずつ白いものが降ってきた。

「『雪だ』」






そう。私はいつもと変わらない日々を過ごしている。

でもそんな中でも、ちょっと特別を感じることがある。

ミニクリスマスツリーを少しだけクリスマス気分を感じた。

クリぼっちだと思っていたとき、『最高の友人』から電話がきて、会話をして楽しんだ。

そして今年の終わりを感じさせるような『雪』が降ってきた。

こんなクリスマスの過ごし方もいいのかもしれないな。

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