Thema「変わらないものは無い」
凍えるように寒い、冬の日。
広大なこの世界に、もう人類は存在しない。
生きているのは、ただ1人。
『エルフ』のみだ。
【孤独のエルフ】
人類が滅亡したのは、もう数千年前の話だ。
正直に言うとあまり覚えていない。
私は『エルフ』だ。昔、人間に捕まったことがある。そこからだ。私の研究が始まったのは。
人間にとっては、何千年も生きる生物は珍しいらしい。というか存在することすら知らなかったらしい。
まぁ、ずっと姿を隠してからか。人に見つかると色々めんどくさい。だから見つからないようにしてたんだけど、ちょっとした油断で見つかってしまった。
そして何十年かは、色々あった。
「お前はどこで生まれた?」
「他にエルフはいるのか?」
「何年生きたんだ?」
質問責めだった。まぁ、それもすぐ終わったけど。
その時は突然訪れた。
「もう出ていっていい。自由にしろ」
って。酷いよね。勝手に捕まえといて、さっさと出てけって。
でも彼らにとって、それどころじゃなかったんだろう。
いつしか人間は、増えすぎた人口を抑えることができず、食糧不足へと陥った。
そしてどんどん餓死していった。
研究者たちも生きていくので精一杯だったんだろうね。
1つ、びっくりしたことがあった。
ある日、私を餓死しそうな子供と勘違いした人がいた。
なんせ私は痩せ細ってるし、背も小さいからね。
その人は言った。
「お前、見た感じだと子供だよな。俺はもう40超えてるんだ。俺が生きるより、お前が生きた方がきっといい。長生きするだろう」
そう言って、彼は最後のご飯を私に渡した。
驚いた。まさか今にもお腹が減って餓死しそうな人間が、持っている最後の食べ物をあげるだなんて。
私はその時、初めて。
「いい人間もいるんだな」
と思った。
そしてそんなことから、数千年前経った。
人間が完全に滅亡し、生きているのは『エルフ』だけ。それもエルフはもともと数が少なく、恐らく生きているのは私だけだろう。
毎日毎日つまらなくて仕方なかった。どこに行っても何もないし、誰もいない。
そう私は『孤独のエルフ』なんだ。
そんな時、ふと思った。
あの時、食べ物をくれた人がいた場所に行こうと。
別に深い意味はない。
ただ、行ってみたかっただけだ。
そして予想通り、そこには何も残ってなかった。
何もかもが壊れていて、腐っている。
その時、私も変わったんだなと思った。
彼の墓を作ってあげようと思った。
あの優しさが、今も心に残っている。
だから私は、彼の墓を作り、あの時の借りを返す。
石を重ねて、色々私なりに工夫して、それなりの墓ができた。
そして私は祈りを捧げる。
「借りを返すのが遅くなっちゃった。ごめん。私は今、生きてるよ」
この世界は何もかも、変わってしまった。
人間が滅亡するなんて思ってもいなかった。
変わるんだな。この世界って。
そしていつか私も変わるのだろう。
私もいつか、彼のいる場所へ旅立つ時が来るのだろう。
「この世界に変わらないものはないもんね」
12/26/2023, 12:38:13 PM