胡星 (小説書き)

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12/24/2023, 12:39:36 PM

Thema「イブの夜」




「そういえばお前、結局誘ったの?」

「いいや、勇気出なくってさ。本当に臆病だよな。俺って」

俺には好きな人がいる。

ずっと前から好きだった。

一緒に過ごしているうちに、どんどん魅力にひかれていった。

「クリぼっち、やだなぁ」

「そう思うんだったら、さっさと誘ってこいよ」

1か月前、俺は『好きな人』に「一緒にクリスマス出かけない?」そう言おうと決心した。

ようするにクリスマスデート。

でも結局勇気が出なくて、何も言えなかった。

「もう時間ないぞ」

24日。俺は昔からの親友と2人でクリスマスパーティーをしていた。というか、ただのお話会みたいな感じ。

「ここで言わなかったら後悔するのは分かってる。でもビビって身体が動かないんだよ」

クリスマスデートに誘うというのは、成功すれば最高に嬉しい。けれど断られたら、もう立ち直れないんじゃないかってくらい落ち込む。

だから怖いんだよなぁ。

「知っるか?」

「ん?」

「今、告白をしようかしないか悩んでるとするじゃん」

親友の顔を見ると、それは真剣な表情だった。

「告白して断られて「告白しなければよかったぁ」って後悔するよりも、告白しないで「あの時告白しとけばよかったな」って後悔する方が、よっぽど辛いんだよ」

「……」

「テストやったり時とかさ、早く結果知りたくね?どうなったかなって、ずっとムズムズするじゃん」

「確かに」

「まぁ要するに、挑戦しないで後悔するより、挑戦して砕けて後悔した方がましってことだ」

その言葉で気づいた。確かに今、何もしなかったら今後ずっと後悔する気がする。でもここで勇気を出せば、結果が悪くともスッキリする気がする。

「何もしないでお前自身の青春を終わらせていいのか? 挑戦するのは大事だと俺は思う」

俺は顔に出ていたのかもしれない。

「その顔は覚悟を決めた顔だな」

ありがとう。親友。

「確かあいつ、そろそろ塾終わる時間だったよな? ちょっと行ってくるわ」

「おう、行ってこい」

そして俺は走り出した。

「頑張れよ。お前がリア充になるのを楽しみにしてるぜ」




━━━━━━━

「はぁ、はぁ……」

全力ダッシュしたせいで息切れがひどいな。

時計を見ると、針が10時を示していた。

「そろそろ塾終わる時間だよな」

『好きな人』とは結構話したりしてて、塾の帰りに会うと一緒に帰ったりしていた。だからきっと大丈夫なはず。

「あっ……」

すると塾から出てきた。『好きな人』が。

「え!? どうしてここにいるの?」

驚いた表情をしている。まぁ、当たり前だよな。

「あっ、いやそのな……」

目の前に相手がいるのに、少し言葉が詰まる。

「えーと……」

すると後ろから親友の声が聞こえた気がした。

「頑張れ」

後ろを振り向くと、遠くから静かに親友が見守ってくれていた。

ポケットに手を入れて、寒そうにしている。

その姿を見て、俺は決心した。

ありがとうな親友、今まで俺の恋を応援してくれて。待ってろ。今、言うから。

「あのさ、明日クリスマスじゃん」

「そう、だね」

スゥーっと深呼吸し、君の目をしっかり見て言う。

「明日、一緒に出かけない?」

いや違うな。

もういい。ここまで来たら言っちゃえ、俺!!

「俺とクリスマスデートしてください!!」

頼む頼む!!

こんなに心から願ったことは無い。

君と一緒にいたい。



照れているからなのか、寒いからなのかは分からないけど、君の顔は少し赤くなっていた。

そして君は笑顔で答えてくれた。

「いいよ!!」








視点B

あっ、たぶん今言ったな。

遠くからでも分かる。あの必死の表情。

俺はずっと応援してたよ。お前の青春を。

ほんっとうに。ずっと好きって言っててさ、早く結ばれろよ。とか思ってたりしたよ。

でもそれがいざ、くるって思うと、関係ない俺でさえドキドキする。

「……あれは、」

心から嬉しかった。

あいつも、あいつが好きな人も。

満面の笑みだったんだ。

あぁ、良かったな。本当に良かったな。

「また今度、デートの感想をたっぷり聞かせてもらうとするか」

そうして俺は、心の中で「おめでとう」と思いながら歩き始めた。

12/23/2023, 12:50:13 PM

Thema「プレゼント」




中学生の頃、お父さんに。

「キャンプしてみない?」

そう誘われ、キャンプをしてみた。

それから私はキャンプにドハマリした。

ただキャンプ道具はあまりにも高くて、中学生が買えるようなものじゃなかった。

だから私は「バイトしてキャンプ道具をたくさん買う!!」とか言ってた。

そしてなんだかんだ高校生になって、バイトして、キャンプして。

信頼できる最高の友人ができて。

キャンプが私を導いてくれた。

あ、あとキャンプに誘ってくれたお父さんにも感謝してる。

「ありがとう」




━━━━━━━

高校3年生の頃。

「そういえば、進路決まったんだっけ?」

「うん。決まったよぉ」

「そっか」

今までは何回か一緒にキャンプしてたけど、3年生になってから色々進路とか大変で行けなくなっちゃってたな。


あぁ、もう少しで言えそうなのに。


この素直な気持ちを伝えようと何回も思ったけれど、なぜか言い出せない。

でもその『最高の友人』は、そんな私が言い出せなかった言葉を、当たり前のように言ってくれた。

「お互い進路決まったんなら、卒業前に行こっか。キャンプ」

その時。誘ってくれた嬉しさと、私がその言葉を言い出せなかった後悔の2つで感情がごちゃごちゃになった。




━━━━━━━

バチバチと焚き火の音がする。

焚き火って癒されるな。

「ねぇ、」

一緒に焚き火を眺めていたとき、『最高の友人』はこう言った。

「早いね。高校終わるの」

「……っ」

そうだ。ずっと怖かったんだ。

卒業したら、もう一緒にキャンプすることなんてなくなっちゃうんじゃないかって。

卒業前に一緒にキャンプしちゃったら、悲しくて、もっと一緒にいたいって。

思っちゃいそうって。

「そう……だね」

少しの沈黙の後。

「たしか、一人暮らしだよね」

「そう。家族とも会えなくなるから寂しくなっちゃうなぁ」

親元から離れて一人暮らし。友達とも、会えなくなる。なのに『最高の友人』は寂しそうな雰囲気は全く出してなかった。

「また、一緒にキャンプしようね」

自然と、その言葉が出た。

彼女に対しての励ましの言葉のつもりでもあったけど、これは私自身の願望だな。

「遠くに行っちゃっても、またいつか会えるわけだし」

彼女は嬉しそうに言った。

「キャンプ誘うタイミング、上手いよね」

「え?」

「最初キャンプ誘ってくれた時さ、嬉しかったんだ。あまり高校生活に馴染めてなくってさ。でもキャンプしてみたら、なんかそんな気持ちも吹っ飛んじゃって」

「それで今、またキャンプ誘ってくれた。本当はさ、寂しいんだよね。いくら将来の夢を叶えたいとはいえ、大事な友達と別れるのは寂しいんだよ」

彼女はその『寂しさ』を隠しているつもりだったんだろうけど。

全然隠せてなかった。



涙、溢れてるじゃん。


「ありがとう、誘ってくれて。いつかまた一緒にキャンプできるんだって考えたら、頑張ろうと思えたよ」

ただ私の願望を言っただけだけど、その願望で『最高の友人』が元気になってくれたのなら嬉しい。

「私にとって最高の友達だよ!!」

そう言って、彼女は抱きついてきた。

「私にとっても」


「最高の友達だよ」




━━━━━━━

あれから数年が経った。

未だに、一緒にキャンプはしてない。

しばらく連絡しないうちに、少し気まづく感じてきた。

やっぱしばらく会ってないと、少し気まづくなっちゃうんだな。

すると『ピンポーン』と音がした。

「宅配です」

なんだろう。

それを見た瞬間、涙が溢れてきた。

「あいつからか……」




そう。その『最高の友人』は、そんな私が言い出せなかった言葉を、当たり前のように言ってくれた。




「一緒にキャンプしない?」









手紙。
久しぶり!! 元気にしてる?私は元気だよ。実はさ、また今度そっちに帰るんだ。だからその時一緒にキャンプしない?私、お金っていう大人の力で色々買っちゃったんだ。そしてこれはキャンプしようねって想いを込めたキャンプ道具。私からの……




プレゼントだよ。

12/22/2023, 2:36:01 PM

Thema「柚子の香り」




『疲れた』

そう思った時はお風呂に入浴剤を入れる。

「今日は柚子か」

4種類の香りがある入浴剤。毎回、目を瞑って選んでいる。そして今日は『柚子の香り』だった。

入浴剤を湯船の中に落とす。

きっと身体を洗い終わった頃には、全部溶けてるだろう。

そして身体を洗い、湯船を見ると。

「いい感じに溶けてる」

足からゆっくり湯船に浸かる。

「ふわぁ……」

なんでだろう。お風呂に入ると、1日の疲れが吹き飛ぶ。嫌なことも忘れられる。

しかも柚子の香りのおかげがは分からないけど、いつもより少しリラックスできてる気がする。

「いい香り……」




━━━━━━

今日は久しぶりの休日。

ということで。

「ちょっくら、お出かけっと」

私はバイクに跨り、寒い冬の時期に旅をする。

ここから有名な観光地までは、そこまで遠くない。日帰りで行くにはぴったりの場所。

にしても。

「寒いな……、確か1年に1度の寒波とか言ってたっけ」

全く。なんでこういう時に限ってこうなんだ。




━━━━━━

そして一通り有名な観光地を周ったりした。

「もう帰るか。明日も仕事だし」

休日に家でゴロゴロするのもいいけど、こういう旅をして癒されるのもいいなぁ。



そして帰り道、寒さに震えていると。

「天然温泉……」

温泉の看板が。

ちょうど身体冷えてるし、入ってみるか。




「おひとりですか?」

「はい。そうです」

お金を支払い。いざ。

「温泉だぁ!!」

の、前に。

しっかり身体を洗って。

よし。今度こそ。

ここの温泉は何種類かあるらしい。

「とりあえず気になったやつに……」


……!?、あれは。

『柚子温泉』

柚子…。

少し近づき、考える。

「うーん……」

するとほんわかと柚子の香りが。

私は吸い寄せられるように温泉に入った。

「ふわぁ〜」

冷えきった後に入る柚子温泉。

最高〜。

「……」

なんだろう。なんか柚子に不思議な親近感が。

私は柚子に向かってこう伝えようとする。

「柚子め、お前こと好きになったかもしれないじゃないか」





━━━━━━

仕事終わりに買い物をしていたときだった。

そいつと、目が合った。

「柚子……」

考えるより先に身体が動いた。




「ありがとうございました」

あーあ。買っちゃった。

あんなもん知っちゃったら、もう戻れないな。

そして私は今日も日々の疲れを癒すために。

優しい柚子の香りを感じるために。

お風呂に入る。