テーマ「今一番欲しいもの」
「今一番欲しいものはなんですか?」
そう聞かれたとき、私は言葉が詰まる。
この質問には『1万円以内で』とか『食べ物限定で』とかという制限はない。つまり自由。
でも何にも縛られず自由だからこその不自由が存在する。
「……ろ、……起きろっ!」
「う、うぅ?……」
目を覚ますと目の前に先生の顔があった。
「うぅ?じゃない!今は作文を書く時間であって寝る時間じゃない!」
周りを見渡すと、色んな人が私のことを見ている。
「す、すみません。徹夜しちゃって……」
「まったく。気をつけろよ」
そう言って先生は教卓へ戻っていった。
はぁっとため息をつきながら、窓の外を見る。
そこは雲ひとつない青空だった。
下駄箱に靴を入れる。
靴を履いて歩き出す。
家に帰る。
帰りのホームルームが終わった後はいつもこうだ。何も変わらない日常を過ごしている。
でも今日は少し違う。
靴を履いて歩き出す。と、家に帰る。の間に寄り道を入れる。
『お墓参り』
私の彼氏は数ヶ月前に事故で亡くなった。
当時は辛くて何も考えられなかったけど、今はもう落ち着いて現実を受け入れ始めている。
「久しぶり」
私は手を合わせて目をつぶる。
その時ふと思いついた。
【今一番欲しいもの】
これは『もの』じゃないけれど……
「彼との時間が、……欲しい」
一緒に休みの日は出かけて、学校がある日も一緒にお昼を食べて。そんな日常が当たり前だと思っていたけれど、そうじゃなかった。
それに気づけたからこそ今、彼との時間が欲しい。
「お願い……」
そう呟いた時だった。
後ろからギュッとされ、温もりを感じた。
「1人にさせてごめん」
思わず振り返ろうとした。
でも後ろにいる人が手で顔を抑えてくる。
「寂しい思いさせて本当に、ごめんね……」
顔は分からない。けれど声でわかる。
だって、ずっと一緒にいたから。
「何言ってるの……?」
「だって……」
「私はごめんって言われたんじゃないの……謝れると悲しくなるじゃん……」
「そっ、か」
「私から言わせて。今までずっと一緒にいてくれてありがとう」
「……っ」
「で?そっちは?」
「そうだね。こっちからもありがとう。今まで本当に本当に楽しかった。そして大好き」
気がつけば顔を抑えられている感覚は消えていて、後ろを振り返っても誰もいなかった。
短い不思議な体験だったけれど、私は前向ける気がした。
これからは彼を心配させないように、全力で生きていこう。
7/21/2024, 11:49:57 AM