桜河 夜御

Open App
9/23/2023, 8:07:47 AM

お題「胸の鼓動」 

 響き渡る歓声。鳴り止むことのない拍手の音。
 スポットライトの光を浴びて立つ、輝かしいこの舞台で、ずっと歌い続けたい。この先何年、何十年、何百年だって。
 その思いを叶えるために作成されたのが、本人を模した3Dモデル。
 姿形だけではない。声も、性格も、趣味嗜好も何もかも、全てをオリジナルに寄せて作られている。
「今日のライブも凄く良かったよ!」
「ありがとうございます!」
 オリジナルがいなくなり、その思いを叶え続けている当人だけが、未だに自分自身の出自を知らずにいる。
 知らないままで、その人が立っていたのと同じステージで、輝き続ける。
 真実を知る人たちは、そのままでいいと考えていた。世の中には、知らなくていいこともある。知らないままで、輝けるのなら、わざわざ教える必要はない。
 けれど、情報が溢れ返るこの時代に、いつまでも隠し事を続けるのは難しい。
「死者の歌声って、どういう意味ですか」
 今はネットで、どこの誰とも知れない人たちが嘘か本当かも分からない噂話を、あたかも真実であるかのように語る。
 そんなものは嘘だと笑い飛ばせるものから、本当かもしれない、と思わせるものまで、様々な話が飛び交うなかに、そんな書き込みを見つけたらしい。
 あの人の歌声は、もういない人のものだ。あれは死んだ本物を模した3Dモデルだ。自分たちは、死者の歌声を聴かされている、と。
 その話に肯定的な声もあれば、否定的な声もある。
 死者の声を使い続けるなんて、という人もいる。死者の声など、知らないうちに聞いていることもあるだろう。だからそんなことは関係なく、あの歌声が好きだという人もいる。
 とにもかくにも、知ってしまったのだ。死者の歌声という、知らなくても良かった言葉を。
「そのままの、意味だよ」
 だからもう、隠すことは無理だと思った。
 隠せないなら、変に誤魔化すよりも全てを話してしまおう。知ったところで、何も変わりはしないのだから。
「君はね、歌い続けたいと願った人の3Dモデル。姿形も、歌声も、性格も、趣味嗜好も。全部オリジナルから貰ったものだよ。君は死者の写身みたいなものなんだ」
「そう。全部……」
 俯くその姿に、掛けられる言葉は浮かばなかった。
 自分のものだと信じていた、全て、何もかも。本物の誰かから貰ったものだと、初めから自分だけのものなど何もないのだと。知ったところで、どうしようもない。
 だってあの子は、歌い続けたいのだから。
「でも!でも、この心臓は、この音だけは、本物でしょう。作り物に、鼓動なんてないんだから」
 姿形は、オリジナルに似せたもの。歌声も、オリジナルと同じもの。性格だって似ているどころか全く一緒で、趣味嗜好だってその通り。全てが本物から貰ったものばかりで、自分のものなど何もない。
 分かっていても、何か一つ、自分だけのものを探したくて。
 思い至ったのが、トクン、トクン、と今でも一定に心地好く動く、その胸の鼓動だった。
「君のその、胸の鼓動はずっと一定に動いているよね?」
「当たり前です!生きてるんですから」
 生きている限り、鼓動は一定の速度で動き続ける。
 だからこれだけは、本物だ。
「鼓動はね、感情で速度が変わるものなんだよ。でも君の鼓動は、舞台に立っても、今こんなに動揺しても、ずっと変わらない」
 そう言われて、初めて知った。
 鼓動の音は、どんな時でもずっと一定なんだと疑わなかった。だって一番身近な自分の音が、そうなのだから。
 トクン、トクン、と。今も変わらず、この胸の鼓動は一定の速度で動き続ける。
 こういう時、本物の胸の鼓動はどんな速度で動くのだろう?
「その鼓動は、君だけの、偽物なんだ」
 本物の胸の鼓動は、こんな風に一定ではないのだろう。だからこれは、本物から貰ったものではない。
 トクン、トクン。一定の鼓動こそが、自分が本物ではないことの証明。
 けれどこれこそが。この一定に動く胸の鼓動が、自分だけの、唯一だ。

                    ―END―

9/19/2023, 11:17:39 AM

お題「香水」

 人の記憶は、都合良くは出来ていない。
 忘れたい。忘れたくない。覚えていたい。そんな当人の思いとは関係なく、忘れたいことほど強く記憶に残っているし、忘れたくないものほど早く忘れていくものだ。
 それでも、人の記憶は儚いものだ。
 思い出したくない記憶には蓋をして、振り返らないようにしているうちに、本当に劣化していく。
 忘れたい記憶は、時間をかければゆっくりと、けれど確実に薄れていってくれる。
 同時に、忘れたくない記憶も劣化する。
 どれだけ覚えていたいと思っても、時の流れには敵わない。
 当たり前の事実に、少しでも抗いたい。
 その想いに、応えてくれる店があった。

「いらっしゃいませ。どんな香りをお探しですか?」
 『Re』という看板が掛けられた扉が開く音がして、振り返る。入口付近に不安そうに立ち尽くすその人に、店主は優しく声を掛けた。
 この店の噂は、必要な人から必要な人へ、自然と広まっていくらしい。必要のない人のところへは店の噂は届かないし、必要な人のところへは必ず届く。そういう風に出来ている。
 だから恐らくはこの人も、必要があったからここに来たのだろう。
 この店を必要としてここを訪れたのなら、その想いに応えなければ。
「えっと、あの……青リンゴみたいな、でもちょっと苦くて爽やかな香りで。それから……」
 店内に足を踏み入れたその人は、薄れ始めた記憶を必死に手繰り寄せながら、求める香りを語っていく。
「その人は、どんな人でしたか?」
「どんな……なんか、ヒーローだとか正義の味方だとか、みんなに言われるような人でしたね。頼られると断れなくて、いつも忙しそうで……」
 彼女は語る。思い出の中のその人の姿を。
 忘れてしまわないように、今日まで必死になぞり続けた、その面影を。
 人助けをするために、一体何度約束をすっぽかされたことか。遠くの他人ばかりを気にして、近くの身内はいつでも放っておかれたのだと。
 それでも、あの人は約束を忘れないから。
 約束を破ったことを気にして、いつだって駆けて戻ってきてくれる。それが嬉しくて、だから何度すっぽかされても、約束をすることが好きだった。
 でも、もう戻っては来ないから。
「忘れないって思ってても、気が付いたら、忘れてて。昨日まで覚えてたのに、もう今日は思い出せないこともあって。どうしようって思ってたら、ここの噂を聞いたんです」
 『Re』という店は、記憶の香りを再現してくれる、と。
 そのお店は駅前の大通り沿いという分かりやすい立地にあるのに、知っている人はとても少ない。
 噂を聞いた人が探しに行っても、どこにもなかったと言うこともある。
 けれど、噂を聞いた人は近いうちに、そのお店が必要になる。
 そうして再び探してみれば、以前はなかったその場所に、何故か『Re』の看板を見つけられるという。
「必要な人しか、このお店には来ないですから」
 話を聞き終えて、店主は迷うことなく精油を選び、香水を作っていく。
 ベースにするのは、彼女が最初に口にした香りであるグリーンアップル。そこにベルガモット、ジャスミン、サンダルウッドなどを適量。それらと無水エタノールをガラス棒でよく混ぜ合わせたら、スポイトを使ってシンプルなガラス容器に移しかえる。
「完成です。良かったら、香りを試してみてください」
 出来上がったばかりの香水瓶を受け取った彼女は、少し緊張した面持ちだ。
 複数の香水を試すのなら試香紙を使うところだが、ここでは毎回一種類のみ。なので本来の香水の香りを感じてもらいやすいように、直接肌に吹き掛けて試してもらうことにしていた。
 そっと、彼女が香水を吹き掛けると、ふわりと辺りに香りが広がった。
 フルーティタイプの、甘く爽やかな香りの中に一匙の苦味を感じる、そんな香り。
 その香りで、理解した。
 このお店の話をする時、誰もが口にする言葉。「記憶の香りを再現」という意味を。
 香りは記憶に紐付いている。まさにその言葉の通りに、広がる香水の香りと共に忘れかけていた思い出が蘇る。
 あの人の周りには、こんな香りが漂っていたんだった。こんな声を、していたんだった。こんな風に、笑う人だった。いつもこんな表情で、約束を破ったことを謝りに来ていた。
 そういう、時間と共に薄れていく、些細なことも。
「この香水があれば、ずっと、覚えていられそうです」
「それは良かった」
「あの、お代を……」
 言うと同時に、浮遊感に襲われる。一瞬意識が遠退いて……気付けば、歩道に立っていた。
 駅前の大通り。古いお店や最近新しく出来たばかりのお店が立ち並ぶ場所。
 ここに来たことは覚えている。自分の足で、確かに目的を持ってここに来た筈なのに、それが何なのか思い出せない。
 いつの間にか、手には香水瓶を持っている。持ってきた覚えもなければ、買った覚えもない。けれど、自分が持っているべきものだと、それだけは分かった。
 
 人の記憶は、都合良くは出来ていない。
 ほんの少し前のことすら簡単に忘れてしまうし、忘れたくないと思うことも、時間と共に忘れてしまう。
 それほどに、人の記憶は儚いから。
 何かに助けて貰わないと、ずっと覚えてはいられない。

                      ―END―

9/14/2023, 1:48:52 PM

お題「貝殻」 

 幸せに、なりたかった。
 幸せになるためには、どうしたらいい?
 ――欲しいものが、何でも手に入れば、それは幸せ?
 分からない。分からないけれど、幸か不幸か自分には欲しいものを何でも、欲しいだけ手に入れるだけのお金があった。
 だから集めた。とても欲しいと思ったものも、少し欲しいと思ったものも、欲しいかもしれないと思ったものも、別にそこまで欲しくはないけれど薦められたものも。全部、集めた。
 集めて、集めて、集め続けて……。
 一部屋が埋まり、二部屋が埋まっても、満たされない。
 いつまで続ければいい?あとどれだけ集めたら、幸せになれる?
 もっと、もっと集めなければ。
 今までよりも高価なもの。美しいもの。素晴らしいもの。誰もが欲しがるようなものを。
 集めて、集めて、集め続けたのに、ちっとも満たされなかった。
 どうしよう?どうしたらいい?どうすれば、幸せになれる?
 もっと集めれば、幸せになれるだろうか。
 これ以上、どんなものを集めればいい?
 この世で一番高価なものも、美しいものも、素敵なものも素晴らしいものも。称賛されるあらゆるものは、もう集め尽くしてしまった。
 それならば、今度は手放してみようか。
 欲しい人に、欲しいものを、欲しいだけ。
 望むものが手に入れば、人は幸せになれる筈だ。だから、自分にはいらなかったものを欲しい人に渡すことで人を幸せにできれば、満たされるかもしれない。
 そう思って、いらないものはどんどん手放していった。
 幸いにも、欲しがる人はいくらでもいた。いらないものも、いくらでもあった。
 あれも、これも、それも……自分にはもう、いらない。
 そうやって次から次へと手放していって、物で埋め尽くされていた部屋が綺麗に片付いて。
 これだけは、と。手放せずに残ったのは、箱に仕舞った貝殻一つ。
 この貝殻は、いつ手に入れたものだったか。その時の自分は何故、この貝殻が欲しかったのか。
 それはきっと、誰かが、この貝殻を綺麗だと言ったから。それを言ったのは、誰だった?
 思い出そうと、目を閉じる。目蓋の裏に浮かんだのは、たった一度だけ家族全員揃って行った海の情景。
 何故、その日に海へ行こうと決めたのか分からないような曇り空の下。季節も夏ではなかった筈だ。波だって穏やかとは言い難い。
 それでも、あの日の海は、美しかった。今まで見た、どの景色よりも。
 海には入れないけれど、みんなで歩いた砂浜で。そう、自分で、見つけたんだった。この貝殻を。
「見て。これ、綺麗だよ」
 どこにでもありそうなその貝殻を、その時の自分は綺麗だと思った。
「本当だ」
「うん。綺麗だね」
 家族も口々にその貝殻を褒めてくれた。穏やかで、優しかった時間。
 あの時間が確かに幸せだったのだと、たった一つの貝殻が証明してくれていた。
 
 ずっと、幸せになりたかった。
 幸せになるためには、どうしたらいい?
 ――自分には、貝殻一つで充分だった。

                    ―END―

9/10/2023, 1:39:45 PM

お題「突然の君の訪問」 

 ――コン、コン
 ノックの音と共に、彼は突然現れた。
 眠れない夜に、いつもの笑顔で、「外に行こう」と。
 どうせ眠れないなら、部屋にいたって仕方がない。そう思って、毎回その誘いに乗っていた。
 外に出ると言ったって、もう遠くへ行くことはない。
 いつも近所の公園や、そこら辺の道を目的もなく歩くだけ。それだけでも、長い夜を眠れないままに過ごすよりはずっと良い。
「風が気持ちいいですね」
「うん、そうだね」
 これといって盛り上がる話題があるわけでもない。そもそもが静寂を好む人だから、散歩の間も黙って歩き続ける時間のほうが長い。
 けれど、たまに話を振れば答えてくれるし、静寂の時間さえも心地好かった。
 この心地好さが、ずっと続いて欲しかった。
「今日も、月が綺麗だね」
「……あなたと見る、月だからですよ」
 ――あなたのくれる愛こそが、私の全て。
 だからずっと、眠らないで欲しかった。眠ってしまえば、もう二度と目覚めなくなってしまうと、分かっていたから。
 眠ってしまわないように、毎日病室を訪れては話をした。
 一緒にいられるだけで満足するべきだったのに、彼が聞いたから。
 ――あなたは、どうしたい?
 ――私は、……
「あなたは、どうしたい?」
 また、同じように彼が聞くから。
 ずっと抑え込んでいた心の声を、つい、溢してしまった。
「私は、ずっと。あなたと、美しい景色を見ていたかった」
 彼に問いかけられたあの日と、同じ想い。
 叶えてはいけなかったから。今ではもう叶わないから。ずっと抑え込んでいたのに。
 問われれば、溢れてしまう。想いに、素直に。彼が教えてくれた通りに。
「でも、あなたはもう、眠ってもいいんだよ」
 ――人は眠らないと、死んでしまうから。
 美しい景色を求めて歩いたあの日々にも、言われた言葉。
 ずっと病室で機械に繋がれていた彼に、美しいものを見せたくて。病室でしか会えない彼と、美しいものを一緒に見たくて。
 眠ってはいけない彼と、眠らなければいけない私で、眠い目を擦りながら旅をした。
 美しい海、美しい山、美しい空、美しい湖、美しい川、美しい街並み。
 その途中で、眠ってしまったことを、ずっと後悔している。
「私が、眠ってしまったら……」
 もう、会えないですよね?
 そう聞きたかったのに、眠っていいと言われたら、もう眠気に抗うことが出来なかった。
 本当はずっと、眠ってしまいたかった。そうして、彼と同じようにこのまま。
 そんな風に思っていても、翌朝しっかりと目が覚めた。久しぶりにスッキリとした感覚を味わいながら、ふと窓の外を見つめる。
 真っ白な雲に彩られた、素晴らしい青空。
 月と星が煌めいた、昨日の夜空も美しかった。
 ここでなら、ずっと一緒に、素晴らしい朝も美しい夜も見れたのに。
 あまりに近すぎて、それに気付くのが、少しだけ遅かった。

                      ―END―

9/7/2023, 7:53:29 AM

お題「私の日記帳」 
 
 世界は、優しくなった。
 優しくなったから、他人の不幸に共感しすぎる人が増えた。共感しすぎて、だから自分も悲しくなって。 悲しくなると、死にたくなってしまうから。優しい世界は、たくさんの人を簡単に死なせてしまった。
 けれど優しくない世界では、自分自身に悲しいことが多すぎて、やっぱり死にたくなってしまうから。
 優しい世界でも、優しくない世界でも、人は簡単に死んでしまう。
 だから、人を簡単に死なせてしまう“気持ち”や“感情”を表に発信しないように、自分だけの日記をつける義務が生まれた。
 しっかりとした文章でなくてもいい。一行でも、一言でも。もちろん長文でも。
 とにかく一日一回、自分の“想い”を日記に書くことが義務となった。
 
 けれど、日記を書いたからといって“想い”が無くなるわけではない。
 表には出なくなっただけで、“想い”はずっと、日記帳のなかにあった。ずっとそこに、仕舞い込まれていた。
 人が人に優しくなった世界で。優しい人を巻き込まないようにと、優しい人たちが日記帳だけに留めた想い。
 そこには嬉しいことや幸せなこともあれば、悲しいことや辛いことも書かれていた。
 そうして、やっぱり人は、悲しいことや辛いことに弱いから。後悔したこと、失敗したこと、間違えたこと、悔しかったこと、嫌だったこと……。
 日記をつけても、負の感情は結局、人を簡単に死なせてしまうことに変わりはなかった。
 自分だけの日記帳ができ、余計に自分の“想い”を自覚しやすくなった分、尚更だ。
 いつでも手元にあり、一日一回は開くことになる日記帳は、読み返して過去を回想する手段になりやすい。
 今日の記録を書くついでに読み返して、そこで自分の人生のプラスとマイナスを自覚してしまう。
 自分の人生で良いことはこれだけしかない。それに比べて、悪いことはこんなにあった。どれだけ努力しても無駄だった。報われてなんかいない。自分の人生は、一体何なのだろう……。
 そう思い始めてしまえば、人は衝動的に、簡単に死んでしまう。
 そうすると、遺された人は整理がつかない。
 自分の“気持ち”や“感情”を表に発信しないための日記帳のなかだけで完結されてしまったら、もう何も分からないから。

 だから、いつしか日記帳には、もう一つの役割が出来た。
 ――あなたの日記帳に、自分の素直な“想い”を書き記してください。人生の終幕を自分で引くとき、日記帳の最後にENDと記してください。
 書く内容も書き方も自由なままで、やることは変わらない。変わったのは、今までは誰にも読まれない日記帳だったのが、誰かに読まれる可能性も生まれたこと。
 それから、人生の締め括りを自分でやりなさい、ということ。
 何故なら相変わらず、人は簡単に死んでしまう。
 悲しいこと、辛いこと、嫌なこと。負の感情は、人を簡単に死なせてしまうことに変わりはない。
 そんな風に簡単に、衝動的に、突然いなくなられては、遺された人は整理がつかない。そこで、身近な人の最期には、“想い”の遺った日記帳を開示することにした。
 生前に日記で“想い”を遺し、ENDの文字で望んで幕を引いたのだと納得してもらう。
 そうすれば、分からないことに思い悩んで死んでしまう、負の連鎖を断ち切れる筈だ。
 断ち切れると、思っていたけれど。
 結局、表に出た日記帳のなかの“想い”を優しい人が受け取って、悲しくなって、死んでしまう。
 なら、どうすれば良かったのか。
 誰にも見せない日記帳のままが良かったのか。そもそも日記を書く義務を作ったのが間違いだったのか。いっそ、冷たい世界の方が良かったのだろうか。
 あぁ、もう、考えるのも疲れてしまった。

                    ―END―

Next