つぶやくゆうき

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10/5/2023, 1:26:34 PM

暗闇を仄かに照らす小さな光。
光源としては役に立たないことが多くなったが、それでも「星が光っている」というのは風情も相まって強い意味を持つと思う。

何万光年も先の光が僕らに降り注ぐ。光速という時間さえも超越する速さでも、途方もない時間をかけてやってくるのだ。

大昔の人はそのような化学は知らなかっただろうし、考えることも無かっただろう。でも、その星たちに物語を重ね、道を指し示す光にも季節の移り変わりを楽しむ光にもした。
物語が出来た時には、その星は無くなっていたのかもしれないのに。

「だからよぉ〜、おれぁ、生まれ変わるっつんなら……星になりてぇのよ〜」

もう何度も聞いた。今日だけでも空で言えるほど聞いてるのに、毎度毎度酔っ払うとこの調子だから正直飽き飽きしている。

「全く、これだから先輩は……(彼女ができないんですよ)」
その後に紡ごうとした言葉は、流石に直接伝えるのは酷だと感じたのでお酒と一緒に飲み込む。
のどごしは悪くないが異物感があるのは、まだ私自身がこの感情を飲み込めていないからだろう。

「上ばっかり見ないで、たまには周囲も見てくださいね。灯台もと暗しといいますから。」

要領を得ない文章になったが、伝わっただろうか?
いや伝わらないことは百も承知。これまで何度失敗したことか。

こんな時ぐらい助けてくれてもいいんじゃないかな?
先輩の好きなものにイチャモンをつけてしまうのは申し訳ないが、この調子じゃ全く機能しないのだから。

せっかくの射手座なのに。


『星座』

10/4/2023, 11:51:31 AM

さぁさぁ狂ったように踊りましょう。

ホップステップで踊ろうか。

裸体になってさ踊りあかそう。

等々。踊りが歌詞に入っているものを思い出せば、それは何故か踊ることが主目的ではないように感じる。
まるで踊るとは常人のすることではなく、気が触れた人間の行動だとでも言いたげな歌詞だ。

まったく、失礼な話ではなかろうか。
踊ることは楽しいことや嬉しいことを表現する方法にもなれば、体の仕組みを理解することでトリックアートみたいな不可解な踊りだって出来るというのに。
「踊る=ダンス」 と結びつくことはこの歌詞たちからは見当たらない。

でも、知ってる。いや分からされている。
ダンスはセンスとか努力とかをふんだんに混ぜ合わせたケーキみたいな物で、そう易々と出来るものじゃない。
そんなにキラキラした世界に僕は存在しない。

だから思い出した曲たちは、
僕のモノクロな青春を隠すように、
極彩色で彩られた曲たちなのだ。

Shall we dance?ではなく、

I’m dancing alone.なのだ。


『踊りませんか?』

10/3/2023, 11:07:12 AM

「巡り会えたら」

夕暮れも早くなり街中の照明が周囲を明るくする。
ほんの少し前はノスタルジックな夕焼けが迎えていたのに、今や賑やかな喧騒と騒々しい看板が迎え撃つ。日の入りが早くなるにつれ、明るくなるのが早くなるというのはなんだかあべこべだなと…。

そんなくだらないことを考えてしまうのは、疲労が溜まった身体を帰巣本能のみで動かしているからだろう。
仕事終わりの帰宅ラッシュの時間。いつも通りの人混みに紛れながら電車を乗り継ぎ、なんとか最寄り駅に着いたのだから頭だって正常な訳がなかった。
だが、定時に帰れているだけでも自分の仕事には感謝している。それ以上に不満やストレスや人間関係に頭を悩ませようともだ。

今日も身体は帰巣本能に任せ、頭の中は悩み事で混沌としている。安っぽく言えば昔のアニメみたいにうずまきのエフェクトと丸ゴシックで「ぐーるぐる」と書かれてる状態だろう。
だが何も考えることも無いのだからしょうがない。

だからこれもしょうがなかったのだ。

帰り道の名物。ストリートミュージシャン。
最寄り駅はストリートミュージシャンが有名アーティストになったとか駅の発車ベルが代表曲だとかなんだかで、路上ライブが少し盛んだった。
目線を合わせることなく聞き流しながら近くを通るばかりで興味もない喧騒の一つ。

でも、空っぽの頭にすっと入ってくるメロディーが身体を止めた。
急な事だった。今までに一度だってない。糸が切れた人形のようになんの前触れもなく止まった。
いや、動けなくなった?それとも疲労が限界を迎えた?とか、とにかく俯瞰的に自分を観察する。
そして聴く。滑らかな声。メロディーは曲線を描くようなのに、歌詞の内容は暑い。共感性羞恥が出てしまうような暑さ。それをアーコスティックギターが激しく表現している。そして叫ぶように丁寧に歌っていた。

そっか。

俺は今、疲れた身体が家に帰るよりもこの歌を聴くことを選んだんだ。
この人のこの歌を聴きたくて足を止めたんだ。
分かってしまったら、理解してしまったら、何も怖くない。なにも抵抗することはないんだ。

その後は目線を向けて歌に聴き入ってしまい、結局帰るのは遅くなった。
でも不思議と身体は軽くなって気持ちも軽くなったとさ。

めでたしめでたし。

4/10/2023, 11:52:52 PM

桜も咲いた三月中旬。学校を卒業し次のステージに胸踊る先輩もいれば、高校という場所に期待も不安も持つ新たな後輩もいるなか、
1年から2年に変わるだけの自分は、特に思うことも無く短い春休みを満喫するだけであった。

それでも多少の義務はありまして、いつも通りの音楽を聴きながらいつもより空いている電車に乗っていた。
車内は外の陽気と比例して家族やカップルが多く見えたが、それは男の子特有の僻みかもしれない。だが制服の自分が車内で浮いている気がするという閉塞感が僻みを加速させたのは間違いない。

そんな車内でも、いつも通りに感じることがある。
ドア付近に立って外を眺めている女の子だ。学校がある日だと同じ時刻の電車によく乗っているので顔はよく知っている。もちろん話すことも無ければ名前もクラスも知らない。同じ学校の制服を着てなければ記憶にも残らないだろう。流石に約1年も一緒の電車に乗っていれば顔ぐらいは覚えるものだが、

だが、今日はいつもとは違う。丁度、車内から桜並木が見えたのだ。外を彩るやや薄めのピンクが視界を埋める。思わず視線を上げたのだが思わず魅了された。
窓の外の桜を眺めにこやかに笑う君。髪を耳にかけたのでイヤホンで何かを聴いているのが分かる。少し頬が赤く見えるのは桜のせいだろうか。
綺麗だった。背景と相まってとても美しく見えたのだ。
その日から女の子に縁遠い自分が彼女を目で追うようになってしまった。
気持ち悪いと思われたくないのでそっと見るだけではあるが、

僕の初恋が始まった。

『春爛漫』

4/9/2023, 11:42:39 AM

朝、だと思う。
背中に少しの温もりと「大好きだよ。」とほぼ同時に頬に感じる愛の込められたキスで少し目が覚める。
でも目は開けない。開けてしまえば彼は気を遣ってしまうからだ。
そうでなくとも昨夜は私に合わせて深夜まで起きていたのだ。朝ぐらいは彼の好きなようにさせたい。

彼は朝型。私は夜型。

彼は23時には床に就いて、朝はいつも早く起きる。
なんでも午前中に用事を終わらせて午後は好きなことをして過ごすのが好き。

私は朝は惰眠を貪り、昼頃にのそのそ起きる。
身体が起き始めるのは夕方からなので、病院や銀行にでも行かない限りは用事は全て夜に回す。
そして床に就くのは2時か3時だ。

生活リズムはまるで噛み合わない。それに好き嫌いも趣味も一緒のものは無い。お互いがお互いにやっぱり友達と遊ぶ方が楽しいと公言するほどだ。更に言えば意見も食い違うことが多い。大抵は彼が折れてくれて喧嘩に発展はしない。

それほど彼は私のことを大事にする。
なんで私?と不思議になるのも不思議じゃなかった。

「顔か!それとも身体なのか!」と外見の善し悪しを聞けば「可愛いと思うけどそれが決め手じゃない。」と答える。
「性格がいいのかしら?」と内面の美しさに惚れたのかと聞けば「いや、じゃじゃ馬だと思う」と答える。
「それじゃ他の女より楽だから?」と怪訝な顔をして聞けば「どこが?!君を相手にするのは大変だよ」と答える。
(こいつ、なかなか褒めねぇな)と少しイラつき始めた頃、
「君には他の女性に無いものがあるんだよ。」と爽やかな笑顔とセットにして答える。
少しだけ照れてしまっていると、彼が顔を近づけきたので思わず身を引く。
キスは嫌では無いのだが、まだ恥ずかしい。
それを知っているかのように彼は「しょうがないね。」と別の話題に切り替える。

(またやっちゃった・・・)と後悔してしまうが、それを彼に言ってしまえば落ち込むだろう。心の中にそっとしまう。付き合ってから何回繰り返しているのだろうか。素直になれない自分に苛立ちはあるが、しょうがないと割り切るしかない。

それほど私は彼のことが好きだ。

だから、私が寝ている時は、素直じゃない私が身を潜めている朝だけは、
彼に身を委ねられるのだ。
寝ている振りをしているのは、多分彼も気づいているだろう。
でも、起きてしまえば距離を取ってしまうのだから仕方ない。

他の誰よりも、ずっと大好きな彼を感じられるのだから。


『誰よりも、ずっと』

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