つぶやくゆうき

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4/8/2023, 11:12:01 PM

朝。
ふと目が覚める。時計を見れば5時半を指していた。
自慢では無いが目覚めはいい方だ。特に仕事が朝早い時ほど起床時間より早く起きる。一応アラームはセットするが、朝ごはんを食べている時に止めることの方が多い。

それでも今日は特に用事もない休日。早起きする必要などない。
でも早起きは三文の徳という。ならしっかりと徳を貰おうではないか。
そうして隣で寝ている君を見る。ベットで一緒に寝ていたが共有していたブランケットはすでに君だけのものみたいだ。早く起きたのは意外と君のせいなのかもしれない。

「なら仕方ないなぁ。」
思わずつぶやいてしまうが特に気にしてはいない。夜行性で朝が苦手な君はちょっとやそっとじゃ起きやしない。なんなら起こそうとしても起きてくれない。だから朝だけは好きにできる。

そして僕は後ろからゆっくりと抱きしめる。いつもは恥ずかしがる君も今は大人しく腕の中で眠っている。
なんて幸せなんだろうか。少しの肌寒さも君の体温で癒され安堵に変わる。そうなれば休日特有の眠気もやってくるものでして、
「やっぱ寝るか。」
そうして君の寝息を子守唄にして二度寝する僕。

でも知ってるよ。
本当は君が起きていて、朝だけは僕を甘えさせてくれていることも。
それでも恥ずかしいから目も合わせないことも。
気づいてない振りをしてあげるから、

これからも、ずっと。
一緒がいいな。

『これからも、ずっと』

4/7/2023, 9:23:50 PM

「沈むように、溶けていくように〜」
夕暮れも近い時間帯だが僕は自転車で爆走して帰路を辿っていた。
いつもなら部活があるため日が沈んだ頃に帰っているのだが、テスト前ということもあり部活は休みとなり早めの帰宅となる。
だがそれを差し引いても、少しキーの合わない流行りの曲を口ずさんでしまうほど、今日は機嫌が良かった。
特段予定がある訳でもないし、バイトの給料日でもない。なんなら携帯代も支払っているためお小遣いなど雀の涙程だ。なんてことはない平凡な一日だ。

だが、そんなモノクロな日常も好きな子と話せたという事実だけでバラ色に変わる。
僕はお世辞にもかっこいいわけでも無ければ明るい性格でもない。部活では先輩からも後輩からもイジられるキャラクターで、見事な程に三枚目だ。
そんな僕にも明るく接してくれているのが真菜ちゃん。みんなからも人気だが男勝りだからあまりそういう噂を聞かない。けど僕から見れば顔も可愛いし性格も優しくて少し抜けている所も僕から見れば愛しく見える。

告白したい、とは思わない。
というより鏡を見る度に自己否定する程に自分の顔が嫌いだ。目はタレ目で一重と重い印象だし鼻は少し幅がある。唇も太い気がするし耳は不揃いだ。こんな僕では告白したところで、いや告白が成功したところで恥ずかしくて君の隣を歩けないだろう。

思考が低空飛行を始め、気持ちを曇天が埋めつくそうと蝕んでいくと、身体もまた正直に重くなっていく。
時間帯もあってセンチメンタルになりやすいのだろうけど、先程のバラ色はどこへやら。あっという間に景色は色を失っていく。

そういう時は気分を変えないと。
僕はお気に入りの曲を口ずさむ。

「期待はずれと、言われた僕の、理想の未来はどこよ〜」
何年も前に流行ったマイナージャンルの更に有名とは言い難い曲。
でも、力強いネガティブな歌詞とガチャガチャとしてるとも言えるロックナンバー。

この曲こそ僕の本心を表してやまない大好きな曲だ。
でもこういうのが好きだから、君にも嫌われてる自信があるんだ。

『沈む夕日』

冒頭の曲『夜に駆ける』
最後の曲『僕はまだ本気出してないだけ』

4/7/2023, 3:34:49 AM

「ですので、この後に衣装替えをして雑誌の撮影となります。」
朝から長ったらしい説明を懇切丁寧にする君。
だが息を切らすこともなく慣れた口調で進めるものだから、思わず気を抜いてしまう。
「一応空き時間にデモテープを聴いておいてください。今回は奏多くんも気に入ると思いますよ、ポップ調でノリがいい感じでした。」
毎回、仕事前に必ずスケジュール確認をしてくれるのだが、有難いことに一日の大半は埋まっていて、それを順に説明するのだって容易なことでは無い。もちろん、君の言うことは否が応でも耳に入るので聞き漏らしはありえない。
「それと夕方の移動中に仮眠を取っておいてください。今日は深夜ラジオのゲストで呼ばれていますから。間違ってもゲームとかマンガとかで暇を潰さないように。」
気を抜いていても返事だけは忘れない。練習生時代に叩き込まれた習慣だから無意識でもタイミングはバッチシだ。だからこそ目が離せないし離す気もない。
「ところで、ちゃんと聴いていますか?ずっと虚ろな目をしてますよ。」
そう、どんな説明でも返事もすれば内容も聴き漏らさないのだからバレようがない。だからついつい見つめちゃうんだよな。

バシッッッ!!!!

「いった!!!」
ふと気づくと目の前には鬼の形相をしたマネージャーが手刀を振り下ろした後だった。
「えっなになに!どうしたの急に!?ちゃんと聴いてたよ!!??」
急いで弁明を始めてはみたものの、焼け石に水とはこのこと。
「こっちは朝早いから眠いのかな?とか憂鬱になる仕事でもあったかな?とか心配してたのに、奏多くん!また適当に聴いてたでしょ!気を抜いてたのバレてんだからね!」
そこまで言われるともう平謝りするしかない。
すいませんすいませんと頭を下ろして謝罪の意を示す。

「はいはい。いつも通りだからいいけどね。それじゃ今日も頼むよ!」
その言葉と同時に喝を入れる君。力加減など知らない右手は俺の肩を思いっきり叩いてくる。
「痛いよ、岩ちゃん!もうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃない?!」
少しだけ要望を伝えては見るが「聞いてない奏多くんが悪い。」と正論で返してくる。
それでも、仕事上の関係かもしれないけど、君といれる時間は大好きだ。
いつもありがとう。岩ちゃん。

そんな奏多くんですが、
(そんなに見つめられるとこっちも恥ずかしくなるじゃない。)
と小声でつぶやく岩ちゃんを聴き逃してしまうのもいつも通りでありました。


『君の目を見つめると』

4/5/2023, 1:46:40 PM

明日も明後日も、
変わらない日常が僕らを襲うだろう。
何の変哲もない平凡な日々が、
僕らから明日への希望を奪うだろう。
そして刺激を渇望した僕らは、
いつか身を滅ぼすだろう。

何もしなければ何も無く愛し合っていたアダムとイブも、
禁断の果実を口にしたように。
何不自由が無く過ごしていたイカロスが
太陽を求め死んでいったように。

僕らは変わらない日常に感謝していても、
非日常を愛するのだ。

日々、姿形を変えていて
見えている光はもう何億年も前に失われているかもしれない、
そうやって私たちを照らしてきた、
星空の下で生きているというのに。

『星空の下で』

4/5/2023, 2:49:56 AM

「ああ、はいはい、それでいいよ。ご苦労さん。」

(それでいいとはなんだ!それでいいとは!)
心の中で憤慨しながらも「ありがとうございます。」と口先だけの謝辞を飛ばす。
せっかく時間も労力もかけて作り直した企画書を無下に扱われてショックではあるが、上司に文句を言われず企画が通ったのなら問題は無い。

とりあえず自分の席に戻り、ため息混じりの深呼吸をしていると目の前の電話が鳴る。
「もしもし、営業三課、真柴です。」
いつも通りの間の抜けた定型文で対応すると、
「おいおい、そんな適当な挨拶でいいのかよ、真柴。」
とよく聞き慣れた声が心配よりも呆れが多く含まれた返事をする。
「内線しかかかってこない電話で7割はてめぇのとこの事故案件だ。挨拶も適当になるさ。勝村部長様。」
先程のストレスを軽く込めて皮肉って返してみれば、「あぁ、まぁ、そうなんだがな…」となんとも歯切れの悪い受け答えにさすがにほんの少しだけ可哀想に感じた。

「それで今回はどんな案件なんでしょうか?」
間に耐えられなかった俺はこちらから切り出していく。
そうすると水を得た魚のように「いやそうなんだよ!実は部下の企画が取引先に気に入ってもらったのはいいんだけど、内容が少し甘いもんだから本人に聞き取りをしたら、これがまた「考えてませんでした」のオンパレードなのよ!!」と一気に内容をぶちまける。

(つまりいつも通りじゃねぇか…)と心の中で溜息をつきながら、取り敢えず話の流れで説明されていく企画内容を細部までメモしていく。
そうして5分程度説明を受けた後に「いつもいつもすまないね!だけど今回も頼むよ!」と勝手に締めくくられ電話切られた。

一方的な電話に少し疲れながら、さっきもした気もするが、ため息混じりの深呼吸をする。

俺の仕事は基本的に営業の企画書を清書してより良いものにしていくこと。といえば聞こえはいいが、つまりは雑な企画書を作り直してマシなものにする、営業の尻拭いみたいな仕事だ。
しかも企画書を作り直した所で営業から感謝はされど手柄は全部営業がかっさらって行くのでコピーライターみたいな影の仕事だ。

でもそれでいい。
俺は元々現場の設営や対応の仕事をしていて、その次の人事で営業もやったがそれなりの成績をたたき出している。だが、1番気に入っているのは今の仕事だ。
変に肩ひじを張らず、頼まれた案件を自分のペースでこなしていく。
誰かと協力せずとも1人で完結する仕事。
だからこの部署だと本当に気が楽だ。

「さてやるか。」わざわざ口に出して気合を入れる。
誰かに指図されることも発破をかけられることもなく、今日も淡々と企画書と向き合っていく真柴だった。


『それでいい』

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