つぶやくゆうき

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「ああ、はいはい、それでいいよ。ご苦労さん。」

(それでいいとはなんだ!それでいいとは!)
心の中で憤慨しながらも「ありがとうございます。」と口先だけの謝辞を飛ばす。
せっかく時間も労力もかけて作り直した企画書を無下に扱われてショックではあるが、上司に文句を言われず企画が通ったのなら問題は無い。

とりあえず自分の席に戻り、ため息混じりの深呼吸をしていると目の前の電話が鳴る。
「もしもし、営業三課、真柴です。」
いつも通りの間の抜けた定型文で対応すると、
「おいおい、そんな適当な挨拶でいいのかよ、真柴。」
とよく聞き慣れた声が心配よりも呆れが多く含まれた返事をする。
「内線しかかかってこない電話で7割はてめぇのとこの事故案件だ。挨拶も適当になるさ。勝村部長様。」
先程のストレスを軽く込めて皮肉って返してみれば、「あぁ、まぁ、そうなんだがな…」となんとも歯切れの悪い受け答えにさすがにほんの少しだけ可哀想に感じた。

「それで今回はどんな案件なんでしょうか?」
間に耐えられなかった俺はこちらから切り出していく。
そうすると水を得た魚のように「いやそうなんだよ!実は部下の企画が取引先に気に入ってもらったのはいいんだけど、内容が少し甘いもんだから本人に聞き取りをしたら、これがまた「考えてませんでした」のオンパレードなのよ!!」と一気に内容をぶちまける。

(つまりいつも通りじゃねぇか…)と心の中で溜息をつきながら、取り敢えず話の流れで説明されていく企画内容を細部までメモしていく。
そうして5分程度説明を受けた後に「いつもいつもすまないね!だけど今回も頼むよ!」と勝手に締めくくられ電話切られた。

一方的な電話に少し疲れながら、さっきもした気もするが、ため息混じりの深呼吸をする。

俺の仕事は基本的に営業の企画書を清書してより良いものにしていくこと。といえば聞こえはいいが、つまりは雑な企画書を作り直してマシなものにする、営業の尻拭いみたいな仕事だ。
しかも企画書を作り直した所で営業から感謝はされど手柄は全部営業がかっさらって行くのでコピーライターみたいな影の仕事だ。

でもそれでいい。
俺は元々現場の設営や対応の仕事をしていて、その次の人事で営業もやったがそれなりの成績をたたき出している。だが、1番気に入っているのは今の仕事だ。
変に肩ひじを張らず、頼まれた案件を自分のペースでこなしていく。
誰かと協力せずとも1人で完結する仕事。
だからこの部署だと本当に気が楽だ。

「さてやるか。」わざわざ口に出して気合を入れる。
誰かに指図されることも発破をかけられることもなく、今日も淡々と企画書と向き合っていく真柴だった。


『それでいい』

4/5/2023, 2:49:56 AM