つぶやくゆうき

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「ですので、この後に衣装替えをして雑誌の撮影となります。」
朝から長ったらしい説明を懇切丁寧にする君。
だが息を切らすこともなく慣れた口調で進めるものだから、思わず気を抜いてしまう。
「一応空き時間にデモテープを聴いておいてください。今回は奏多くんも気に入ると思いますよ、ポップ調でノリがいい感じでした。」
毎回、仕事前に必ずスケジュール確認をしてくれるのだが、有難いことに一日の大半は埋まっていて、それを順に説明するのだって容易なことでは無い。もちろん、君の言うことは否が応でも耳に入るので聞き漏らしはありえない。
「それと夕方の移動中に仮眠を取っておいてください。今日は深夜ラジオのゲストで呼ばれていますから。間違ってもゲームとかマンガとかで暇を潰さないように。」
気を抜いていても返事だけは忘れない。練習生時代に叩き込まれた習慣だから無意識でもタイミングはバッチシだ。だからこそ目が離せないし離す気もない。
「ところで、ちゃんと聴いていますか?ずっと虚ろな目をしてますよ。」
そう、どんな説明でも返事もすれば内容も聴き漏らさないのだからバレようがない。だからついつい見つめちゃうんだよな。

バシッッッ!!!!

「いった!!!」
ふと気づくと目の前には鬼の形相をしたマネージャーが手刀を振り下ろした後だった。
「えっなになに!どうしたの急に!?ちゃんと聴いてたよ!!??」
急いで弁明を始めてはみたものの、焼け石に水とはこのこと。
「こっちは朝早いから眠いのかな?とか憂鬱になる仕事でもあったかな?とか心配してたのに、奏多くん!また適当に聴いてたでしょ!気を抜いてたのバレてんだからね!」
そこまで言われるともう平謝りするしかない。
すいませんすいませんと頭を下ろして謝罪の意を示す。

「はいはい。いつも通りだからいいけどね。それじゃ今日も頼むよ!」
その言葉と同時に喝を入れる君。力加減など知らない右手は俺の肩を思いっきり叩いてくる。
「痛いよ、岩ちゃん!もうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃない?!」
少しだけ要望を伝えては見るが「聞いてない奏多くんが悪い。」と正論で返してくる。
それでも、仕事上の関係かもしれないけど、君といれる時間は大好きだ。
いつもありがとう。岩ちゃん。

そんな奏多くんですが、
(そんなに見つめられるとこっちも恥ずかしくなるじゃない。)
と小声でつぶやく岩ちゃんを聴き逃してしまうのもいつも通りでありました。


『君の目を見つめると』

4/7/2023, 3:34:49 AM